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ぷの
2025-05-01 08:36:37
13960文字
Public
レイチュリ ※ベ限
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作って食べる小話
わいわいご飯を作って食べる🥫のお話まとめ。
レイチュリかな? たぶんそう。
P1 - 🍣♻️と🦑(祝・回転寿司コラボ)(2025/5/1)
P2 - 🍔(2025/9/18)
1
2
【🍣♻️】
🥫4人で🍣♻️に行く話
回転寿司というのは、江戸星で古来より伝わる由緒正しき飲食店の形態らしい。この度、あちらでは有名な回転寿司の大型チェーンをピアポイントに誘致する運びとなった。
その大型チェーンはかつてピアポイントに出店したものの売り上げが伸びず、撤退したことがあるらしい。先方は渋っていたけれど、現地法人をカンパニーと共同で作る話をしたら、とんとんと初号店を出すところまで漕ぎ着けた。その店舗のプレオープンに株主であるトパーズが招待され、ジェイド、アベンチュリン、レイシオが株主様から誘われた次第である。
「仕入れにすごくこだわって、江戸星と同じレベルのネタを入れてるの。価格もちゃんと押さえてね。ピアポイントでも絶対当たるよ」
物言う株主にとどまらず、息のかかった人間をコンサルタントとして送り込んだトパーズは、自信満々である。
「お寿司なんてそんなに量を食べられないだろ。儲けが出るのかい?」
「お寿司以外のメニューもあるし、そこは抜かりない。食べながら原価率を想像してみて。後で種明かししてあげる。びっくりするんだから」
「いいのかい、簡単に手の内を見せて」
「知っても簡単には真似できないからね。ただし、種明かしは食べたものだけだよ」
「楽しそうね」
トパーズから情報を献上されて前もって全てを知っているジェイドは、艶然と微笑んだ。今自分たちがいる待合室は、店内と同じくファミリー向けのカジュアルな内装である。だというのに、そこだけ高級ホテルのバーであるかのような錯覚が起こる。
「坊やはあまり食べられないでしょうから、教授に手伝ってもらうといいわ」
パッとアベンチュリンの顔が輝く。レイシオの顔を見ると、力強く頷き返された。
「魚介は得意だ。好き嫌いもない」
「頼もしいね」
トパーズは不満そうだけれど、ジェイドの言うことに逆らったりしない。未経験の形態の店でアベンチュリンをびっくりさせるというなら、こちらはレイシオの底無しの胃袋で度肝を抜いてやろう。
「ふっふっふ」
「ふふっ」
火花を散らすアベンチュリンとトパーズを、ジェイドとレイシオは微笑ましく見守っている。
六人掛けの一番広いテーブル席に案内されて、ジェイドとトパーズ、アベンチュリンとレイシオがそれぞれ並んで腰かけた。
「あのレールをお皿に乗ったお寿司が通って店内を巡回するの」
それで、回転寿司というわけか。幅十センチほどのレールが高低差をつけて店内にぐるりと敷設されている。駅のようにレールに接した各テーブルは、招待客たちで満席になっていた。遊園地のアトラクションのような見た目に、招待客の子供たちがはしゃいでいる。レールの上にはすでにお寿司が流されていた。目測で秒速四センチメートル。その姿はまんまベルトコンベアだ。クリアなケースに包まれたお寿司は、テーブルに用意された専用の読み取り器を当てなければ開かない。
「ライン作業員になった気分が味わえるとはね」
「やってみなさいよ、楽しいんだから」
トパーズの勧めで、レール側にはアベンチュリンが座っている。向かいはトパーズだ。遊び心溢れる空間に、ジェイドとレイシオがいる違和感がすごい。なんでも、回転寿司ではレール側が下座なのだそうだ。食器類はここ、調味料はこっち、この穴から食べ終わったお皿を回収する。説明を受けながらお茶を淹れ、皿と箸を配った。確かにいろんなものがレール側にコンパクトにまとまっていて、通路側のお世話をしていたら少々せわしない。
注文用の端末を渡されたレイシオは、メニューを眺めて「ほう、やるな」などとぶつぶつ言っている。やる気が漲っているようでなによりだ。
「奥にある、何も流れてないレールはなんだい?」
「特急レーン。注文したものが各テーブル宛に素早く届くの。イベントで作りたてを出すときにも使うんだ」
「イベント?」
「今から始まるから見てて」
トパーズの言葉を合図にしたかのように、店長とおぼしき男性がカランカランと手持ちの鐘を鳴らして店内の注目を集めた。レールの輪の中、一段高くなった舞台のような作業台に分厚く広いまな板が乗っている。そこに、大きな魚が運ばれてきた。つやつやと黒光りする魚体の上で、着物風の作業着に身を包んだ従業員が刃渡りの長い包丁を振りかざした。
「四十キロはあるな。鮮度がいい」
「さすが教授! 今朝水揚げされたものなんです」
レイシオの感心した様子に、トパーズが得意気に答えた。アベンチュリンは原価率の参考にするため、自分の端末のメモ帳を開いて控えた。店内の壁にかかった大型モニターには、魚を捌く手元が映っている。その横には部位ごとの特徴などの解説が字幕で添えられている。
「鮪の解体ショーをまずは見て楽しんで。次に鐘が鳴ったら注文タイム、早い者勝ちだよ」
大きな魚をさくさくと切り分ける手際が見事だ。アベンチュリンがよく手入れされた包丁の切れ味に注目する一方、半分に開かれた身の血のように赤い肉を見てレイシオが「ほう」と声を漏らす。
「血合いもおつまみで出しますよ~。新鮮だから、臭みが全然ないんです」
「お酒、今のうちに注文しておこうか」
「頼む」
解体ショーに目が釘付けのレイシオは、アベンチュリンを見もせずに短く即答した。タッチパネルを操作してドリンクメニューを眺める。斜め向かいからジェイドの手が伸びてきて、コツコツと指先で画面を叩いた。識者おすすめのお酒なら間違いない。こうなるから、日中でなく夕方からの開催だったのか。
やがて、二度目の鐘が鳴らされた。アベンチュリンはレイシオに端末を渡した。レイシオは真剣な目をして次々と注文を入れていく。その様を、届いた酒をちびちび舐めながら眺める。
赤身、中トロ、大トロ、中落ち、カマ、頬、頭、それにトパーズ一押しの血合い。
「部位でそんなに味が違うものかい?」
「全然違う。本鮪のなんたるかを教えてあげるから、君も一通り食べて」
「鮪だけでお腹いっぱいになっちゃうよ
……
」
軟弱者と舌打ちでもしそうな顔でこちらを見るトパーズに、アベンチュリンは思い出した。そうだった、彼女の胃袋もレイシオのように底無しなのだった。小さな体のどこに入るのかさっぱりわからないが。
注文したものが届き、レイシオとトパーズがもりもり食べる。そしてまた注文する。アベンチュリンとジェイドは二人が頼んだものを横から摘まみながら、主に酒を飲む。
空いた皿を穴に落とす手の休む暇がない。トパーズは食べる合間に器用に解説をするから、メモを取るのも忙しい。
「君たち、実はお腹に原子炉があるのかな? もうどれだけ食べたんだか」
アベンチュリンのオムニックジョークをレイシオは聞き流し、トパーズは一ミリも膨らんでいない自分のお腹をポンと叩いて肩をすくめた。
「鍛えてるから。注文履歴は端末で確認できるよ」
今日は株主優待なので、お会計は無料だ。メニューの価格表記は全て準備中になっている。「累計を皿で見る」という謎のボタンをタップしたら、テーブルの真ん中に皿を重ねたタワーの3D画像が出現した。アベンチュリンは、半透明の塔を下から上へ見上げた。雲を突くような威容は天井の向こうまで続いている。どこかのテーブルからパラパラと控えめな拍手が送られた。
「わあ、天罰の雷を落とされそうだ」
「あれ、はみ出ちゃってる。改善点を見つけてくれてありがとう」
「変えなくていいんじゃないかな、登頂が目に見えて達成感がある。一卓でこんなに食べることはほとんどないだろうし」
「なるほど、一理ある」
レールの高低差や中央の舞台が小高い分、ここの天井は一般的な飲食店よりも高い。大食いの猛者を六人揃えれば天井超えを狙えないことはないけれど、簡単ではないだろう。ほとんど二人で積み上げたレイシオとトパーズの食べっぷりがおかしいのだ。しかも、まだ食べる気でいる。当然、今日用意されているメニューは全種制覇済みである。レイシオはきっちりと仕事をしてくれた。
「プレオープンだっていうのに、しっかり種類と量を準備したんだね」
「そりゃ、私が満足するまで食べるつもりだから」
「教授、トパーズに釣られて無理しないで」
「まだ入る」
アベンチュリンは唖然とした。知ったつもりでいたレイシオの限界は、遠慮された偽物だったらしい。レイシオはメニューにない調理法が可能か、トパーズに相談している。「いいですね!」じゃないんだよ。ノリノリで店長を呼んだ物言う株主は、相手が冷や汗をかいているのをわかっていて無視している。
「止めてあげなよ、ジェイド」
「想定されるトラブルを事前に経験しておくのは悪いことじゃないわ」
いいのかい、トラブルって言われてるよ、トパーズ。
可哀想に、解き放たれた巡狩の猛獣たちを前に、店の在庫は生き残れるのだろうか。アベンチュリンはそっと酒の注文を追加した。
【🦑】
🦚が🍣を握ったりする話
回転寿司でたらふく食べたから、しばらくは生の魚も酢飯も見たくないんじゃないかと思っていた。アベンチュリンはベリタス・レイシオの探求心を見くびっていた。
打ち合わせから戻ると、珍しくレイシオとトパーズが二人で立ち話をしている。なぜか、アベンチュリンのオフィスの前で。
「こんなところで何をやってるんだい?」
「発注だ」
「君が、トパーズに?」
「調べたら、彼女が持っている養殖場が一番近く、生きたまま仕入れられるとわかった。寄生虫もいない」
「なんの話?」
「イカだ」
「いか」
天然のイカは寄生虫が付いていないことの方が稀らしい。コストをかけて排除するメリットがあるのは食用の養殖だろう。アベンチュリンはイカのパスタやパエリアを思い浮かべた。虫がついていないものを、生きたまま。加熱して食べるものにそこまでの安全と鮮度が必要だろうか。トパーズに向けて小首を傾げると、なぜかドヤ顔を返された。
「その顔は、生で食べたことがないんだね。君は人生を損してる」
「いくらなんでも大袈裟じゃないかな?」
アベンチュリンは砂漠の生まれだ。流れ流れて今の環境で生活するまで、海も海産物も見たことがなかった。
トパーズだって、急激な工業化でひどく環境汚染された星で育ったと聞いた。近年まで海産物を口にしたことはなかっただろう。いわく、天然のものを食べるのは自殺に等しく、味がどうこうなんて平和な代物じゃなかった。食べてすぐ死ぬか、体に毒を溜めて苦しみながら死ぬかの違いしかない。動植物もだけれど、そもそも水が汚染されていて、川や井戸から汲んで飲食に使うなんて考えられない。だけど、安全な飲食物を買えない貧しい人々は危険を知りながら口にするしかなく、痛ましいニュースが後を絶たなかった。
いつだかトパーズは「頭に来る」と言っていた。自然豊かな場所で、現地の人たちにとって当たり前の天然の恵みでもてなされたとき、頭ではわかっていても体がいちいち警戒することを。故郷で刷り込まれた恐怖をいつまでも克服できない、弱い自分が嫌だとぼやいた。トパーズの矜持は怯えを表に出さなければよしとはならず、持つことすら自分には許さない。自分以外の弱さには寛容で優しいのに。
だから養殖に手を出してみたのだろうか。安全をしっかり担保して、美味しい海産物を先入観なしに食べられるように。そうして徐々に慣らして、囚われている過去から抜け出せるように。
「イカはストレスに弱くてすぐ死んじゃうから、養殖が難しいんだよ。うちのは特許製法で肝をほどよく太らせてて美味しいよ~」
アベンチュリンは考え直した。ただイカの生食にハマっただけだ、これ。
「食べてみてほしかったけど、この前の回転寿司では欠品だったからね
……
。そうだ、教授、今日お時間あります? 夕方から試食会しませんか」
「ほう」
「君も食べてみたいでしょ、ひとっ走りして持ってくるね」
「は?」
「作業場を押さえて待ってて。すぐ戻る」
トパーズは時計を見て集合時間を一方的に告げるなり、「じゃ!」と片手を挙げて駆け出した。なんだその行動力。
巻き込んでごめんと謝ろうとしたアベンチュリンに、レイシオは言った。
「では僕らは、酢飯を用意しておこう」
「うん、ほんとにごめ
……
え?」
やる気満々だ。どうやら、巻き込まれたのはアベンチュリンだったらしい。
カンパニー本社ビルの別棟にひっそりとある作業場は、水と火が使えるキッチン兼実験室のような場所だ。換気がしっかりしていて、多少の危険物の取り扱いも可能。なにかと便利だが、この部屋の存在は隠されていて、使用する権限を持つ人間がごく限られている。戦略投資部での主な用途は、薬物を盛った飲食物等の作成。他の部の使い方も推して知るべし。
そんな場所で、レイシオが大きな鍋でご飯を炊いている。コンロの火力を褒められたけど、喜んでいいところかわからない。言われるがまま道具を揃えていると、買い物を頼んだ部下が戻ってきたので、建物の外に迎えに出た。
「退勤後におつかいさせてごめんね、ありがとう」
「ついでに自分の買い物も済ませたので、たいした手間じゃありません」
「君も食べていくかい?」
作るのは寿司だ。建物の中で一緒にとはいかないが、外にあるベンチで振る舞うことはできる。
「お構いなく」
ふふふと笑ってすげなく断られた。先に急ぎで米を買ってきてくれた別の部下にも同じように振られている。アベンチュリンが信用ポイントを振り込むと、「いいお小遣い稼ぎになりました」と笑顔で帰っていった。
中に戻ると、コンロの火が落ちていた。
「炊けた?」
「蒸らしている」
差し出された手に買い物袋を渡す。レイシオは突き出た緑の葉っぱを見て目を細めた。
「いい大根だ」
「ツマにするんだろ、余るよね」
「米の研ぎ汁をとってある。残りは煮物にしよう。葉は浅漬けにして箸休めに。大根と醤油以外にも色々入っているようだが、君が頼んだのか?」
「僕にそんな知恵はないよ。イカの試食会だって言ったら、おまけで買ってきてくれたんだ」
買い物袋の中身をあらためたレイシオに、君の部下は気が利いていると褒められた。全面的に同意なので頷いた。
「こうなると、全部を酢飯にするのはやめておくか。それとも、もう一回炊くか
……
」
「すでに五合炊いてるよね。メインはイカだけだろ?」
「寿司はもちろん、焼き物と煮物も白飯とよく合う」
「忘れないで、試食だよ。そんなに量はない」
「お待たせ! たくさん持ってきたから、色々できるよ~」
タイミング良くクーラーボックスを担いで現れたトパーズは、暑い暑いとライダーススーツの前をくつろげ、とびきりの笑顔で親指を立てた。そういえば、彼女は中型二輪を乗りこなすんだった。ひとっ走りの距離感がアベンチュリンの想定を超えている。
「せっかくだから何種類か持ってきたかったのに、都合でスルメしかなくて。私が運んだから保証できないけど、何匹かは生きてるはず」
トパーズが開いて見せたクーラーボックスをレイシオとアベンチュリンが覗き込む。専用の梱包で運ばれたものの、生きているのは二匹だけだった。数えたレイシオが嬉しそうに目を輝かせた。試食のボリュームもアベンチュリンの想定を超えている。
「生き残りを刺身に、二杯を姿焼きに、一杯は丸々肝と焼こう。残りは寿司だ。エンペラと下足は煮物」
「異議なし。今日は食べられませんけど、余る肝はルイベにしませんか? 完成したらアベンチュリンに預けておくので受け取ってください」
「素晴らしい提案だ」
エンペラ? ルイベ? 疑問丸出しのアベンチュリンの顔を見て、レイシオが簡単に説明してくれた。両手で三角形を作る姿がちょっと可愛くてグッときた。
特に打ち合わせなどなく、レイシオとトパーズは各々の担当食材と作業場所を決めて動き始めた。二人の頭の中でどんな段取りが組まれたのか、レイシオと一緒にキッチンに立つとき手より口を動かす助手でしかないアベンチュリンにはさっぱり見えてこない。
「君たち、もしかして相性いい?」
「ヤキモチは後で。早く調理しちゃいましょ」
レイシオに指示されて、蒸らし終わったご飯をざっくり分け、片方は保温、残りに調合した寿司酢を混ぜて冷ます。アベンチュリンが酢飯を構っている間に、エプロン姿に着替えたトパーズがさくさくとイカを捌き、レイシオが大根をツマと煮物の形に解体していく。煮物用の本体を下茹でしている間に、大根の葉が面取りで削ったはじっこと一緒に漬物にされた。
「料理するんだね、トパーズ」
「下っ端の頃は節約生活だったからね。ストレスが溜まるとわーっと食べたくなるの。量が欲しいときは自炊に限る。調理もストレス解消になるし」
レイシオが頷いている。アベンチュリンにとって料理はただただ面倒だ。手際のよい二人を見るに、ストレス解消の域に達するには経験不足のようである。
端末が震えて、ジェイドからメッセージが届いた。
『楽しくやっているかしら』
細々と打ち込むのが面倒で、二人が息を合わせて作業する様子を写真で送った。
『坊やは戦力外のようね。ちょうどいいわ、少し寄るから外まで出てきて』
これまで戦力外と言われたのは賭けをして死にかけたときくらいのもので、地味に胸が痛んだ。外に迎えに出ると、ジェイドが重そうな紙袋を提げて立っていた。
「ジェイド、僕が今戦力にならないのは、あの二人が規格外なだけだよ」
「あら、泣き言? そんなふうに育てた覚えはないけれど」
紙袋は三人への手土産だった。ふんわりした紙でラッピングされた四合瓶が二本。それに、レモンが二個。
「レモンはお酒に使うのかい?」
「お刺身をレモンと塩で食べてごらんなさい」
「へえ! たくさんあるからジェイドも食べていきなよ」
「残念だわ、私はこれから会食なの。またの機会に呼んでちょうだい」
中に戻ると、広い作業台の一角に食事をするスペースが作られ、刺身の皿が並べられていた。アベンチュリンはそこに貰った酒をドンと立てた。
「これ、ジェイドから。一本はロックで、もう一本は軽く冷やすくらいがいいって言ってたよ」
「ジェイドさん、大好き!」
トパーズは夢見る乙女の顔で愛を叫んだ。レモンをレイシオに渡すと、使い方を伝える前に深く頷かれた。これが主戦力のパワーか。
「僕、ジェイドに戦力外って言われたよ」
「安心しろ、君には重要な仕事がある」
手を洗ってきたアベンチュリンは、レイシオから寿司用に切られたイカが入ったバットを渡された。
「握ってくれ。君の手のサイズと冷えた末端は寿司を握るのに最適だ。むろん、合間に好きなだけ食べて構わない」
「いつもは手足を温めろって言うくせに」
「時に短所は長所になる。ああ、わさびと薬味は各自で添えるから気にしなくていい」
アベンチュリンは舌打ちした。わさびをたっぷり仕込んで驚かせてやろうという目論みは、先回りされて潰えた。お手本に握ってみせたレイシオは、小さなシャリを手の中で扱いにくそうにしている。真似してひとつ握ると、満足そうに口角を上げた。
「見込んだ通りだ」
「大将、ガンガン握って。よろしくね」
トパーズが酒を注いだガラスのコップを配る。三人で掲げて打ち鳴らし、試食会が始まった。新鮮なイカを堪能して舌鼓を打つ。主に二人が。アベンチュリンはひたすら握り続けた。あの日、回転寿司のバックヤードで追い詰められていたであろう従業員の気持ちを体感した。
「僕の食べる分が残らないんだけど!?」
「このくらいで泣き言? ジェイドさんに失望されるよ。仕方ないな、サービスタイムをあげる」
トパーズは一時離脱して、イカを焼きに行った。レイシオも下茹でが済んだ大根で煮物を作りにいった。その間にアベンチュリンは刺身をいただき、寿司を自分の口に入れて堪能した。鮮度のおかげか、自分で作ったからか、とても美味しい。知らなきゃ人生を損してるとまでは言わないけど。
引き続き二人のためにせっせと握って、ネタが尽きた。やっと休憩だと一息つこうとしたら、空いたバットと交代で、スライスされた玉子焼きが出てきた。いつの間にかレイシオが焼いて冷ましていたらしい。味見だと切れ端を口に入れられて、優しい甘さに顔がほころぶ。
「これのシャリも握ってくれ」
「あ、うん」
やけ酒を飲み干して、アベンチュリンはまた機械のようにシャリを握り始めた。隣でレイシオが玉子を乗せて海苔を巻く。
「大将、あーん」
戻ってきたトパーズに言われてつい口を開け、差し出された焼きイカを頬張った。柔らかくプリプリの身だ。香ばしい醤油味にマヨネーズと七味唐辛子がとても合う。
「熱い! でも美味しい」
「でしょ。君がマヨネーズ大好きなの知ってるもの。甘い玉子もね」
トパーズは玉子をつまみ食いしてにんまり笑う。教授もあーんしますか?と聞かれて、レイシオは首を横に振った。
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