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kaede
2025-05-07 12:42:27
3153文字
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燐音くんと一緒に寝てた一彩くんの明け方のはなし
⚠️普通に一緒に寝てるだけです
⚠️前回上げたはなしの一彩くん視点です
⚠️前回の
https://privatter.me/page/680dc5d35a46e
ふと目を覚ます。
部屋の明るさ
……
というよりも暗さから、日が昇る少し前くらいだろうか、と見当をつけながらふと隣に人の気配を感じて寝返りを打つと、兄さんが眠っていて一瞬、混乱した。
……
ああ、そうだ。昨日は兄さんの部屋で、兄さんのベッドで夜遅くまで話し込んで、そのまま。
そのまま、一緒に寝たんだった。僕があくびをしたら、そろそろ寝るかァ、と兄さんが僕に布団をかけてくれて、そのまま。
いつだったか、いわゆる寝落ちというやつをやらかしてしまって、兄さんの部屋で朝を迎えたことがある。それからだ。それから、兄さんは僕に、そろそろ部屋に戻れ、と言わなくなった。僕も、そろそろ帰る、と言わなくなった。
帰らなければ、昔みたいに一緒に眠れる。それが、嬉しかったから。
多分昔よりももっと、嬉しいから。
だって昔はこんなふうに、兄さんの寝顔をゆっくり眺めるなんてこと、できなかった。一緒に寝ることだってほとんどなかったし、たまに兄さんがこっそり僕の寝床にもぐりこんでくることはあっても、僕が目を覚ます頃にはもうとっくに身支度を整えたあとだったから。
そのことを、兄さんの立場を考えればそうあるべきことを、不満に思ったことはないけれど。
でも、残念だ、とは、思っていたと思う。
目を閉じると少し幼くなる兄さんの顔をゆっくり独り占めできて、あの頃、もう少し兄さんといたい、と思っていた幼い僕の気持ちがやっと満たされたように思えるから。幸せが僕の心の裏側をくすぐっているような気持ちになっているから。
つい。ふふ、と声が漏れてしまって、慌てて残りを飲み込んだ。兄さんの丸く柔らかな寝顔を崩すわけにはいかない。
……
頬に触れたら、起こしてしまうだろうか。
「
……
ひーろ?」
「ウム。おはよう、兄さん」
朝、と言うにはまだ少し早いから。まだ周りの空気が眠っているから、世界を起こさないよう、小さな声で挨拶する。
兄さんは僕が何かしらする間もなく目を覚ましたけれど、眩しそうに何度も目をぱちぱちしていたから、まだ半分、寝ているのかもしれない。声もふにゃふにゃしているし。
「ひーろぉ」
笑った顔もふにゃふにゃだ。全然締まりがない。
でも僕にはその顔が、愛おしくてたまらなかった。兄さんの一番脆いところを見せてもらえているような、許されているような気持ちになるから。
だから。そんなことを思って僕もふにゃふにゃしていたから。
顔を寄せて僕のくちびるにキスをして。
「
……
間違えた」
と、やけにはっきり言ったあと、ぱたんと目を閉じた兄さんに、びっくりしてしまった。
「
……
誰と?」
少しのためらいを呆気なく振り解いてそんなことを言っていた自分にも、ちょっと驚いた。
誰と?
僕はどうしてこんな質問をしたんだろう。
「あ?」
兄さんの目がふたたび開く。
今度は、さっきとは違って、比較的はっきりした眼差しをしていた。
それでもやっぱり覚醒したわけではないんだろう。僕の質問の意味を解釈するのに手間取っているみたいな、不安定な沈黙のあと、うっすら笑ってこう言った。
「寝ぼけてた」
「寝ぼけてた?」
「そ。だから、間違えた、って思った
……
いや、お前がそう訊いたってことは、口に出してたのか」
なるほど。
つまり兄さんは、自分がそれを実際口にしたかどうか、確信が持てない。でも、僕が嘘を言っているとも思っていない。僕を信じてくれている。そういうことなんだろう。
それはとても嬉しい。嬉しいよ、兄さん。
でも。
「
……
つまり兄さんは、夢の中の相手と僕を間違えた、ということ?」
そういうこと?
僕ではない誰かにそれをしたのに、夢から覚めたら相手が僕だったから、間違えた。
そういうこと?
そういうことなら
……
そういうことなら、僕は。
僕は、なんだろう。この、すっきりしないモヤモヤした気持ちは。
早く、どこかに行ってほしい。
そんなふうに、僕にもよくわかっていない気持ちなのに。
「あー
……
間違えたっつーか
……
」
まるで僕の心のざわざわをなだめるように兄さんが微笑んで。手が伸びてきて。
「嫌だったよな。ごめんな」
僕の頬に触れるかと思ったら、髪の先で小さく跳ねる。そういう、気配がする。それから、ゆっくり、僕の頭に降りてくる。
「嫌ではないよ」
兄さんに撫でられるのは好きだ。
でも。いつもはこんな、遠慮がちな撫で方しないのに。大事な宝物みたいに頬を撫でてくれるのに。
そうしないのは。
「ただ、誰と間違えられたのか気になっただけで」
僕が兄さんの大切な誰かではないから?
変だ。
僕は、どうしてそれが、それだけのことが、こんなにも気になっているのだろう。だって、兄さんに、僕より大事な人がいたって、それは何もおかしなことではないのに。
あ。
兄さんの手が。
兄さんが、僕の頬を。
嬉しい。
兄さんが僕だけを見て、僕だけに笑ってくれるのが、とても。
兄さん。
「そっちじゃなくて
……
いやそっちもそうなのか。ごめんな」
「そっちも?」
兄さんの謝罪の意味がわからない。
兄さんは僕の疑問には答えないで
……
というか、答える必要性が兄さんにはなかったんだろう。兄さんの中では全部、完結していることだから。僕の回答が入り込む余地なんてない。
僕も眠いんだろうか。とりとめない思考が止まらない。確かにまだ、起きるには少し早い時間だ。とはいえ、このまま起きてしまっても支障はないけれど。いや、兄さんと同じ布団にいられる時間が減るから、そういう意味では支障がある、とは言えるかもしれない。
兄さんはだんだん、眠そうな顔に戻ってきている。
「つーか、なんでそんなに気にしてンだ?」
「なんで、と言われても。気になるから、としか答えようがないよ」
「俺がお前と誰を間違えてキスしたのか、が?」
「ウム
……
」
兄さんの笑い方はどこか困っているようで、きっと、僕のせいだ、と思った。
僕がこだわっていることがあんまりにも自分勝手だったから、呆れたんだ。
馬鹿な弟だ、と。
僕は馬鹿だ。
兄さんがキスした相手が僕でないことをこんなにもこだわるなんて。
こだわったって仕方のないことなのに。
でも、僕は。
「
……
兄さん?」
「んー?」
「おねむなのかな」
「んー
……
」
兄さんは返事なのか、単に子供みたいにぐずっているだけなのか、判断しづらい声を開上げて、明らかに眠そうな声で言った。
「いまなんじ」
「ええと
……
五時半を過ぎたところだよ」
「ンだよ、じゃあまだねれるじゃん
……
もうちょい
……
」
兄さんの手が僕の背中に回って、それは合図だったから、兄さんの方へ身を寄せる。
都会に来るまで知らなかったけれど、兄さんはあまり寝起きが良い方ではないらしい。二人で眠って僕が先に目を覚ました時はほぼ、布団から出たがらない。
僕を抱きしめて、離さない。
僕は目覚めが良い方だから、布団の中で無意味にごろごろすることはないけれど。
でも、兄さんに捕まるのは、好きだ。
なぜなら僕は兄さんを
「あいしてる」
まるで僕の心を見透かしたような、寸分の狂いもないタイミングで、兄さんが言う。
何とかかたちを保っているだけの、今にも崩れそうな声だったけれど、確かに、そう言った。
「
……
ウム。おやすみ、兄さん」
寝入りばなの兄さんをびっくりさせないように、子守うたみたいにあいさつして、それから僕は兄さんのくちびるにキスをした。ぼくにはまちがえようがないから。
だれかなんていない。
あなただけだよ、にいさん、あいしてる。
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