食事処伊呂波の二番卓。その中央。
常連客から貰ったまんじゅうの詰め合わせが置いてある。これは羅乃目が御贔屓にしているきさき庵のものではない。小ぶりなさくら饅頭よりもぐっと小さい姿をきうきうに寄せ合って、茶色く艶のある皮を美味しそうに主張してきている。縦横四ずつ、合計十六個。
「とりあえず、ひとり三個ずつだからな」
これがトキ時からのお達しだ。
三人で三個ずつ、合計九個。残った七個はどう分けるのか。ひとり五個ずつでは駄目なのか。もしくは良を入れてひとり四個ずつにすれば、一番問題がないように思えるが。
お茶の時間を設けるわけでもなく、各々がなんとなく行動の合間に二番卓へ寄ってはひとつ口に放り込み、去って行く。
羅乃目は何度かすれ違いざまにまんじゅうを口に放り込んだ。
「羅乃目、それ何個目だ?」
対面式調理場の内側から、トキ時がめざとく確認を取る。
まんじゅうを口に放り込んだだけの羅乃目は左の頬を膨らませたまま小首を傾げ、目線を斜め上に泳がせた。
「
…………」
口に物が入っている間は話さないという行儀のよさを持ち合わせている羅乃目は、噛まずにまんじゅうを口へ入れたまま、この場をやり過ごそうとしている。
「
…………」
じとーっとした視線を全力で逸らされながら、トキ時の疑惑は確信へ変わる。
「羅神、何個目だ?」
「四個目だ」
「こら! ひとり三個だって言っただろ?」
羅乃目は小さなまんじゅうを素早く、且つしっかりと味わいながら咀嚼すると口を開いた。
「もー、羅神なんで言っちゃうでやんすか!」
「残数が合わなければすぐに露呈する低俗な行動は慎め、自覚が足りないと常々言っているだろうが。そもそも時折り見せる凛とした姿と思考をどうしてこうも平時に持続させない。素質も器も持ち合わせているというのに何故それを
……」
長々と続きそうな羅神の説教を遮って、羅乃目は元気よく両腕を掲げる。
「わっちはお腹いっぱいたくさん食べて、大きくなるでやんすよ!」
その言葉を受け、トキ時は作業を止めて腕を組む。
「甘い物だけで満腹にしているようじゃあ、立派な統領になれないぞ」
「ゔ」
立派な統領になれない、に準ずる言葉は羅乃目の行動を改めさせようとする際に非常に有効である。
彼女の夢は、立派な統領になること。
紅族を再建するにしても、まずはまとめる統領が大切なのだ。
「ああいや、そうか。俺の飯よりも甘い物で腹一杯にしたいんだな。うーんそうかそうか」
「ゔゔっ」
トキ時はわざとらしく意地悪に、そして悲しそうな顔を作って何度も頷く。
「そうかそうか。残念だなあ。俺の飯よりも甘味かあ」
「ないないない絶対! そんなことないでやんす!」
慌てて近寄ると、対面式調理場に面した卓へ手をつき全力で前のめりになって、トキ時へ抗議をする。
「ないでやんすよ! トキさんのご飯が一番でやんす!!」
「ほほー、じゃあ?」何か言うべきことは? と視線だけで促してくる。
「うええ四つ食べてごめんなさーい!!」
悪いことはするものではない。自覚が有るなら尚更だ。
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