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夢篠
2025-04-16 03:39:25
2111文字
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第二回タソガレドキポンコツ選手権
鳥が嫌いな娘が好きな押都
1
2
空気が重い。何故かは明白だ。部屋の隅で押都が馬鹿みたいに重い空気を纏っているせいだ。居合わせた陣内と視線で遣り取りをするが何故こうなったのかは分からない。肩を竦めていると押都がめちゃくちゃ重いため息を吐いた。
「え、なに、押都」
「
……
どのような女も視線一つで堕とせる組頭には私の感情など分かりますまい」
「何があった?」
「屋敷に帰れば愛らしい妻が待っている妻帯者は黙っていろ」
なんか、凄く全方位に向けて攻撃的だ。重く湿った空気を醸しながら、全方位に向けて攻撃的なんて、毒キノコみたいな奴だな。それでも私に向けた「女どうこう」と陣内に向けて放った「妻帯者」という言葉から何となく予想はついた。
「どうせ
ナマエ
ちゃんの事でしょ」
「ああ、
ナマエ
殿。また避けられたのか」
陣内も理解が至ったようだ。
ナマエ
とは最近勤め始めた城の女中で良く働く気立の良い娘だ。笑顔が可愛らしい、タソガレドキでも良く男たちの話題に上っている印象だ。そして目の前のこの押都長烈という男も彼女に魅了されたクチだという訳だ。魅力的な彼女は誰にでも優しかったけれど、ただ一つだけ、問題点があった。
「
……
我が配下の気配すら拒絶され、剰え私の顔を見ただけで血相を変えて逃げられるこの気持ちなど、お前たちには分かるまい」
絶望した顔で呟く押都に笑いが止まらない。そう、
ナマエ
は押都の事を避けている。押都が嫌いなのではない。問題は彼の配下だ。
ナマエ
は鳥が大の苦手だった。以前それとなく理由を伺った事があるのだが、曰く、幼い頃幾羽もの鳥に群がられた事があるらしく、そこからどうも恐怖心が拭えないそうだ。そのためか、
ナマエ
はそもそも鳥に近付かないし、もっと言うと鳥に近しい人間にも近付かない。つまり押都にも滅多な事では近付かない。この間なんて廊下の向こうから押都が来た瞬間に「すみません!」と顔色を変えて去って行った。あの時の押都の様子ったら。おもしろ、じゃなくて見てて可哀想だった。
「でもこればっかりはさ、気持ちの問題じゃない?仕方ないよ~」
「別に押都の事が嫌いな訳では無いんだろう?鳥が苦手なだけで」
あの手この手で押都の気持ちを回復させようとするけれど、何か逆効果だったみたい。蔑むような視線と共に馬鹿みたいに重苦しいため息を吐かれた。なんでそんな目で見られなきゃいけないんだよ。
「好いた女が自分の顔を見て即座に踵を返す時の感情を推察しろ」
「あー、まあ、そりゃ悲しいよね」
「というか
ナマエ
殿に会う時に『鳥はいない』とちゃんと告げてやれば良いだけなのでは?」
陣内が不思議そうに問うから私も納得してしまう。妻帯者の謎の貫禄と説得力すご~。なのに押都は詰まらなさそうに鼻を鳴らした。
「私と梟たちが既に強く結び付けられている。姿を現した瞬間に距離を取られるようになった」
「
…………
かわいそうな押都」
なんだか泣けてくるね。昔はタソガレドキでも悪名高い喰い散らかしだったのに。狙った獲物は逃さない色男も形無しだね。陣内も少し困ったように頭を捻っているようだ。だがそれはそれとして流石妻帯者の貫禄だ。彼は直ぐに目を細めて笑んだ顔を作った。
「そうか
……
。では、文は?」
「は?」
お、やっぱり陣内良い事言うじゃん。文なんて趣深い選択肢、流石妻帯者の説得力~。押都もその方法には思い至らなかったようで、気を惹かれているようだ。身を乗り出して陣内に話を促す。
「
ナマエ
殿は鳥以外は大丈夫なのか?」
「
……
それが分かれば苦労はせぬな」
「ううーん。じゃあ、押都以外の人間が届ければ良いんじゃない?少なくとも押都以外とはちゃんと話せてるし」
「今書いてみろ。私が届けて来てやろう」
なんか陣内がとても乗り気なのは多分いつまでも身を固めない幼馴染を心配してなのだろうな、と二人を見詰める。ああでもない、こうでもないと二人で頭を突き合わせて文面を考える押都と陣内がちょっと羨ましい。
書き上げた文は一応確認してやろうと見せるようにお願いしたのに、見せてくれなかった。私は組頭だぞ???
***
数日後押都が小さく畳まれた紙を持って飛び跳ねながら入室して来た。良い歳した男がなんか気持ち悪いなあ。聞いたら
ナマエ
ちゃんから返事が来たんだって。読んだのか聞いたら勿体無くってまだ読めてないって、本当気持ち悪いなあ。
「見せてよ」
「良いでしょう。是非ともご覧頂きたい」
差し出された薄模様の和紙には綺麗な筆致で何やら書き付けてあった。さらりと目を通す。こ、これは
……
。
「ねえ、押都聞いて良い?」
「ええ、どうぞ」
「この返事、私には『どちら様ですか』って書いてあるように見えるんだけど」
「
…………
そう言えば先日の文、名乗りませんでしたな」
…………
恋は人をポンコツにさせるってほんとなんだネ~
……
。
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