保科
2025-04-04 23:19:09
2231文字
Public ひびちか
 

スナオちゃんのこと便利に使いすぎててごめん
※大学同棲成長パロシリーズ

「今日は来てくれてありがとね!スナオちゃん」
「おーよ!いやあ、ひびきちの手料理も食べれてホントに満足ですわ〜」
ひびきと千鍵が暮らすマンションの玄関口。外廊下でつま先をたたいて靴をならすスナオに、扉に手をかけたひびきが笑いかける。
大学に進学した後さっぱり髪を切ったスナオに対して、肩口よりも長く伸ばしているひびきの二人の並び。高校の頃を知る千鍵から見るとなんともチグハグで、みょうちきりんだった。
「いっぱい喋れて楽しかったよ!ね、チカちゃん」
「ん……
壁に背を預け、特に長さは変わらない髪を下ろした千鍵が、腕を組みながら鼻を鳴らす。昼前から夕方まで好き勝手居座って、まあやかましいのなんのって。
「ま、そうだな。おいスナオ、次は4年後なら来ていいぞ」
「あたしゃオリンピックじゃねーのよ。明日も明後日もこまめに来たろかオイ」
「暇しやがって大学生が……
「テメーも大学生じゃん!?」
「もー、チカちゃん、すぐケンカ売るんだから……あ!」
二人の丁丁発止に困った様子で眉を下げていたひびきが、ふと声をあげる。
「ごめん、お土産渡すの忘れてた!今取ってくるね!」
「あ、焼いてくれたクッキー?そういやそーじゃん」
スナオが先刻までのリビングでの会話を思い出す間に、ひびきはちょっと待っててー!と踵を返して部屋に戻っていく。止める間もなくあっという間で、ストッパーがなくなった扉が音を立てて閉まる。
「ったく、本当に今日のアイツ元気だな……
……んー……
……おい、なんだよ」
千鍵が呆れ気味にため息をついていると。ふと、スナオがこちらを見つめていることに気がついた。ただ目を向けた――というより、じろじろ、観察するような目つきに、千鍵は居心地悪く悪態をつく。それを受けて、スナオはわざとらしく肩を竦める。
「いやね?
まあ、二人の愛の巣にお邪魔した身の上で、あんまし言うの野暮かなーとは思うんだけどにゃー……んー……でもやっぱ言っといたほうがいいかなーって」
「だぁーかーら、そのキモい言い回しやめろ。
……勿体ぶるなよ、何が言いたいんだ」
「首」
とんとんと、スナオが自分の首筋を人差し指で軽く叩く。
千鍵もつられて、自分の首元を触る。……特に何もない。
「ま、お幸せに?」
「は……?」
謎の祝福と、おまけとばかりに突然の指ハートを向けられて、千鍵がなんなんだと怪訝に顔をしかめていれば。
「お待たせ、スナオちゃん!」
がちゃっと扉が開いて、お土産を取りに行ったひびきが戻ってくる。
「これどうぞっ」
「おー!あんがとじゃん」
手渡されたちいさな紙袋を満足そうに眺めて。んじゃまたね〜と片手を振りつつ、スナオはエレベーターの方へと歩き去っていく。
千鍵が、アイツ本当に明日来ないだろうな……と疑い半分にその背を見送っていれば。手を降って見送っていたひびきが、くるっと千鍵を向く。
「あのさ、チカちゃん」
「ん?」
「首元、どうかした?なんか刺されたの?」
……あ」
言われて、まだ首筋に触れていたことに思い至った。ひびきは抑えたままの手を不審に感じたのだろう。
慌てて手を離して、否定しようと――
「いや、これはスナオ、が……
――刺された。その単語に、じわり、嫌な予感が過る。そこからは連想ゲームだった。千鍵は、スナオの処遇を考えつつ、耐え難い頭痛をこらえるような顔で口を開く。
…………ひびき、ちょっと動くな」
「へ、うん……?」
戸惑ったひびきの肩にかかる髪を、指先で軽くどかして――理解する。
……………………あー………………
「え、ち、チカちゃん?どうしたの、顔真っ赤だよ……大丈夫?」
そのまま肩に手をおいて、頭を落とす千鍵に、ひびきが何事かとおろおろと狼狽える。
「ごめ……、いや、ごめんというか……まあ私が悪い……んだけども……
……?」
「だから、その……うん……
「歯切れ悪いよ……?」
そりゃ悪くもなる。千鍵は、迷って――でも、そのままにしておくわけにも、どうにも、いかずに。意を決して、重い口を開く。
「き……
「き?」
「だっ、だから!
昨日、の……その、首に…………
「昨日……?って―――あっ」
ぽかん、としたひびきの表情が――不自然な半笑いで固まる。みるみる赤くなる頬の上、目が忙しなく泳ぎ出して。
「ご、ごめんね!
あの、えっと、首!首、隠すね、わたし!」
「お、おう!そうだな!うん!」
後退しながら慌てて頷く千鍵の前で、首をぎゅっと両手で押さえたひびきが、へへ、と誤魔化すみたいに笑う。そのまま、そろ、そろ、と横に歩いて――もつれて大きくつんのめる。
「わあっ!」
「おい!危なっ」
倒れないように慌てて抱きとめて。背中に回った千鍵の手に、ぎくりとひびきの体が固まる。――しまった。一気に近づいた距離に、冷や汗が浮かぶ。
「だ、大丈夫…………?」
「ち、チカちゃん……
……ごめん、今どくか、」
「あ、あのね!その。
嫌じゃないよ!ないんだけど。
……す、すごい、恥ずかしい……カモ……
……………その、マジで、調子乗ってごめん……
胸元にぎゅっと押し付けられる熱さに、千鍵もまた、目を瞑って静かに反省した。『次』があるのなら、もう少し、考えて――いや、考えられる余裕があるかは、自信がないかもしれないけど。
――とりあえず、スナオは生かしておくことにする。