ゆの
2025-05-05 23:18:07
3417文字
Public あつむとあの子
 

【6/15サンプル】夜が明けても解けない魔法

2025年6月15日 星に願いを 2025 -day1-内 繋ぐ夢と想い 星願2025 で頒布予定の侑短編サンプルです。
かけらの紡ぎの侑視点の幕間集となります (かけらも頒布予定です~!)
全8話(内1話はここでログ限で公開しているお話です) 52ページ 価格¥300~¥400予定 タイトルはお題をお借りしています。夢主デフォ名有。

部数アンケートにご協力いただけますと嬉しいです。
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→締め切りました!ご協力ありがとうございます。



朝にはもう一度魔法をかけて


人通りのまだ多い通学路であ、と思う。人中でともすれば埋もれてしまいそうなのによく見つけられたなと自分でも改めて感心する。
久しぶりに見た制服姿に何となく違和感を覚えてまじまじと向こうに見える背中を見ていたら、横からきっしょ、と心底腹立たしい声が聞こえた。
……なんやねん」
「そんなじろじろ見とらんで話しかけに行けばええやん」
「うっさいねん、ほっとけ!」
いつもの調子でああだこうだ言い合いながら歩いていたら、いつの間にかだいぶ前を歩いていたはずの真嶋に追いついたらしい。ほんの少し前を歩くその背中にやっぱりなんかちゃうなぁと首をかしげなから近づいた。
「はよ」
「うぇ……びっくりした!」
「こっちの台詞やわ、まだ寝とるん?」
「めっちゃ起きとる……けど奇襲はやめてもろて!」
「ごめんて、でもこけたらまた助けたるから安心しい」
声をかけながら久しぶりだしちょっと頭でも撫でとこ、くらいだったはずだが思ったよりも勢いがよかったらしい。よろけた真嶋がんもう、と不満げな声を出して見上げてきた。その姿がおかしくて笑いながら先行くでと声をかけて歩き出すと、少し遅れて隣に並んだ治が憐みの目を向けてきた。
「お前……小学生か?」
「ハァ⁈ 何がや‼」
「そういうとこがや」
ダサ、と言い捨てて前を行く治に蹴りを入れたら当然のように三倍返しで反撃をくらう。なんでやねん。
そのまま治とどつきあいながら学校までの道のりを歩いてきたら、そこそこの人数に見られていたらしく、教室に着くまでになんやかんやと声をかけられて、アランくんと赤木さんには信介に見つからんでよかったなぁと笑いながらとどめを刺されてぐったりとしながら席に着いた。
そのまま机にだらりともたれてうとうとしながらまだ隣には来ない、さっき見た小さな背中を思い出す。
何やろう、何がちゃうかったんやろ。あと少しで分かりそうでわからないその何かを考えながら目を閉じた。

――遠くで誰かに呼ばれているような気がした。誰やねん、もうちょっとでわかりそうやのに邪魔すんなや。そう悪態をつこうとしたその瞬間、肩に何かが触れた。細くてやわこい感触とひどく熱をおびたそれ。そしてさっきよりも近くではっきりと聞こえた自分を呼ぶ声。
……っなん、……あ」
「ごめ、あの、ホームルーム始まるから……
あかん、今完全に寝ぼけとった。勢いよく起き上がったせいで教室中に広がるあいつらどうしたんみたいな空気と、よほどびっくりしたのか口を薄っすら開いたまま固まってもうた真嶋の顔に居た堪れなくなって、すまんと声を落として前を向いた。
俺の方がびっくりした。いつもと――夏休み前と同じはずなのに、肩に触れた指の感触がまだ熱くて未だ心臓が落ち着かない。こんななっとるの俺だけなんか? と真嶋に視線だけを向けると何ごともなかったみたいな顔で前を向いて話を聞いていた。マジか、こいつ薄情か。そろそろもうちょっと俺のことを意識してもええんちゃう? と思ったところでふと気付く。違和感の正体はこれかとやっと胸につかえたものが取れた気がした。
あとで声かけてみよ。そんなことを考えて少しだけ気分を良くして前を向いた。


そう思っていたのに朝のあれ以来何となく話す機会もなく、気付いた違和感の答え合わせも出来ないまま気付けばもう帰り前のホームルームが始まっていた。
え、嘘やろ朝以来真嶋と喋ってへんくない? 隣の席におってそんなことあるん? そう思って隣を見ればやけにそわそわとした顔をしていた。ああ、今日はいつもより早よ帰れるからその分練習できるもんなぁ。そう思うとこっちもつられて急に早よ終わればええのにと焦れったくなった。
さてこれで終わり、というところで担任が思い出したように明日席替えするからなとのんきな声で言った。マジか。そら席が離れたくらいでまた話をしなくなるとか気持ちがなくなるかそんなことはないやろうけど。……たぶん。そう思いたい。けれど。
……したないなぁ」
「えっ」
しもた、うっかり本気の本音が出てもうた。そしてそれを拾うな。いやまあええか、ちょっとは察しろ。そう思って今のまんまでええやんかと続けたら後ろやしねぇと笑う。
マジか。ある意味予想通りの返答で一瞬言葉に詰まってしまった。全然察してくれへんやん。いや薄々察してたけどほんまこいつ鈍すぎるやろ。それとももしかして試されとるんか……? と思いながらその顔を見ていたらなん? と小さく首をかしげてきた。ほんまに腹立つ。可愛さ余って憎さ百倍やんかこんなん。
……そういえば、これ」
「っ……な」
その反応が見られただけで大成功やとほくそ笑んだ。
夏休み中に会った時よりも少しだけ短くなった髪を一筋つまめば、何も言えずされるがままに固まった真嶋の顔を見て自分の表情筋がこれでもかというくらいに緩むのが分かった。
夏休み前、無意識に触れようとした時とは違って意志を持って触れた手が拒絶されなくてよかったという安堵と、これでちょっとは何かしら意識したやろという確信。
絶対に、これがうぬぼれだなんて言わせへん。その証拠に顔を赤くして黙ってしまった真嶋は戸惑ってはいるけれど嫌だという顔はしていなかったから。
つまんだ毛先を指先に絡めて遊ぶ、この時間がずっと続けばいい。できるならもっと触れたい。そう思うのはきっと、触れられた肩がずっと熱を帯びたままのせいだ。
指先に絡めた髪がするんとはじけるようにほどけるのを見ながら、その熱が目の前でされるがままで固まったこいつにも、もっと伝わればいいと願った。