揃いの春は爛漫に

MHRウ教×ハ♀。両片想い。

簪と花の贈り物。



里の花が開いた日は、まるでそのことを空が歓喜し、祝福してくれているような、青の澄晴ちょうせい

──桜が咲き始めて綺麗だよ、良かったら俺と一緒にお散歩しない?

嬉しそうに「是非!」と二つ返事で来てくれた愛しいキミと共に、居住区の桜並木をのんびりと歩く。

たたら場周辺の桜もとても美しいのだが、昼間はこちらの方が人通りが少ないので、ゆっくりと桜人さくらびとになることができた。

「ウツシ教官! 見て下さい、ここはもう満開です!」

爛漫の笑顔の愛しい人は、桜の木の下で両手を掲げ、花びらを掴もうとしている。その仕草は、在りし日の頃のようであまりにも愛くるしい。
花が恥じらうであろうと本気で思えるほどに美しく、愛おしい。

花開くように、胸の内に想いが満ちる。
目尻は自然と蕩け落ち、里が誇る美しき零れ桜より、キミを見つめてしまう。

気付けば俺は両手にあの箱を持ち、キミの傍へと駆け寄っていた。あの時、できなかったこと。

きゃあきゃあと楽しげに洒落声しゃらごえを響かせるキミは、桜を仰ぎ、そこへ手を向けてばかり。
俺は花に嫉妬できるほど愚かだったのかと、何故か、とても嬉しくなった。

「愛弟子、ねえ愛弟子、こっち見て」
「えっ?」

驚声きょうせいさえ可愛いキミが、動きを止めて俺を見やる。

ビイドロ玉のようにまん丸の瞳には、桜に彩られた俺と、俺が差し出している青藍色の箱を交互に映していて。

……これは? ……わたし、に?」
「うん。急なお誘いだったのに……受けてくれて、ありがとう」

取ってつけたような、贈り物の理由。

キミはそれでも「ありがとうございます!」と弾けるように微笑んで、律儀に「開けていいですか?」と上目に尋ねてくれた。

どれだけ俺の胸を高鳴らせるつもりなのかと思いながら「もちろん」と頷くと、キミは嬉しそうに箱に結ばれていた組紐を解き、蓋を開き、中の簪を見てまた、目をまん丸に見開いた。

「あ……! こ、これ……!」
「ど、どうかな? キミに凄く似合うと思ったんだ」
「に、似合う……? わ、たしに……ホントに……? う、嬉しいです……! ありがとうございます!」

弾けるように笑ったキミの頬は、微かに赤く染まっていて。

たまらず俺は手を伸ばしてしまったが理性が働き、キミではなく、それは簪に向かって伸びた。

「良かったら今、着けてみてほしいな。……いい?」
「教官が着けてくれるんですか?」
「う、うん! いいかい?」
「え、へへ、やったぁ」

久しぶりに、さらりとキミの髪に触れ、手から溶けてしまうのではないかと思うほど、幸せが溢れた。

諜報任務に身を置く者となったさがであろうか、観察癖は抜けない。一生懸命、髪のお手入れをした痕跡があることさえ愛おしかった。

簪を着けて「ありがとうございます!」と、桜の木の下で嬉しそうに駆け回るキミは。

──キミは……

(俺、は……本当に馬鹿だ……愚か者だ……!)

簪を着けて桜の下で爛漫と微笑むキミは、俺の想像よりも遥かに、ずっと、美しくて。

「──ねえ、愛弟子……!」
「はい」
「俺……! 俺、キミのことが──」


愛しいキミの笑顔は、春の陽射しよりも眩しくて、暖かくて、穏やかで。
膨らみ続けてきた想いの花蕾を開花させるには、十分過ぎた。

──キミの、ことが

──わた、しも

咲き誇った言の葉が、桜東風さくらごちに乗った時。

キミと俺は、お揃いの、大輪の想いを咲かせて──共に、新しい春を迎えた。


@acadine