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夢篠
2025-04-14 21:30:16
1939文字
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兄弟星(雑渡双子弟)
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兄弟星二人、宙眺む
兄に相談する雑渡双子弟
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2
ナマエ
が俺の部屋に来ている。理由は良く分からない。まだ何も言われていないから。でもきっと
ナマエ
は傷付いている。言われなくても分かる。だってそれくらいの時しか、俺の弟は俺を頼らないから。
ナマエ
に対して正面を向く。下手に小細工するよりそちらの方が良いと思った。
「なんかあった?」
「ん
……
。なん、だろ。良く分からない。でも、嫌な気持ちになってる」
すり、と俺の手を近寄って来た
ナマエ
の指が撫でる。大きな目が俺を見て、温もりを求めるようにその身体が俺の方へ寄せられる。俺と良く似た顔がへの字口で不機嫌さを伝えている。許されるか分からなかったけれど俺と似た個体をぎゅうと抱いた。昆奈門、と
ナマエ
が呟いた。俺は
ナマエ
と返した。
「
……
陣内に、嫌な事を言っちゃった」
桶に張られた水が耐え切れずに零れ落ちるような声だった。とても冷静だけれどとても困った声で
ナマエ
が言葉を落とした。「何を言った?」と自然に聞いたつもりだった。珍しいと思った。
ナマエ
がそうやって自分のやる事で酷く落ち込むのは。
「
……
俺の立場しか見てない癖に、って言った」
「
……
ああ、なるほどね」
それだけで、何が起こったのか何となく分かってしまった。きっとそれはかつて俺と陣内の間で起きた事だ。俺たちはただ、生まれて来ただけなのにそこに付随する事実を曲解する周囲は俺たちが思うより沢山いた。俺たちは急にその目に晒されて正しく振る舞うように言われたけれど、何が正解なのかは未だに分からないでいた。
「陣内は悪くないんだよ。
……
俺がさ、怖くなっただけなんだ」
ナマエ
に起きた事は少しだけ父の話を盗み聞きして知っていた。最近懇意にしていた城勤めの下男が消えた事も。父は限られた人間にだけこれを伝え、しかもきつく口止めしていたようだったから、きっと陣内は知らないのだろうけれど。
「俺は怖い。俺に近付く人間全てが、俺の立場を見ている気がしてならない。陣内は違う筈なのに、俺は間違うかも知れないから、そうなるくらいなら最初から誰も要らない」
ナマエ
が小さく俺に頬を寄せる。俺も
ナマエ
を引き寄せた。俺たちはきっと、この世でただ二人、同じ思いを抱える事が出来る筈だった。
「俺はもう、傷付くのが怖い。昆奈門ですら、怖い」
「そう?俺は
ナマエ
の事をこの世で誰よりも信じているけど」
「そう。それはありがとう」
ナマエ
の声が笑むような気がした。それは少し救いだった。お互いに身を寄せ合う。それは二人で父に叱られた、「あの夜」のようだった。
「俺たちは、きっとお互いを信じておけば良いと思うんだよな。だってこの世で俺と
ナマエ
だけが、同じ痛みを知れる」
「
……
そう、か。そうかもね。なら陣内にだってこの気持ちは分からないのか」
少し安心したように息を吐いた
ナマエ
は俺の腕の中で微睡むように目を閉じた。閉じ込めるようにその身体を抱くと、
ナマエ
が小さく俺の名前を呼んだ。
「なに?」
「昆奈門は俺を裏切らないでね。俺たちは俺たちだけは最期までお互いに、お互いのために存在しよう」
それはとても重たい言葉だった。忍びとして生きるには余りにも重過ぎる。俺も
ナマエ
もきっとそれが許されない事を知っている。それでも俺は頷いた。俺の半身は真実など望んでいないと知っていたから。
「陣内には、謝って来いよ。俺も昔同じ事言って謝ったから」
「
……
ふうん。なんだか陣内って可哀想。俺たちみたいなクソ餓鬼に付き合わされて」
「はは、言えてる」
あれは将来、胃痛持ちになるなあとどうでも良い事を考えた。それからとても、何だか幸せな将来の夢を見た。将来、いつか、これは希望的な展望だ。俺か
ナマエ
が組頭と狼の小頭になって、陣内が俺たちを支えるなんてどうだろう。そしたら俺たちの誰かが死ぬまで三人は一緒だろう?それは俺が望んではいけない未来なのだろうか。
「昆奈門はどうやって謝ったの」
「俺は親父殿にバレてぶん殴られて謝罪の席を作らされた。マジで痛かった」
「ぅ、それは嫌だな
……
。あ、あの、昆奈門
……
、」
「良いよ。着いて行ってやるよ」
ナマエ
が腕の中で小さく笑った。良かった、上手い事纏まりそうで。
ナマエ
と陣内が仲直りしたら、三人で甘味でも食べたいな。それからずっと、そうやって三人でいたいな。俺たち全員が死んでしまうまで。
それが許されるなら、とても幸せな事なのに。それが許されたなら、とても幸せだったのに。
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