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夢篠
2025-04-14 23:12:56
2106文字
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第一回タソガレドキポンコツ選手権
好き避けしちゃう山本陣内
1
2
陣内に嫁いだ娘は名を
ナマエ
といった。気立の良い美しい娘で笑顔の可愛らしい、まあ、所謂「行き遅れ」の陣内には勿体無いくらいの娘だ。こんな娘が屋敷で待っていてくれるなら、私なら毎日帰るのにと思う。
なのに陣内が屋敷に帰らない。寄り付かないと言っても良い。新婚なのにこれは良くない。という訳で気心置けない仲の私が先鋒を務める事になった訳だ。
「陣内~、家帰んなよ~」
「は?いや、まだ仕事が、」
「それ、締切ひと月先のやつだよね?今する必要ある?」
「急に長期の忍務に出る事があるやも、」
「え?最近は何処の城も落ち着いてるって昨日の軍議で確認したばっかでしょ」
「しかし急に私が人事不省に陥るやも
……
」
「え?健康診断行って来なよ」
「
………………
」
「
………………
」
「
………………
」
「
………………
陣内さあ、もしかして家に帰りたくないの?」
忍びとは思えない程分かりやすく、陣内の肩が揺れる。は?帰りたくないの?何で??あんなに可愛い嫁御がいるのに?何で??は?意味分かんない。
頭の中で疑問符が踊り回る。とりあえず腰を据えて話を聞いてやろうと人払いをする。それから陣内と向き合って彼の様子を観察した。
見た目はいつもと変わりない、気がする。少し覇気が無い気もするけど。でもいつもは真っ直ぐ私に向けられる視線が今日は泳いでいる。
ナマエ
ちゃんと喧嘩したのかな。新婚なのに。
「何で帰らないの」
「
……
、そ、れは」
「帰りたくない訳?」
「い、いえ、そうではなく
……
」
「
ナマエ
ちゃんのせい?」
「い、いえ
……
、どちらかと言うと私の問題ですな」
何を言ってもはぐらかされるので埒が明かない。頭を捻る。帰りたくない訳じゃ無くて、
ナマエ
ちゃんのせいでもなくて、どちらかと言うとこの問題の発端は陣内、という事か。
「
ナマエ
ちゃんと喧嘩した?」
「い、いいえ。寧ろ喧嘩する程顔も合わせていないというか
……
」
「それな。うーん
……
。あ、じゃあ、
ナマエ
ちゃんが可愛過ぎて顔が見れない、とか?」
「っ!!!」
陣内の肩がめちゃくちゃ揺れた。忍びの癖に。え、本気??冗談のつもりだったのに。あの山本陣内が、新婚の嫁御が可愛過ぎて好き避けしてる???何も知らない小僧みたいに??
「
……
昆。馬鹿にしているだろう」
「ちが、っ
……
く、そん、なっ
……
馬鹿、に、ぐっ
……
、してな
……
っ」
笑っちゃって声が震える。ここ二、三年で一番面白過ぎる。でも良い加減にしないと陣内が怒るから笑いは引っ込める。
「へえ~~、てっきり
ナマエ
ちゃんとは政略で結婚したんだとばかり」
「
…………
、そのつもりだったのですが、その、あの見合いの席で、」
「あ~、あの日の
ナマエ
ちゃん超可愛かったよね~」
桜色の着物を纏った彼女は春の陽光に照らされてまるで桜の精のようだった。ニコニコしていたら陣内がめっちゃ睨んで来た。ええ
……
、駄目だったの?
「何を想像しているのか知りませんが、人の妻を邪な目で見るのは辞めて頂きたい」
「ごめんって。そんな怖い顔しないでよ
……
。それであの席で惚れちゃったから恥ずかしくなったの?」
図星だったのか、陣内が音を立てるように私から目を逸らした。うわ、面白過ぎて笑いそう。怒られるから笑わないけど。
「え、でも初夜も済ませた癖に今更何を恥ずかしがる事が
……
、」
「それ、なのですが
……
、」
この世の終わりのような顔で陣内が口を開く。最初に言いたい。最後までちゃんと聞いた私をどうか褒めて欲しい。
陣内が言うには、初夜自体は無事に終わったそうだ。月の光に照らされた
ナマエ
の身体はとても美しく、なんて本題から外れた惚気も聞きながら。ともかく初夜は終わらせたのだが、その時に陣内は酷く恐ろしくなったそうだ。こんなに小さくて脆い存在に、これからも己の欲望をぶつける事が。
「私の下で痛みに涙を溢す
ナマエ
を見て、恐ろしくなったのです。いつか、この存在を壊してしまうのではないかと」
「へ、へえ~
……
」
なんか凄く恥ずかしいんだけど。止めてよ。何が楽しくて兄貴分の閨事情なんて聞かないといけないの。色忍務より全然恥ずかしいな。
「その、私はこの通り若い娘の好むような話題も知らぬので、あの夜以来
ナマエ
と自然な会話の仕方が分からず、」
「あ、うん、取り敢えず、状況がもっと悪くなる前に一回家に帰ろっか~。寧ろ帰れ」
「で、ですが
……
、」
「陣内、お前言葉が足らなさ過ぎだよ
……
。初夜以来避けられてる
ナマエ
ちゃんが可哀想
……
。他の男から見たら格好の餌食だし
……
」
「は!?
……
っ、その、」
「良いよ、今日はもう上がって~。結果報告だけヨロシク~」
脱兎の如く立ち上がって室を退出する陣内の背を見ながらぼんやり思う。
あいつ、あんなにポンコツだったっけ。
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