保科
2025-04-27 22:05:26
1816文字
Public ひびちか
 

ステイクール

うおおやっちまえ桂木千鍵!!!!!そこだ!!!!!!かませ!!!!!
※成長IF大学生同棲パロ

お題
イケチカちゃん

「あ、チカちゃん」
「ん?」
「まつげ、とれてひっかかっちゃってる」
隣のチカちゃんの横顔を眺めていて、気付いたことが口に出た。チカちゃんの長いまつげの先が、一本ぴょんと飛び出ているみたいになっていた。テレビを見ていた目をこちらに向けて、チカちゃんがぼんやり口にする。
「あー……マジか、この辺?」
「わわ、だめだよ!赤くなっちゃうってば」
ぐしぐし、と乱雑に手で擦りだしたチカちゃんを慌てて制止する。チカちゃん、興味のないことにはとことん雑なきらいがあるから、時々とんでもない解決手段をとろうとしてびっくりしてしまう。おまけに、こすった後もまつげはそのままだ。
「もー、取ってあげるから。
ほら、こっち向いて?」
「へ!?お、おう……
ずい、と身を乗り出してわたしが叱ると、怯んだチカちゃんがきゅ、と目をつむる。
……。その無防備な顔に、伸ばそうとした手が思わず止まった。彼女の顔を、この距離でまじまじと見つめるのは、久しぶりのように思えたから。
――大学生のチカちゃんは、ずっと大人びて綺麗なひとになった。顔立ちもしゅっとして、表情は和らいで。加えて、高校の頃よりも人当たりも良くなって、友達もずっと多くなった、らしい。どれも人聞きで、遠くから見ただけの、ハリボテみたいな話。
最近、不安になる。チカちゃん、この先もわたしと一緒にいてくれるのかな……って。もっといい人が現れるかもしれない。わたしがいくらチカちゃんのことが大好きでも、チカちゃんのこころが何時までもわたしを向いてくれるとは限らない。いつか、もし――
――おい、ひびき?」
……っ」
名前を呼ばれて我に返る。目の前、閉じていたはずのチカちゃんの瞳が開かれていて、呆けた顔のわたしが映っている。動きがないわたしのことを不審に思ったんだろう。困ったような表情に、言葉が詰まる。
………あ!ご、ごめんねチカちゃん。すぐに取るね」
待たせてしまったことが申し訳なくて――見惚れていた、ということが気恥ずかしくて――えへへ、と誤魔化すような笑いが溢れた。
「や、いいけども、……
口ごもったチカちゃんの目が、そんなわたしを一瞥した後、ほんの少しだけ逸れる。
……あのさ。一応。一応、だぞ。
お前にそーゆー意図はないって知ってても、少しは距離とか気を付けてくれないと……困るってーか……
「?えっと……?」
何の話?分からずに瞬く。
「あーもう、だから、――
ぐ、と苦々しく目を細めたチカちゃんが。予告なく、背中に回した手でわたしを引き寄せる――ゼロ距離に息が止まる。止められる。できない――塞がった口元の感触に、頭の奥が真っ白に弾けた。
チカちゃんの僅かに潤まった瞳の中、近すぎる私が映り込む余地もない。解けかけた焦点を引き戻すように、ほんの少しだけ、距離が開いて。
……、一応、『こういうこと』を我慢してるんだよこっちも……
―――
……分かるか」
……、わ、わかり、ました」
わからない。わからないけど、きっと、わからないといったら、もっと取り返しがつかなくなる予感がして。どうなるかわからない『それ』が、酷く、恐ろしいと思った。頭の奥から指の先まで、滾った熱がぐるぐる巡る。
壊れたおもちゃみたいに、かくかく頷くわたしを見て。よし、と呟いたチカちゃんの頬が、どんどんと赤くなる。
……っ、じ、自分で取ってくるから!まつげ!」
「ぁ、はいっ!」
ば、と飛び退るようにわたしから離れたチカちゃんが、階下からクレームが来そうな足取りでばたばた部屋を飛び出した。
咄嗟に返事をしたままその背を見送って。口元を押さえながら、ずるずるソファーに倒れ込む。あつい。動いていないのに、汗をかいてしまいそう。
「ふぁぁぁ……
びっくりした。びっくりした、びっくりしたびっくりした――すっっっごく、どきどきした。
…………我慢、してるんだ……
呟いた単語の熱さに、目眩がする。どうしよう、チカちゃん、もしかしたら、……わたしのこと、わたしが思うより、好きでいてくれるのかも、なんて。なんて!
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
ぎゅうっ、と、目も手足も全部ちっちゃくちっちゃく丸まるみたいに縮めて押さえ込んで、そうでなければ、大好きの気持ちが全部弾けて飛び出してしまいそうで、わたしはままならない感情と一緒にソファーの上をコロコロ転がった。三回転めで落ちた。