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ゆ~
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【嘘ドラロナ】Dreamin’
嘘ドラロナWebオンリー展示作品。
嘘ドが嘘ロ君の体を操る話。
1
2
「
……
夢の中でくらい、楽をしようと思わんのかね」
かつんと爪先のチップが叩いたアスファルトはあちこちひび割れ、顔を上げればそこは、ジョンやロナルドらと共に暮らしていた、今は荒廃した新横浜の街が眼前に広がっていた。
ドラルクは、ロナルドの夢の中に侵入していた。ドラルクは再び自身の手を見下ろすと、今度はドレスグローブの嵌った手に、黒を基調としたタキシードに身を包んだ、紛れもないドラルク自身の姿になっていた、この夢の世界がロナルドの記憶が構成しているからだろうか。ドラルクがロナルドに心臓を預ける以前の、自分の肉体を有して侵入することが出来たのは、ロナルドがはっきりとドラルクの姿を記憶しているという事実に他ならない。それに少しばかり面映い気分になる。
「おっと、ニヤけている場合ではないな。あのバカ造を探さねば」
今、「外の世界」ではロナルドの肉体を一応安全なところへ運び、ジョンやメビヤツに守ってもらっている。だがそれもあくまで一時凌ぎだ。早々に深い眠りに陥っているロナルドを叩き起こさなくてはならない。
それにしても、ドラルクがロナルドの身体を支配していると知った時のメビヤツの剣幕と言ったら。今にもドラルクを滅しようと睨みつけてくるあの子どもの姿をした守護者を思い出して、ドラルクはぶるりと身体を震わせた。
「あーっと
……
こっちだったか」
ドラルクは、懐かしい新横浜の街を小走りで駆けていく。久しぶりの自分の肉体を夢の中とはいえ使うのは不思議な気分だった。何の違和感もない。その上、疲れる。
「はぁっ、はぁっ
……
夢の中なのに何故疲れるんだ⁉︎」
小走りを早々にやめて一度死ぬ。ぐぬ、と呻きながらも再生して、ドラルクは体力のない身体を引きずるようにして目的の場所を目指した。
そうして、新横浜駅の前から人っこ一人いない街の中を突っ切って、五、六分もすればそこに到着してしまう。実際に見ればあまり自覚していなかったが、ドラルクは懐かしさから僅かに顔を潜めた。
「
……
」
ドラルクは息を整えると、静かにそのビルに
——
ロナルド吸血鬼退治事務所のあるビルの中に足を踏み入れた。しんと静まり返ったビル内にドラルクの足音が響く。階段を登り、踊り場を抜けて上を目指し、暗い廊下に足を踏み入れると、奥の扉についた窓から光が漏れ出ていた。
扉には「ロナルド吸血鬼退治事務所」と書かれた看板が、そして扉の脇には「どなたでもお気軽にお入りください」と書かれた看板が変わらず掲げられている。ドラルクはドアノブを捻って、中へ入る。
まず最初に見慣れた応接セットが目に入り、奥にはデスクやキャビネットが設置されている。ドラルクは無言でその事務所スペースを通り抜け、居住スペースへと向かった。
「
……
ただいま」
そう言ってみて、何となく変な気分になった。ここを離れて随分時間が経っていたし、そもそもこの事務所は既に存在しない。そんな場所のドアノブを捻って、中に入る。
靴を脱いで揃えられたスリッパを履いて、ソファーベッドとその横に横たわる自分の棺桶を見る。ドラルクはなるべくして平静を保った。そして、そのソファーベッドに居る青年の傍へ近づいて行く。
「
……
ロナルド君」
着古したジャージ姿を見るのは久しぶりだった。今のロナルドの姿と比べると、髪も幾分か短い。そういえば心臓を預ける以前は、ドラルクがこの髪を切ってやっていたのを思い出した。
声を掛けてみたはいいが、ロナルドは目を覚ます様子がない。見ている間にむにゃ、と呑気に口端から涎を垂らして眠っている。こんな熟睡しているロナルドを見るのは久しぶりで、ついそれ以上声をかけるのを躊躇ってしまいそうになる。
「あー、くそ
……
おい! 若造、起きんか! 夢の中で更に寝てるってどういうことだ!」
「
……
んん〜〜っ、うるせ
……
」
「うおっ!」
ロナルドが寝返りをうつついでに払うように手が振られ、それが鼻先を掠めたことで驚き死んでしまう。
「くそっ
……
呑気に寝てる場合じゃないというのに」
どうやら何かきっかけが無いと起こすことが出来ないらしい。厄介な催眠をかけてくれたものだと、ドラルクは舌打ちをして辺りを見回す。とは言っても、この部屋には大したものは有りもしないことをドラルク自身が重々知っていた。部屋は以前の姿のままで、あの時の、ほんの一時ここで暮らした穏やかな生活を思い起こさせる空気が流れていた。
「
……
」
それで、何とは無しにドラルクは立ち上がる。そうしてマントとジャケットを脱ぎ、棺桶の上に皺にならないように置くと、キッチンへと足を向けた。キッチン内の引き出しを開ければ、そこには普段使っていた黒いエプロンが仕舞われており、それを身につけて腕を捲りながら冷蔵庫の中身を確認する。
「
……
はっ」
——
そうしてドラルクは、思わず吹き出してしまったのだった。
すん、とロナルドは、意識せず鼻を利かせて部屋に漂うその匂いを嗅ぎ取った。まだ瞼は重かったが、その香りにつられて身体を起こして目元を擦る。
「やっと起きたか、寝坊助め」
「
……
ドラ公」
「ほら、さっさとこちらに来い。食事の準備が出来ているぞ」
エプロンをつけたドラルクがてきぱきと食卓の準備を進めていくのをぼぅっと眺める。やがて、最後の大皿がテーブルの真ん中に置かれたところで、ロナルドはようやくソファーから立ち上がった。
ダイニングテーブルに座って、卓上に並ぶ食事の数々を眺める。炊き立てのご飯がたっぷり盛られた茶碗。わかめと豆腐の味噌汁。サラダボウルに、大きな皿に山盛りの唐揚げ。
そして、顔を上げると牛乳の入ったグラスを前に置いて座るドラルクがいた。
「
……
作ってくれたのか?」
「うん、どうぞ」
「これ、全部俺の?」
「残念ながらジョンは外にいるからな。全部君のだよ」
「
……
いただきます」
手に取った箸をサラダや米に伸ばし、最後に大きめに作られた唐揚げを取る。寝ているロナルドの鼻先に届いていたいい香りはこれだ。大きく口を開けて、口に頬張るとざくりと音が鳴って、口内にじゅわりと香ばしい油が溢れると、その熱さに「あちっ」と言いながら口の中で鶏肉を遊ばせて熱を逃す。
「慌てて食わんでも逃げんよ」
「わはっへふへほ」
「食べながら喋るんじゃないよ」
はは、とドラルクが笑う。んぐんぐと必死で咀嚼しながら、ロナルドはまた次の唐揚げへと箸を伸ばした。
「
……
久々に食った、お前の唐揚げ」
「
……
そうだねぇ」
「うまい」
「それはよかった」
「
……
もう、これ食ったら、また暫く食えなくなるんだな」
「まぁ、そうだな。でもいつかまた作るさ」
「本当か?」
「ああ、またここに戻ってきて、今度はジョンも一緒に
……
ああ、唐揚げ食べたことをジョンには言うなよ。スネてしまう」
「あー、そっか。独り占めしたってバレたら、怒られちまうかも」
「そうだぞ。内緒にしておいてくれよ」
二人で笑い合う。ドラルクはいつものようにちびちびと牛乳を飲んで、ロナルドは更に唐揚げを頬張った。
他愛のない話を時々して、少しの言い合いをして、そしてまた笑って、賑やかとは言えないが、それでもその時間は、穏やかで、愉快で。
そうして、食事の時間が終わりを告げた頃に、ロナルドは目を覚ました。
真っ暗いそこを見回してみるとどうやら、どこかの廃屋らしい。見知らぬ天井をほんの少し眺めてから、ロナルドはゆっくりと身体を起こした。
「!」
「ああ、メビ。ごめんな、心配かけて」
駆け寄ってきたメビヤツの丸い頭を撫でる。その後ろから鎧姿のジョンも心配そうにしていたため、そちらにも「ごめんな、ジョン」と言うと、ジョンは静かに首を横に振った。
そして。
「ドラ公、いるのか」
『当然だよ。ようやく起きたな、寝坊助め』
自分の頭の中にだけ響く声に、ほうと安堵する。
「久々にめっちゃ寝たな
……
」
『まぁ、そうだな。すっきりしたかね』
「まあそうだな。うん。あの唐揚げも
……
」
『バカ造、言うんじゃない。内緒だと言っただろうが』
そう言われて、慌てて口を塞ぐ。ジョンとメビヤツは不思議そうに首を傾げていた。
夢の中で食べたものが腹に溜まっているわけもなく、ロナルドの体は僅かな空腹を訴えていた。それがほんの少しばかり、物悲しくなったけれど、遠くに置いてきたと思っていたものをまだ忘れ去った訳ではないから、と自分に言い聞かせて横たわっていたソファーから立ち上がる。
「
……
行くか」
『ああ、行こう』
ロナルドはメビヤツが預かってくれていた帽子を受け取ると、それを目深に被ってから、静かに自身の心臓を撫でた。
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🌊WB
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