ボツネタ

シナリオネタバレなし

すみわか自陣 聖.杯.戦.争パロ




 202X年11月下旬。本格的に冬が訪れ、冷え切った風が人々の肌を撫でる時期。オレが違和感に襲われたのは、恋人と親友で小さな宴を開いていた最中だった。

 自分は芸人として、僅かながらも知名度が上がり始めた頃。恋人はバーテンダーとして、確実に人気を集め始めた頃。親友は医者として、新人を卒業する少し前の頃。
 自分たち三人は小学校からの幼馴染であり、何かと頼り頼られを繰り返す間柄だった。住む場所や働く場所は遠くとも連絡を長く絶やすことは無く、その日も仕事を調整して集まり飲み会を自分と恋人の家で開催していた。


「カンジ、どうした?」


 突然の違和感で呆然とするオレに声を投げたのは、新しい料理を運んできた恋人……ソウゲツ。彼は一般的に無表情へ部類される顔を向け、こちらを心配している。ドップリと深い蒼の双眸が、オレを……カンジを反射していた。


「調子悪いの? 最近冷えてきたし、体には気を付けてね」


 ソウゲツの作ったカクテルを煽りながら、対面に座る親友……アサヒが首を傾げる。頬を僅かに赤らめているものの、酔い潰れる様子は無い。鮮やかな赤の瞳には、分かりにくいが気遣いの色が宿っている。


「あー……すまん、なんや違和感があって」

「違和感? それって体調的な意味で?」

「いや、なんちゅうかもっと、別のやつ」

……料理はいつもの手順と材料で作ったが」

「え? あっ、ちゃうちゃう!
 ソージのご飯はいつも通り美味かったで!」


 微かに曇ったソウゲツの顔色に、オレは慌てて訂正する。しかし違和感の明確な正体も掴めず、言葉を途切れさせた。やがて薄れていく違和感、しかし完全に消えるには至らない。目を閉じて、深く考える。

 奇妙な心地の悪さ、気の所為と片付けるには厄介な異物。いや違う。異物が日常に入り込んだのではなく、日常に小さな穴が空いた感覚。何かが足りない。何かが欠けている。何かを忘れて、何かを失っている。そんな気がする。気がするのに、確信ができない。


…………いや、飲み過ぎたんかもしれん。今日はもう寝るわ」


 安心させるように笑えば、二人は揃って眉間にシワを寄せる。上手く笑えていなかったのだろうか、嫌に自分らしくない。確かに、笑わせることが好きな自分にしてはぎこちない笑みだったかもしれない。
 窓をチラリと覗けば、雲一つない星空が広がっている。点在する煌めきと、痩せ細った月。その下で強く輝くのは、人工の光。日付が変わる近くだというのに、未だ眠る様子を見せない都市。

 何故だろう。やはり、違和感がある。大量に飲みすぎたせいなのか、冬の冷たさに調子を狂わされたのか。なんにせよ今の自分は、言語化できない異常を訴えている。なれば明日からは、その異常を取り除くために動いてみよう。ちょうど昨晩からまとまった休暇をとっている。調査に問題は無いだろう。


 持っていた空のグラスを、机に静かに置く。三人分の料理とグラスが並ぶ卓上には、少しの物足りなさを感じた。