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夜明 奈央
2025-05-19 05:50:31
3937文字
Public
久々綾
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久々綾 学園の落とし穴が減っています
様子のおかしい喜八郎を心配する4年生たち cf.四年生の悩みの段 直接の続きではないが、
僕にはまだ早い
と同じ世界線(密会場所が同じ)
2025年5月18日初出
「最近、喜八郎の様子がどうにもおかしい」
放課後、俺の部屋に4年生を集めた滝夜叉丸はそう主張した。俺の他に招集されたのは三木ヱ門と守一郎。当然ながら喜八郎本人の姿はない。
言われて最近の喜八郎の様子を思い浮かべてみるが、俺はいまいちピンとこなかった。
けれど三木ヱ門は違ったらしく、すぐに滝夜叉丸に同意した。
「私もそう思う。最近喜八郎が穴を掘っているところを見ていない」
「そう言われてみれば
……
」
「そうかも?」
同じく気がついていなかったらしい守一郎と2人、宙空を見上げて記憶を辿る。
喜八郎はいつも同じところを掘っているわけではない。見かけないのは偶然かと思っていたが、確かに長らく見ていないかもしれない。
「そういえば、最近の用具委員ではあんまり落とし穴を埋めてません」
「あれ、用具委員が頑張ってるわけじゃないの?」
最近、落とし穴の数がなんだか減っているような気はしていたが、てっきり用具委員がせっせと埋めているのかと思っていた。もしくはたまたま運良く落とし穴エリアを通っていないとか。
しかし用具委員の守一郎はきっぱりと否定して首を振った。
「あの喜八郎が穴を掘っていないなんて、異常事態です!」
滝夜叉丸が自信満々に主張する。
「けど、たまにはそういうことも
……
」
「いえ、喜八郎に限ってそれはありません」
控えめに嗜めようしたが、三木ヱ門にも断言された。
「でも、そうだとして、どうしようって?」
俺がしおしおと項垂れていると、守一郎が先を促す。
滝夜叉丸はよくぞ聞いてくれたと守一郎をびしっと指差すと、こう宣言した。
「明日、授業が終わったら喜八郎を尾行する!」
俺は普通に本人に質問してみればいいんじゃないかと思ったが、「なるほど」「そうしよう」と盛り上がる面々を止める術を持ち合わせていなかった。
喜八郎はいないが、4年生みんなでこうして何かするというのもなかなかない。たまにはそういうこともあってもいいだろうと、みんなに付き合うことに決めた。
◇ ◇ ◇
翌日の放課後、一旦普段通りに解散し、こっそりと再度集まった。尾行されるとは思ってもみないだろう喜八郎は、愛用の踏鋤を担いで真っ直ぐに学園の外へと向かう。「学園内で見かけないなら外だろう」という滝夜叉丸の推理に従い、事前に外出届を出しておいたのは正解だった。
「しかし、踏子を担いでいるなら、やっぱりどこかで穴を掘っているんじゃないのか?」
バレないように距離を空け、こっそりと後ろを尾行けながら、三木ヱ門が疑問を口にする。違う場所で穴を掘っているというだけなら、そんなに心配することはなさそうだ。
それでも途中で尾行を辞める決定打には欠ける。せめて本当に掘っているところを確認したい。
やがて喜八郎は裏山へと入っていった。その後ろを俺たち4人でこそこそとついていく。
と、先頭を歩いていた滝夜叉丸が突然悲鳴を上げたかと思うと、足元が崩れた。回避する間もなく大穴が地面に口を開け、4人まとめて仲良く真っ逆様だ。
「いたたたたた」
「油断してた」
「重いです。退いてください」
「あっごめーん」
それぞれ好き勝手なことを言いながら体勢を整える。
穴の底から見上げると、丸く切り抜かれた空が見えた。地上は自分の背丈よりもずっと上だ。これは登るのに骨が折れそうだ。尾行の続行は難しいだろう。
「でも、これではっきりしたね。裏山で穴を掘ってるなら、心配することもないんじゃない?」
しかし、滝夜叉丸は顔に泥をつけたまま不思議そうに考え込む。
「喜八郎を追っているんだ。当然罠には注意していた。けれど気づかなかった。目印がなかったように思うのだが
……
」
「私も気にしていたが、なかった気がする」
「俺も気づかなかった」
三木ヱ門と守一郎も同意する。気づかなかったのはもちろん俺も同じだ。裏山は競合地域扱いで、どれだけ罠を仕掛けてもいいが必ず目印は置くルールのはずだ。
4人で協力し、どうにかこうにか落とし穴から脱出して周囲を確認したが、やはり目印らしきものは見つからなかった。単純に見逃したわけでもないらしい。
「これはいよいよおかしい。早く追わなければ」
気合を入れ直した滝夜叉丸の号令で、喜八郎の追跡を再開する。
が、喜八郎の姿はとうに見えない。穴に落ちる前まで向かっていた方向をなんとなく目指すが、追いつけなければどこかで諦めるしかない。
各々罠に注意しながら、小走りで木々の間を駆ける。
しばらくすると、林の奥を駆けていく人影が見えた。5年生の忍装束を着ているのはわかったが、個人の区別まではつかない。誰か鍛錬中なのだろうとなんとはなしに眺めていると、駆ける最中にひょいっとジャンプした。あれ、と思って隣の三木ヱ門に視線をやると、彼も目撃していた。
「今、罠避けてましたよね?」
「だよね?」
「まさか、たまたま目印を置き忘れていただけなのか?」
本人から「置き忘れた」だの「自分でもどこに仕掛けたかわからなくなった」だのと言っているのを聞いたことはあるので、ないとは言い切れない。故意か事故かの判断は難しい。
「ええーい! 本人に問い詰めればわかる!」
滝夜叉丸が叫んで一歩踏み出す。その途端、今度は突然ガチャガチャと鳴子が鳴り始めた。気をつけていたつもりだったが、またも罠にかかってしまったらしい。
「わ〜、待て待て、これでは気づかれてしまう!」
慌てて止めようと奮闘するが、数があまりに多い。少しでも触れれば連鎖的に全てが鳴るように仕掛けられていて、止めようと動けば動く程土壺にハマる。
繋がった紐をどうにか切断してけたたましい音が止んだ頃には、目の前に喜八郎が立っていた。
「おやまあ」
罠に掛かった俺たちをいつもの調子で見つめている。
「あはは」
笑って誤魔化そうと試みるが、これは白状するしかないだろう。俺は腹を括ったが、滝夜叉丸は俺たちにだけ聞こえるよう小声で「まずい」と言った。
「あいつは今、最高に機嫌が悪い」
「えっそうなの?」
言われてもう1度見直してみるが、ちっとも機嫌が悪そうには見えない。滝夜叉丸が言うからにはきっとそうなのだろうが、なんともわかりづらい。
「私たちが上手く罠に掛かったところなのに何故だ?」
俺と守一郎はともかく、三木ヱ門も驚いている。
「それはそうなのだが、機嫌が悪いのは事実だ」
「だからってどうするというんだ?」
「私に聞くな」
本人の目の前で分の悪い作戦会議を繰り広げていると、喜八郎の後ろから久々知くんがひょっこりと顔を覗かせた。
「何の騒ぎ?」
久々知くんの登場に喜八郎は特に驚いた様子もない。おそらく喜八郎は久々知くんがいることを知っていたのだ。順当に考えればさっき罠を避けていた5年生は久々知くんだろう。久々知くんだけ罠を避けられたことと喜八郎が不機嫌な理由を加味すれば、すぐに事情はピンときた。
2人は良い仲で、この先で会っていたのだ。
どうやら久々知くんが片想いしているらしいことには気づいていたが、まさか喜八郎もそうだったとは。本当にわかりづらい。いや、久々知くんがわかりやすすぎるだけかもしれないけれど。
「ごめんごめん。邪魔する気はないんだ。すぐ帰るよ」
そうとわかればすぐにでも去った方がいい。みんなに撤収を促すと、三木ヱ門も事態を理解したようだった。
「そ、そうだな。私たちはもう帰るとしよう」
「待て、なぜそうなるんだ!?」
「え? え?」
滝夜叉丸と守一郎はまだ理解できていないようだったが、俺と三木ヱ門で強引に引っ張っていく。話が聞こえないところまで離れると、ようやくひと息つけた。
「心配する必要はなかったみたいだね」
「そうですね。正直意外でしたが」
三木ヱ門は同調してくれるが、未だ信じられないといった風だ。
「待ってください。どういうことです? 今のどこに納得する要素が?」
「俺もよくわかりません」
滝夜叉丸と守一郎に説明を求められ、三木ヱ門と顔を見合わせる。あまり言いふらすようなことでもないが、このまま有耶無耶にして納得してくれそうでもない。
「あー、だから、つまり
……
2人はあそこで会ってたってことで
……
」
「
……
ああ! だから密会相手の久々知先輩以外は近づけないように罠を仕掛けていたのか!」
「そういうこと!」
「しかし、それと喜八郎が学園で穴を掘っていないこととどう関係があるんです?」
「裏山で掘ってるんだから、自然と学園で掘る頻度も減るに決まってるでしょ」
「それは
……
そうですけど
……
」
完全に理解したわけではなさそうだが、どうにか納得はしてくれたようだ。これ以上はっきりとしたことを聞きたいのであれば、本人から直接聞いた方がいい。おそらく間違いないだろうが、もしかしたらまだ秒読みくらいかもしれないし。
未だ疑問符を飛ばしている守一郎には三木ヱ門が「後でゆっくり説明してやる」と肩に手を置いた。ひとまずこの件は解決である。
学園への帰り道をぞろぞろと歩きながら、空を見上げる。雲ひとつない晴天で、裏山での逢瀬にはぴったりだった。こんな日に邪魔をしてしまって本当に申し訳ない。
申し訳ないと思っているのは本当に本心だけれど、好奇心がむくむくと刺激されるのも事実だ。少し前まで話しているところもほとんど見かけなかったのに、いつの間にあんなところで密会する程仲良くなったのだろう?
喜八郎はわからないけれど、久々知くんなら良い反応をしてくれそうだ。次の委員会が、今から楽しみだった。
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