2025-04-12 15:44:59
1377文字
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知らざるを知らずと為す


nkzikドロライ様のお題「七松小平太」(4/9)を受けて書いたもの、「ほとんどすべて」https://x.com/K_rakuen/status/1910883171597688867 のオマケ。
長次の話をする四郎兵衛と羽丹羽くん&小平太。

すごく気持ちのよいドライさがありそうな、六年ろ組が好きです。

「あっ見て、羽丹羽くん。中在家長次せんぱいだ」
 おさんぽ中にお見かけした中在家せんぱいは、どうやら鍛練中らしかった。お邪魔しないように離れたまま、ぼくは羽丹羽くんに、せんぱいの武器について紹介した。あれは縄鏢っていってね。
「すごい、へんげんじざいですね」羽丹羽くんは目をきらきらさせて、「でも、あの武器、ぐっと近づかれたらどうするんでしょう」
「あ。確かに」
 ぼくは縄鏢のことも、中在家せんぱいのことも、そこまで詳しく知らない。ぼくらがうーんと考えていると、「接近されても問題ないぞ」と木の上から声がした。木の上から急に声をかけてくる人なんて、一人しかいらっしゃらない。
「一度手合わせで、うんと勢いよく懐に飛び込んでみたことがある。そしたらぶん殴られた。長次は力があるからなあ。試してみるか?」にゃははと笑う声に、ぼくたちは二人そろってぶんぶん首を横に振った。「冗談だ。長次は後輩を引っぱたいたりしないさ。しないが、まあ、同じように飛び込むのはやめたほうがいい。もう別の対策を仕込んでるだろうからな。次に近づいたら何が飛んでくるか分からん!」
……分からないんですか? せんぱいたちは、同じ組で同じ部屋なのに?」
「ああ。分からん。同じ組で同じ部屋だが、私と長次は同じ人ではないからな。そう何もかも分かるわけではない」七松せんぱいはからりと言った。「あれからは、私の知らないことがぽんぽん出てくる。だからおもしろいのだ。一から十まで教えられたら味気ない」
 それにっ、と、七松せんぱいがくるんと二回転して、ぼくらの前に降り立った。「私は、そういう細かいことは気にしないのだっ」言うが早いか、せんぱいは地面を蹴り飛ばして、消えた。ちょーじ! 七松せんぱいの声だけが置き去りになる。ぼくらが七松せんぱいの背中をやっと見つけたときには、お二人は既に苦無か何かで組み始めていた。
……七松せんぱい、とびこんでいかれましたね」羽丹羽くんがつぶやいた。
「うん、そうだね」ぼくはがんばって、お二人の拳のゆくえを追いかけようとするのだけど、全然だめだ。「七松せんぱいは、ああいうお人だからねえ……
「けっきょく、中在家せんぱいは、別の手とやらで迎えうたれたんでしょうか。お二人の動きが早すぎて、初めの一手がちっとも見えませんでした」
「ぼくもだよお。分かんなかったねえ」
……分からなくてもいいんだと、七松せんぱいがおっしゃってましたね」羽丹羽くんが、ちょっと楽しそうに言った。「ぜんぶ分からなくても、それがおもしろいんだ、なんて、なんだかすてきでしたねっ」
「エ、そ、そうかなあ……」中在家せんぱいの笑い声が聞こえる気がするけれど、七松せんぱいはそれをおもしろがっていて大丈夫なのかな。ただ、確かに、すべて教わったら味気ない、と言い切る七松せんぱいは、堂々としていて格好良かった。「……うん、そうだね。ぼくも言ってみたい! 知らないほうがおもしろい、って言えるようになってみたいっ」
「うんうん、かっこいいです!」
 ぼくは羽丹羽くんと、おー! と拳を突き上げてみて、二人ともちょっと照れくさくなって、うふふと笑った。そうしたら小石が、せんぱいがたの手合わせでぴゅんぴゅん飛んできたので、おさんぽ再開どころか駆け足退散するはめになったのだった。