慧眼たる炯眼の師

MHRウ教×ハ♀。両片想い。
ウ視点。

最近狩猟失敗が増え、自分は英雄なのに結果が残せていないと嘆き焦るハ♀。



──次の日の夕暮れも、同じように、燃えるように赤かった。

まるで繰り返しているかのような、赤橙色に満ちた眩い光に満ちた時間。決定的に違うのは、空の雲が白く、薄いこと。そして、可愛い我が愛弟子の狩猟成功の知らせが届いたことだろう。

たたら場の屋根上で一人、俺は、キミの帰りを待っていた。

(……今日は、少し冷えるな……)

寒さは人の心をもてつかせてしまうことがあるが、キミなら、もう、大丈夫だろう。

そう思っているが、愛おしい故に心配する気持ちばかりは、ぬぐいきれるものではなくて。
狩猟が成功した割には少々遅く、もしかして、と直感がその理由を予測しようとした時だった。

「教官っ! ウツシ教官ーーっ!!」

とても大きな、溌溂とした声。待ちわびていた声。

花冷えの寒さなど無関係に、それは元気に門を通り抜け、炎の如き夕陽を背負い、駆けて来る。
愛しいキミは、たたら場の屋根上にいる俺の姿を捕捉していた。

「おお! 愛弟子!! おかえりー! 今日は、どうだった!? バッチリかい!?」

黄昏時、長く、長く自身の影を伸ばし、周辺の影を時に揺らめかせ、時に重なり合って。
一生懸命、元気いっぱいに駆けながら、キミは俺に、親指を上に立てた拳を見せてくれた。

刹那、俺は密かに目を見開く。

駆けてくるキミの背中で燃え上がる、夕陽。その横で朧気に、帯のように輝く、七色の光。

虹の断片のような幻日げんじつの輝きは、まるでキミを祝福しているようにも見えた。

天にも愛されながら、虹の麓から帰還して来たような、愛しいかけがえのないキミは、笑顔で俺を目指して翔蟲を放ち、風となる。
俺は両手を広げて迎えた。

「おかえり、愛弟子! 今日も本当にお疲れ様!」
「狩猟、成功ですっ!」
「ふふふ、素晴らしい! さすがは我が愛弟子だあ!」

満面の笑顔のキミの頭を、キミの正面、キミの影の中で、俺は何度も何度も、愛でるように撫で回す。
先ほどの直感が俺に『なぜキミの帰還が遅かったのか』を改めて囁いてきたのは、そんな時だった。

「偉かったね、愛弟子。怪我がなくて良かった、本当によく頑張ったよ」
「えへへ、ありがとうございます! 凄くすっきりしたので、いつも通りに頑張れました!」
「モンスターの討伐だけでなく、安全が確保されるまで足を止められていた商人さんたちの移動も助けてあげたんだろう?」
「!」
「だから遅くなったんだよね? 素晴らしいよ、本当に……本当に、よく頑張ったね」

大きく見開かれた、キミの愛おしいどんぐりまなこ
夕陽の中で、ぱち、ぱち、と驚きに満ちながら、何度も目を瞬かせたキミの目。
やがて、それは、ふにゃりと蕩けるように嬉しそうに細まって。

……えへへへ。明日も、また頑張りますね、教官!」

炎のような夕陽と七色の幻日を背負った影の中でも、キミは、とても眩く微笑んだ。俺は、キミの影の中で「無理はしないようにね」と、何度も頭を撫でる。

──俺は、ちゃんと分かるよ、愛弟子

──埋もれさせない、絶対に気付くから……

──他の誰も気付かなくても、俺だけは、絶対に

「愛弟子、お腹空いてないかい? 良かったらこの後、一緒に茶屋で何か食べない?」
「いいんですか!? やったぁ! 実は、もうお腹ぺこぺこで!」
「ふふふ、それじゃあ、早く行こうか!」
「はい! ありがとうございますっ!」

俺たちは一緒に、同時に、夕空へと翔蟲を放った。眩い光の中に飛び出し、お互いが、お互いの影となる。

表情など埋もれてしまいそうな影の中。

それでも、俺達はお互いに、視線を交わしたことに気付いて、息を溢して笑い合う。

キミの瞳の中には赤い夕陽と、幻日の七色の輝き。

俺はその輝きを、キミの影の中で、この目と心に、この想いに焼き付けるように、見つめ続けていた。


@acadine