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夢篠
2025-04-19 09:12:49
1950文字
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誰に瑠璃鳥恋をした
瑠璃鳥と出会った照星
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2
憂いの含まれた瞳が詰まらなさそうに巡らされるのを見た時から、その娘に惹かれていたのだと思う。彼女は知人(と言うのも腹立たしいが)の細君だった。遠目に見掛けた時はいつも虚ろな目をして、その夫君に必要以上に怯えているような素振りを見せた。
訳有りだと思ったから関わり合いになるのを避けるために最初は近付くのを控えていた。なにより夫君の雑渡昆奈門が誰にも彼女に近付くのを許さなかった。
私たちが交わり合う事など無いと思っていた。面倒事は御免だった。だからこそ、私たちは正に「運命的」とも「偶然の産物」とも呼べる出会いをしたのだ。
タソガレドキ城下を歩く事は稀だったが、今回は必要に迫られてだった。と言うより必要に迫られない限り避けたい事だ。そこで
ナマエ
と初めて視線を合わせた。意外だったのは彼女が私を知っていた事だ。
「ぁ、」
小さく溢された声を瑠璃鳥の声音のように美しいと思った。声のする方を見れば、大きな瞳が私を見ていた。その時の瞳には不可思議ながら常の憂いなどは見付けられなかった。
「
……
君は、」
「ぁ、え、と
……
照星さま、です、よね」
美しい声が私の名を紡ぐ。私の名を知っているのかと驚いた。頷いてそれから、彼女の名を思い出そうとするが出来なかった。口を噤む私に彼女はぎこちなく微笑んで「
ナマエ
、です」とその名を明かした。
「
ナマエ
嬢」
「
……
それ程、若々しくもありません。
…………
夫の、いる身ですし、」
「夫」と口にする
ナマエ
の絶望したような目に目を細める。彼女の僅かな身体の動かし方で推察出来る。それは痛む身体を庇う動きだった。痛め付けられたのか、或いは。そこまで考えてから内心で首を振る。首を突っ込んでも良い事は何も無い。それなのに。
「雑渡昆奈門が厭わしいか」
「
……
っ!」
大きく肩が跳ね、息を詰める
ナマエ
に目を細める。思わず問うたそれは核心に触れた問いだったのだろう。
ナマエ
は哀れな程その身を震わせていた。
「そ、んな事ありません。昆奈門さまは、わたくしの事、と、ても、大切にして、くださっていますもの
……
」
目に見える程に動揺する
ナマエ
が哀れに見えた。遠目に見た様子と今の
ナマエ
の怯えを見るに、彼女が雑渡昆奈門から良いように扱われているのは手に取るように分かった。雑渡昆奈門から垣間見える感情には凡そ人間に向けるべきでは無い物が含まれているのが遠目ですら分かった。執着では可愛げのあり過ぎるその感情に
ナマエ
が雁字搦めの事も。哀れな娘だと思った。
「
…………
ナマエ
嬢、」「あ、
ナマエ
、いたいた~♡」
「っ
……
!」
気に食わない事に聞き慣れてしまった声に、
ナマエ
が大袈裟に身体を震わせた。私は我に返り、自分が何を言おうとしたのか思い出そうとしたが思い出せなかった。目の前の雑渡昆奈門は大柄なその身体で取り喰らわんばかりに
ナマエ
の小さな身体を囲っていた。
「もう、逸れたから驚いちゃった。怖い思いをさせたね」
「い、いいえ
……
。お手を煩わせてしまって申し訳ございません
……
」
俯いて蒼白な顔を隠す
ナマエ
の声音に気付いていない訳ではあるまいに、雑渡昆奈門はうっそりと笑う。それから私にわざとらしく視線を遣った。どろりとした、酷く重い殺気を纏った視線だった。
「それで?
ナマエ
は照星と知り合いなの?」
冷たい声に
ナマエ
が小さく息を呑んだのが分かった。目に見えて狼狽える彼女を本当に哀れだと思った。
「私が彼女に道を尋ねていた。彼女は貴様の、」
「私のお嫁さんの
ナマエ
だよ。可愛いでしょう」
「そうか。偶然道を尋ねた相手が知人の細君だったとは。世間は狭いな」
ナマエ
が私の顔を見た気がした。その大きな目は美しい藍色をしている。雑渡昆奈門が
ナマエ
を私から隠すように前に進み出る。大きな手が無遠慮に彼女の手首を掴んでいるのが見えた。力加減もなされていないのか端正な顔が小さく歪んだ。
「本当にね。何処に行きたいの?案内してあげるよ」
「否、もう見当は付いたから結構だ。気遣いだけ受け取っておく」
「そう?じゃあ私たちは行くから。
…………
行くよ、
ナマエ
」
言うが早いか
ナマエ
の手首を引いて歩き出す雑渡昆奈門に彼女が追い縋ろうとして身体の痛みに顔を歪めるのがすれ違い様に見えた。哀れな娘だと、思った。
その姿が雑踏に消えるまで、ずっと見ていた。彼女の瞳と声が、妙に脳裏に焼き付いて離れなかった。
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