保科
2025-04-06 09:36:04
946文字
Public ひびちか
 

似合わない

ログイン限定って一覧に出るんだ…………
すごい短いです

お題
ちょっとせくしーなやつ

「だから違うって――
「わ、」
強く押したつもりはなかった。けれど、私に肩を押されたひびきがベッドに背中から倒れ込む。彼女に体重を預けていた私も、後を追うようにバランスを崩す。咄嗟に彼女の顔の横に手をついて、――気付けば、ひびきを押し倒すような体勢になってしまう。
鼻先が触れ合いそうなほどの距離の中。真ん丸のひびきの瞳に、ほんの僅か、見惚れてしまう。
………
………
――っ、ごめ、」
瞬きに我に返る。慌てて離れようと、手に力を込めて――即座にぐい、と抱き寄せられた。抗えずひじで折れて、その距離に、ぎくりと全身が固まる。首筋に絡まった彼女の腕が、いやに熱い。
目を惹かれるつややかな唇が、ゆっくり揺れる。
……ううん、いーよ?」
「だっ……よ、くはないだろ……っ!?」
主語がないまま曖昧に交わされる会話は、どうしようもなく千切れそうな私の理性の話をしていた。
隠すこともできないうわずった声のまま、それでも、どうにか逃れようと足掻く私のことを。ひびきは、もう離さない。
ふに、と、近付いた鼻先が触れ合う。甘い痺れに息が詰まった。視界いっぱいに映る、彼女のわずかに細まった瞳の中に、私だけが映っている。私だけが、今、彼女の中にある。その事実に、強く胸が締め付けられる。
「いいの。
チカちゃんになら、ぜんぶ、あげるから」
―――
甘い囁きに、目眩がした。どろどろにとろかした水飴みたいな言葉が、私の脳髄ごと思考に染み入って、全部全部だめにしていく。失いたくない、大切にしたい、穢したくない――いつか、どこかで託した、想い出の中の祈りごと、全部、ぜんぶ。
ああ。浅く吸った息の艶めかしさに、頬の色めきに、散った髪の柔らかさに、ただ、飲まれて、溺れて、
「ね、おねがい――
……………ひびき」
「うん」
――墜ちる。ぐらぐらに煮えた脳裏で、後戻りできないどこかへ足を踏み入れながら。最後の抵抗に名前を呼んだ。だから、その後の言葉は全部、無意識で――当たり前の事実だった。
「愛してる」
「わたしも」
どうしたって似合わない言葉にも、嬉しそうにはにかむ女の子。出会ったときと変わらない、柔らかな笑顔の中。その奥に揺れる、狡くていじらしい欲ごと、全部私のものにする。