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著者: 雷歌/らいと
2025-04-29 23:27:17
5042文字
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JEシリーズ
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【5/4 R18新刊・八杉】舌に灯るほどける甘さ
SUPER COMIC CITY 32-day2-内超拳魂一擲 2025 にて発行予定の八杉本のサンプルです。
R18と明記していますが行為は口淫のみです。
イベント後にこちらにて全文公開いたします。
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特殊設定:ケーキバース(
ピクシブ百科事典参考
)▸ケーキ八神×フォーク杉浦
原作沿いにケーキバース設定を練り込んだ短編1本とSS3本の詰め合わせ
仕様:A6/56p、表紙に特殊紙使用
1
2
一、フォークとケーキ
「しかし、こういうことが毎度あったら命いくつあっても足りねぇな!」
創薬センターの事件が解決し、神室町弁護士殺人事件の裁判でも綾部の無罪を勝ち取った。ようやくすべての関連する物事が終わり荷を下ろせると呟いたところ「それなら打ち上げと行こうや!」と海藤の提案でそうなった。
夜の街に浮かぶ居酒屋の個室で、海藤は豪快にビールを飲み干す。八神も笑みを浮かべながらビールを傾けた。窓際の大きなテーブルを囲んで、八神探偵事務所メンバーと関係者による小さな打ち上げが行われていた。
「ほーんと、俺死ぬかと思ったもん」
からりと笑って言う杉浦だが、実際腹に銃弾が直撃して数針も縫うこととなった。痛みで脂汗が出てる姿を八神は目にしている。今にも意識を失いそうであっただろうに、それでも必死にスマートフォンで動画を回して証拠映像を残してくれていた。すでに裁判での木戸の証言で創薬センターのことは暴かれたが、さらにその映像が決定打となったのだ。
「杉浦、ありがとな」
横に座っている杉浦の顔をみながら、しんみりと言う八神。杉浦は瞠目し、それから苦笑を浮かべながら言う。
「もー、八神さん。せっかくの飲みの場なんだから、そういう真面目なトーンはなしなし。ね!」
言いながら、杉浦はビールのグラスをくるくると指で回す。目元がわずかに緩み、酔いのせいか、ほんのり赤く染まった頬が熱を帯びて見えた。
八神だって、杉浦以上に命の危険はあったのだ。そのことを思えば、軽口を叩いている自分が少しだけ恥ずかしくなってしまった。そういう場をジェスターとして助けたこともある。その時はまだ八神の事を観察するために近づいていただけだが、今はもうそうではない。
最初の大久保の事件の際に、姉である絵美が八神へ感謝の言葉や人となりや格好いい人よねとか好意的なことを口にしていた。その時は興味もなかったが、絵美が被害者となった事件で負の感情を抱いた。消えない暗い感情はいつしか社会の理不尽へぶつけるようになり、そうこうしているうちに表舞台で再び八神の姿を目にしたら、我慢ができなくなっていた。最初の出会いは偶然、二度目は必然。引きこもっていた時より随分とフットワークが軽くなったものだと、当時のことを考えると思う。情けない姿も頼れる姿も見てきて、今では憧れ以上の想いを抱いていた。
「そうだぞター坊、飲め飲め!」
大声で割り込んできたのは海藤は、まだ手元にジョッキがある状態ですでに次のビールを頼んでいる。豪快に酒を飲み、赤くなった顔で持ってたジョッキを八神の前にドンッと置いた。
「海藤さん、もう酔ってるの」
「こういう時くらい派手に祝わなきゃ意味ねぇだろ!」
「そうそう、兄貴の言う通りだ」
海藤の隣に座る東が頷く。彼も顔を赤らめているため酔いが回り始めているのだろう。これは帰り面倒くさいことになりそうだな、と八神は苦笑を浮かべた。
「お、いいぞ東! どんどん飲むぞ!」
八神は静かにその様子を見ていた。事件が解決しなければ見れなかった光景、平和ともいえる光景に目を細める。
杉浦は八神の横顔を見つめ、喉の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。過去に窃盗団にいた自分、正体を隠して嘘をついてきた自分を、それでも受け入れ信頼してくれる八神。その姿に向ける感情は、もはや単なる尊敬や感謝では収まらない。胸の内側で何かが熱く膨らみ、それが肋骨の隙間から溢れ出しそうになるほどだった。視線を外せば、この感情から逃れられるかもしれない。だが、杉浦にはそれができなかった。
ふ、と八神が杉浦に目線を動かし、視線がかちあった。
じっと見ていたことがばれないようにと慌てて杉浦は手にしていたビールを飲み干す。心臓が早鐘を打つのも相まって、一気に酔いが回った気がした。力が抜けるままに勢いよくグラスをテーブルに置いた杉浦の様子に八神が心配げに声をかける。
「大丈夫か、杉浦。さすがにお前は飲みすぎじゃねぇの」
テーブルには空になったジョッキやグラスが並び、杉浦の前のグラスも空になっていた。それでいて、料理は少ししか減っていない。それもほぼ八神が手をつけているので、他の面々は空の胃袋に酒を流し込んでいる状態だろう。
「ほら、水も飲んで」
八神はそう言って、自身が使っていたグラスに水を入れて杉浦の前に差し出した。必要になるだろうなと考え、八神はこっそりチェイサーで水を頼んでいたのだ。杉浦は八神のその気遣いに、胸がしめつけられる思いだった。酔いもあるためいつも以上にそういうのが染みてしまうのだろう。
「ん、ありがと」
特に考えることなく、杉浦はそのグラスを受け取って口をつけた。八神の唇が触れていたグラス──その間接的な接触に、杉浦は密かに胸の高鳴りを感じていた。そして
——
「
……
え?」
思わず杉浦は声を漏らした。
「どうした?」
「あ、いや
……
なんか
……
」
杉浦は不思議そうに眉をひそめる。何かが違った。水なのに、確かに感じた。それは甘みだ。でも、あり得ない。
杉浦はフォークだ。中学生の頃に発症してから、何を食べても飲んでも無味だった。こういう飲みの場だと、味がわからなくても酔えるので積極的に飲むことが多い。さすがに今日は飲み過ぎているが。
「水に何か入ってた?」
「いや、普通の水だが」
八神は不思議そうに答えた。杉浦はもう一度、確かめるようにグラスを見つめる。八神が使っていたグラス。八神の唇が触れていたグラス。突然に感じた甘さと、自分の中の八神への感情が絡み合って、杉浦は混乱していた。
「おい、杉浦! こっちも飲めよ!」
考え込む杉浦に、海藤がさきほど来たビールジョッキを振りかざす。
「あ、いや
……
」
「海藤さんほどほどに。な?」
「なんだよ、つまんねぇな! ほら東、お前ももっと飲め!」
「はい兄貴、いただきます!」
酔いの回った海藤に同じように酔いの回った東が乗っていく。これはそろそろ止めないとまずいかあ? と八神は苦笑を浮かべていた。
その間も、杉浦の頭の中は先ほどの感覚でいっぱいだった。あの一瞬の甘さは何だったのか。酔いはすっかり冷めていた。
・
・
・
三、バレンタインデー
ひとつの紙袋を手に、杉浦は横浜九十九課に戻ってきた。「ただいま」と声をかければ、いつものように九十九から「お帰りなさい」と返ってくると思ったのだが
――
出迎えたのは、別の声だった。
「よ、お帰り」
「あれ、八神さんだ」
「ん、邪魔してる」
視線を奥へとやれば、九十九は出かけているようだった。今日の相談予約はなく、あっても駆け込みの相談くらいだろう。それなら、八神でも対応できると判断して留守番を任せたのかもしれない。
「お留守番だ?」
「まーな。タイミングがよかったみたいで、留守を任された」
「高くつくぞ?」と冗談めかした八神に、杉浦も笑いながら「そのぶん、いい仕事期待してまーす」と同じく冗談で返す。
お茶でも淹れようかと、紙袋をカウンターにドサッと置く。すると八神がそれに目をとめ、指で示しながら尋ねた。
「それ、なに? 依頼関係?」
「あー、いや
……
そうじゃないんだけど」
少し困ったような表情で、杉浦は紙袋から小箱をひとつ取り出した。
「ああ、なるほど」
可愛らしくラッピングされた箱を見て、八神はすぐに頷いた。街中がバレンタイン関連で彩られているこの時期、見ればすぐにわかる。
「チョコレートね、バレンタインの」
「そう」
ついでにと紙袋に入っていたものをすべて取り出してカウンターへ重ねて置いた。
「こっちは九十九くん、こっちは二人まとめて、俺のと、なんと八神さんのもあります」
「え、俺?」
「たまたま帰りに誠陵高校の子たちに会ってね。押し付けられたの」
八神と一緒なのかと聞かれ、今は横浜にはいないんじゃないかなと返せば、それなら杉浦伝手で渡して欲しいとのことだった。まさか事務所に戻ったら本人がいるとは思わなかったが、念押しで「いつ渡せるかわかんないけど」と言ったのは杞憂だったようだ。
「はい、どーぞ」
杉浦から差し出されたのは、黒と赤でシックにまとめられた包装。八神は少し複雑な表情でそれを受け取る。挟まれたカードには、うさぎのマークと「誠稜高校ダンス部」の名前があった。ああ、あいつらか、とすぐに思い当たる。
「断ってもよかったんだぞ」
「うーん、女子高生の勢いは恐ろしいね」
本当は断るつもりだったのに、勝手に盛り上がられて訳もわからないうちに渡されていた。さすがに全員分だと大荷物になるからという考えはあったらしく、代表で一個だったのは助かった。
「それで?」
「え?」
「杉浦からはねぇの?」
受け取ったものはすでにローテーブルの上に置いており、八神は真っすぐ杉浦を見上げる。その視線に、杉浦は気まずそうに目を逸らした。
「味、わかんないしさ。人にあげるのって、申し訳ない気がして
……
」
「それでも、俺は欲しいけどな。杉浦はさ、贈るためにたくさん悩んでくれそうだし?」
「それは、まあ、あげるなら、そうだけど」
「そういうのが嬉しいんだって」
「そ、そっか
……
」
「ま、今回はないかもって思ってたからな。ん」
差し出されたのは、質のいい紙袋。表面には有名なチョコレート専門店のロゴが箔押しされている。きょとんとした杉浦は、紙袋と八神の顔を交互に見比べた。予想もしていなかった展開に、胸の内で小さな波が立つ。バレンタインのプレゼントなど、受け取るのは小学生以来かもしれない。それも八神からとは。
「え、もらっていいの?」
「当たり前だろ。杉浦のこと考えて選んだんだから」
八神のそんな言葉に、喜びと戸惑いが同時に押し寄せてくる。自分のために選んでくれたという事実だけで、すでに特別な贈り物に思えた。
おそるおそる受け取った紙袋の中には、深い赤の箱が入っていた。再び八神を見る杉浦の表情は、まだどこか戸惑っている。
「味の感想とか言えないよ? 本当に、いいの?」
「いいんだって。まあ、こっちとしても迷ったけどな」
味がわからない杉浦に食べ物の贈り物をしていいのか
――
それで傷つけたりしないか。何度も悩んだけれど、それは杉浦にしかわからないこと。なら、渡してみるしかないと決めた。それに──試したいこともあったから。
「けどま、嫌だったら言って。次から違うの考えるから」
「嫌じゃないよ! たぶん、八神さんからだったらなんでも嬉しいと思う」
可愛い事言ってくれちゃって、と八神は思わず愛おしげな笑みを浮かべた。ソファから立ち上がると杉浦の横に並んで立つ。
「ほら、開けてみな」
「え、あ、うん」
言われるままに箱を開けると、艶やかなチョコレートが六粒。中には濃い赤でハートの形をしたものもある。ベリー系の味だろうか。美味しそう、よりも先に「綺麗だな」と思った。
「こんな綺麗なの見るのも、久しぶりかも。食べ物じゃなかったら、飾ったのにな」
「そ? じゃあ次は、飾れる系にするか」
催促みたいに聞こえたかと杉浦が慌てて「そういう意味じゃないよ」と言うが、八神は気にした様子もない。それどころか、すっと手を伸ばし、ハート型のチョコレートをつまみ上げた。
それを、はい、と杉浦の口元に近づける。目をぱちぱちとさせて、ええ? と戸惑いの声をあげる杉浦。普通なら嬉しい行為ではあるが、こちらの事情を知っている八神なのだから、どういう意図があるのかがわからない。
「あ、あとじゃ、だめ?」
「んー、今がいいかな」
困ったように眉を寄せて、それでも杉浦はおずおずと口を近づける。誤って八神の指に触れるとたまらなくなりそうだから、慎重にチョコレートだけを咥える。八神の指がチョコから離れたのを確認し、ホッと安堵してから舌先でチョコレートを引き付けようとする。舌先に触れたチョコレートは、やはり味がしない。わかっていたこととはいえ、ほんの少し寂しい気持ちになる。
――
そのときだった。
離れたはずの八神の手が伸び、杉浦の首の後ろをそっと支える。そして、そのまま。
チョコレート越しに、八神の唇が触れた。
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