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ゆ~
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【嘘ドラロナ】Dreamin’
嘘ドラロナWebオンリー展示作品。
嘘ドが嘘ロ君の体を操る話。
1
2
なんたることか、とドラルクは久方振りに感じた自重に目眩を起こし、溜息を吐き出した。
「や、やった
……
成功した! 我々は真祖を目覚めさせたんだ!」
おおお、と歓声が上がる。視線でその姿を数えると、この場には合計五人いるようだった。彼らは一様に歓び、達成感に涙し、そして互いに讃えあう。
ドラルクはその様子を心の底から白々しい気分になって視線を外し、落ちていた真っ赤なつば広の帽子を拾う。帽子を拾うついでに、ドラルクは自身の手を見た。親指と人差し指の付け根の間、それに人差し指にくっきりと残る銃タコ。かつてこれを、ドラルクは自身の手で取り指先で触れたことがあって、手の持ち主が少し恥ずかしそうに笑う面立ちを鮮明に思い出すことが出来た。この無骨な手を愛していると伝えた時の、嬉しそうな、けれど少しだけ悲しそうな表情も。
帽子を被り、ドラルクは再び息を吐き、吸い込んだ。臓腑に違和感は無いが、いつかの戦闘で負ったであろう傷の引き攣れを感じた。やっぱり傷を隠していたな。いくら一つの肉体のうちにあると言っても、ドラルクがロナルドの感覚全てを知ることは出来なかった。ドラルクは、それだけは出来ては行けないと思ったからだ。
この子から歓びも痛みも楽しみも苦しみも奪ってはならない。それら全てが彼だけの輝きであり、彼だけが持つべき暗がりだった。それらを内包するからこそ、ロナルドはロナルド足り得る。
ロナルドは世間が言うほど大した男ではない。愚かしいほど実直で、素直で、お人好しなだけの、普通の青年だ。この世界における様々な酷い経験のせいで、悲しそうに笑うのが上手になってしまっただけの、普通の人間だった。
「
……
何故こんなことをした?」
発した声はロナルドのものだったが、ロナルドからは決して出ない声音だった。ドラルクが咄嗟に自身の喉元を押さえると、宿願が果たされたと高らかに叫んでいた彼らが、ぴたりと歓声を止めてこちらを向く。彼らは、氷笑卿の手の者か、古き血の末席に座ったという彼の兄の手の者か
——
恐らくは前者だろう。ドラルクのために、あの人間嫌いが人間を使ってまでロナルドを排除し、ドラルクを一族の元へ取り戻そうとするなど、ドラルク自身予測すらしていなかった。
ロナルドは、人間である彼らを傷付けることが出来ない。例え自身に害意を向けてくるとしても、それが人間であればロナルドには到底出来やしなかった。だからロナルドは、彼らが持ってきた奇妙な呪物による催眠にかかり、今やドラルクに全てを明け渡すほどに意識を心の奥底へと閉じ込め、眠りについてしまっていた。
「浅ましい退治人が、真祖様の心臓を奪うなどと、愚かなことです! 夜は貴方方吸血鬼のものだ! 我々は真実の世界を取り戻すために
——
」
「あー、いい。そういうのはいいから。聞き飽きてるんだ、そういった口上は」
手を振り言葉を遮る。やはりそんなものかと、いつもならば吐き捨てる彼らの言い分。それが今は、ドラルクを静かに、冷たく、激昂させていた。身体のうちに流れるロナルドの血潮が熱を持っていく。指先が痺れ、目の前が真っ赤に染まる。本来吸血鬼であるドラルクには体験し得ないものだ。
「彼は、
……
この体の持ち主は、君たち人間のために戦っているんだぞ」
吐き出した声は情けないほど怒りに震えている。感情の濁流に、己は人間でもないというのに、飲み込まれてしまいそうだった。
「何故貴方方と戦う必要があるのですか?」
だが彼らはあっけらかんと、言葉を連ねる。
「そうだ。人間がこの世界を支配したって不幸が生まれるばかりじゃないか!」
「知的生物として、より上位の存在がいるなら、支配権を明け渡すのは自然の摂理た」
ああ、そうだ。その通りだ。彼らは頷きながら口々に、どこかで刷り込まれた言葉をなぞった。
吸血鬼信奉者と呼ばれる者たち。彼らが吸血鬼に対してどれほどの忠誠を誓っているのかは知らないし、興味もなかった。だがつまるところ彼らの目的は、ドラルクらが当たり前に持つものだ。
「
……
褒美は、転化かね?」
ロナルドの口を借りたドラルクの言葉に、彼らの目の色が一瞬で変わる。それを見たドラルクは、は、と乾いた笑いを零した。
「誰に絆されたのかなどどうでもいいがね。何にせよ、君達は転化などさせて貰えんよ」
ドラルクの言葉の意を解した者は、この場においていなかった。信奉者たちは疑念と困惑の表情を浮かべている。その物分かりの悪さにドラルクは顔を歪めた。ドラルク自身には見えていないが、眉を持ち上げ、片方の目元を引き攣らせ牙を見せるようにして舌を打つその表情は、肉体を有していた時のドラルクを知っていれば見覚えのある表情だったに違いなかった。ロナルドの顔でそれをすれば、不慣れな動きに表皮が変に歪んで見える。
「だ、だが彼の方は確かに
……
」
「自由意志を有する同族なんか、私たち吸血鬼にとって一番厄介極まりないものだ。そんな面倒なものを、どうして増やそうとする。まして、君らのような人間にどうして、」
そこでドラルクは言葉をそれ以上紡ぐことをやめた。そんな面倒なものの一人になった吸血鬼を、ドラルクは知っていたからだ。彼は
——
ロナルドの兄は、ドラルクの祖父が吸血鬼にしてしまった。
兄を吸血鬼にされ、自身は吸血鬼に殺されたロナルド。それは、ドラルクの祖父と、ドラルクの師が行なった所業だった。
そうしてドラルクは自身のエゴで、一度死んだロナルドを蘇らせた。
「
……
吸血鬼は、人間の命のことなど塵芥も同然と考えている。弄んで、時々血を啜って、無様に私たちの手のひらの上で踊ってくれる君たちは、使い勝手の良い、使い捨ての、玩具なんだよ」
彼らの面持ちが一層青くなっていくのを、重怠い心地で眺める。これで気力を失って帰ってくれるのなら僥倖だ。けれどきっと、そうはいかないだろう。
「っ、心臓を、早く心臓を取り出せ!」
「そ、そうだ
……
心臓を持ってこいと彼の方は言っていた!」
案の定、信奉者らはそう言って、思い思いの武器を手に取る。なるほど、ロナルドの肉体からドラルクの心臓を切り離して持ってこいという命令だったらしい。ドラルク自身の意思すら、今や関係がないという事なのだろう。手に取られた刃物は家庭用の調理器具だが、ボロボロで刃は所々欠け、錆びていた。
ドラルクはふむ、と一つ頷いて、再び手を持ち上げてそれを握ったり開いたりを繰り返した。
ロナルドの体は、端的に言えば軽かった。これだけ筋肉がついた体であるにも関わらず、全身が軽い。次いでドラルクは自分の体を見下ろす。身長は大して変わりはないので地面までの距離に違和感はなかった。
そんな呑気な行動をしている間に、信奉者の一人が叫び声を上げながら獲物のナイフを振りかぶって駆け寄ってきた。ドラルクは少なからず驚く。しかし、そこから不思議なことが起こった。
まずナイフをどうにかしなくてはと考えたのと同時に腕が動き、信奉者のふり被った腕の肘のあたりを手のひらで抑えた。たったそれだけで攻撃行動は封じられたのだが、ドラルクが思ったのは、ああこれはこの身体に染み付いた手続き記憶というやつだということだった。そんなことを思うくらい、ドラルクの中には余裕があった。
肘を止められたことで振り下ろすことが出来なくなった信奉者の体には勢いだけが残り、すかさずロナルドの体は最小の動作で脇に避けると、ついでにその足を払って転ばせた。
「っぅぐ!」
勢いのまま地面に倒れ伏した信奉者の背を見ていたのも一瞬のことで、視線が次に襲いかかってきている者の姿を捉える。思ったことがそのまま実行される肉体だった。まるで昔やったアクションゲームのように、何をどうすればいいかが分かってしまう。まずは手首を叩き、ナイフを落とす。次に内臓に影響しない程度に腹に掌底を打ち込んで、最後に倒れ込んできた体を受け止める。
——
お、おもしろ〜
……
。
ドラルクは腕で支えた信奉者を地面に落としながら、頭で思い描いたままの動きを軽々とやってのけられるこの身体に改めて驚愕する。外から、そして内からずっと見てきたが想像を超える肉体だった。ロナルド自身は自覚がないだろうが、こんな動きを出来る人間はそういない。それにきっと、ロナルドは無意識の内に自身の能力に制限をかけているのだろう。こうしてドラルクに体を預けている今、こうして意識のないままでも、刃物を持って襲いかかってくるような者達に対して手加減をしている。
「な、ど、どうして
……
」
「中身が私なのにって? いやぁ、私も驚いているよ。
——
この子の身体がこんな強いリミッターがかけられてることに」
もしそうでなければ、ドラルクの意思の赴くままにこの身体を動かすことが出来ていたら、きっと彼らを傷付けていた。何せドラルクは生まれてこの方手加減などというものをしたことがない。
やれやれと肩を竦め、ドラルクはまた呆れ混じりの溜め息を吐き出す。吸血鬼信奉者の彼らに、そしてロナルドに、人間達に対しての呆れだ。ドラルクからしても、身内が彼らを見限る理由が分からない訳でもなかった。愚かしくて、浅ましい。短命の生き物である癖に、その価値を見出せない人間達。
「君たち、帰って伝えてくれないか?」
「は
……
?」
ドラルクにはいつまでも彼らに構っている暇はなかった。さっさと、うっかりこんな敵地のど真ん中で呑気にうたた寝をしている退治人を起こしに向かわなければならなかった。こんなタイミングで彼の神出鬼没な兄が現れでもしたら、今度こそドラルクの心臓が抉り出されかねない。
「私は、太陽と共に。そう、君たちの首魁に伝えてくれ」
そう言ってドラルクは、ロナルドの顔を借りて笑って見せた。
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