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河童の皿箱
2025-04-02 09:17:01
1943文字
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旧作
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怒恐試し
スパイダーとライズハートのお話。
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2
「やれ」
『それが人にお願いする態度どすか?』
「やれと言っている!」
『やれやれ、やれやれ。困ったお方やなぁ』
機械のすぐそばに立つ黒服。顔すら見せないそいつは、わざわざ機械に声を通して話す。散々命令を下しているというのに、こいつは一切聞き入れやしない。ロボットはケラケラ笑いながら、こちらを見下してくる。思い通りに動かない。腹が立って仕方がない。
『帰らせてもらいますわ』
「帰れると思っているのか? 我々にその力を捧げぬ限り、逃げられぬというのに」
『逃したところでたかが1人の技術どすえ。ここまで見事に城を築けるのなら、必要あらへんやろう』
黒服は踵を返す。こいつの持つ技術が我々の役に立つだろうと、ユニコーンに指示を出してここまで連れて来たにも関わらず、こいつは話をひとつも聞き入れようとはしなかった。
足早に部屋の外に出ようとするが、当然開かない。事前に鍵を閉めている。それに気づいた黒服は、機械を通してはぁとため息をついた。
「言っただろう。やれと言っている」
『言ったやろう。いやと言っている』
言葉を真似され、より一層癇に障る。何故こいつは話を聞き入れないんだ。
時間が惜しい。牢にでも閉じ込めてしまえ。フェンリルを呼び、命じようとした瞬間だった。ロボットが窓をぶち破り、黒服を抱え込んで外へと飛び出していったのだ。
己の中の熱が燃え上がり、頭が熱くなる。武器を携え、後を追う。そう速く移動しているわけでもない。もうこいつに構っている時間はない。いつものように斬り殺そう、と。しかし追い付き、いざ斬りかかるべく振りかぶれば、突如振り向いた人形の顔が澄ました顔から一瞬で怪物のような顔に変貌した。血の如き赤、口が大きく裂けては、そのあまりの変貌ぶりに熱は一瞬で冷め、手が止まる。直後、真っ白い網が体に纏わりつき、足を取られ、地面に叩きつけられた。
一体、何が起きた?
気がつけば、俺は黒服に網で縛り付けられ、身動きできず、機械に武器を奪われていた。
『なんや。怒る以外もできるやないの』
「離せっ!」
『なんでそないに怒んねん。怒ったって何にもなりやしいひんのに』
自らの中に燃え上がるのは、屈辱。ただの驚かしと小道具ひとつに、良いようにされて。何とか抵抗するが、網が絡まって思うように力が入らない。それこそ、黒服の貧弱そうな腕に抑え込まれるほどに。
「
…
何をする気だ!?」
『なんもしまへんで。ただ家に帰してもらえたらそれで結構。
…
あぁ、そうか。あんたは怖いさかい怒ってるんか。憐れやな』
「どういう
…
ことだ!?」
『戦う以外に何にもあらへん。なんかを楽しむ余裕もなければ、守りたいものもない。己を肯定できひん。そやさかい、怒るんやろう?』
なぜ怒るのか? その問いかけに、そもそも怒りとはなんだ、とひとつの疑問が浮かんだ。自分は、怒っているのか? それすらも、何も証明できない。
城は築けば出来上がる。回路は繋げば動き出す。全ては証明ができる世界だ。答えが存在しない問いかけなど、時間の無駄。そう切り捨てて、またもがく。もがけばもがくほどに、網はまた絡みつく。
…
一体何がどうなってるんだ、この網は!
『さて。帰る準備も出来たさかい、今日はこれで失礼します。ややこみたいな振る舞いをやめて、楽しめるようになったら
…
また会いまひょ』
ややこみたいな、振る舞い。ややことは、なんだ。妙な喋り方をする奴だ。網に体力を奪われ、力尽きれば、体にかかっていた負荷が突如として消え去る。何とか網から脱出したが、そこにはもう、黒服も、人形も、影も形もなかった。ただ残ったのは、この網だけ。
「
…
クソっ!」
あのふざけた奴は一体何なんだ。たしかに、あの人形の変形機能は目を見張るものがある。それをただ、あんな驚かしのためだけに使うなど。もっと武器や銃を大量に組み込めば、より戦力になるはずなのに。なぜ。理解ができない。次あったら絶対に首を掻き切ってやる。人形だって奪って、分解してしまえばいい。
今までも、そうしてきたんだ。そうしてきたから、ここまで素晴らしい世界を作れたんだ。
けれど、あいつに言われた「怖いから怒る」という言葉は、何も証明できず、否定も肯定もできず、ただただ耳の内側で鳴り続けていた。
怖いとは、一体何なんだ。怒るとは、一体?
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