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しゃどやま
2025-03-31 22:58:47
3897文字
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【宗戴・人魚姫パロ】知略縦横の人魚姫
人魚姫のストーリーをなぞる宗戴のやつです。
次のページに台無しなおまけがあります。
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2
昔々あるところに、人間の世界を夢見る人魚のお姫様がいました。
太陽の光のように輝く金の長い髪と、桜貝のように美しい鱗を持っています。そして賢く、人間の書物を得ては勉強し、読み書きができるようになっていました。
人魚は、海底の世界を統べる上位種族です。あらゆる魚を支配し、広い海域を支配していました。その中で人魚姫は強く育ちました。
ある日のことです。人魚姫は父親に呼び出されました。
「人魚姫よ。お前には地上へ出てもらう。地上を制圧するために、勢力図を理解してくるのだ。あわよくば国を乗っ取り、進軍の足がかりにしてもらう」
「はい。わかりました」
お姫様は頷くと、海の魔女の元へ向かいます。忙しく働く魔女に声をかけました。
「姫様の要望に応えたいのは山々ですが、人間の足を手に入れるとなると代償を支払わなければなりません」
お姫様は微笑みました。
「どのような宝物でも捧げましょう。私の肉体も、腕や心臓でなければかまいませんよ」
「でしたら、声はいかがでしょう」
「声。いいですね。海の生きものとはエコーで会話できますし」
契約はあっさりと成立しました。満足気に人間になる薬を受けとり、お姫様はエコーで返事をします。
「ありがとうございます。この御恩はまたいつか」
「姫様、どうかお気を付けてください。人間は恐ろしい生き物と聞きます」
「大丈夫ですよ。調べに行くだけですから」
そう言うとお姫様は陸へ向けて泳ぎます。人間に取り入る方法は、いくつか考えていました。
お姫様は、大きな船を見つけます。豪華な船は、港に帰るところでした。
「陸も近い。これならば被害は少なそうですね」
エコーでお姫様は海底へ信号を送ります。すぐさま大波が、船を揺らしました。簡単に船はひっくり返ります。お姫様は海の動物とともに人間を一人ひとり助けながら、身なりが豪華なものを探しました。
「彼がいいでしょう」
お姫様が抱えたのは、黒い前髪を長く伸ばした一人の美青年でした。身につけた服の豪華さ、宝石の数から貴族だと判断します。その青年を抱え、二人きりになれる渚へ連れて行きました。
彼に水を吐かせ、人間になる薬を取り出します。飲み干すと、すぐさま身体から煙が上がりました。
「く
……
っ」
喉が痛みます。エラがなくなり、呼吸が苦しくなります。鱗が溶け、すんなりとした細い足が現れます。人間の身体になったのです。
衣服はありませんから、人魚姫はこんなこともあろうかと船の積荷からチュニックをいただいておりました。急いで被り、濡れた髪を簡単にまとめます。長い脚は剥き出しですが、なんとかふとももまでは隠せました。人間は身体を隠すと、賢い人魚姫は知っていましたから。
そうして、黒髪の青年が起きるのを待ちました。濡れた身体が冷えないように服を脱がせ始めたところで、青年は目を覚まします。
青年は、鋭い緑の目をしていました。海藻を光に透かした時よりも明るく、南洋の魚のように鮮やかで。人魚姫の不慣れな呼吸が、一瞬止まりました。
「うぅ
……
っ」
青年は咳き込みます。ひとしきり吐いた後、口を拳で拭いました。そして人魚姫を見つめます。
「君は
……
助けてくれたのか、ありがとう」
人魚姫は頷き、微笑みます。人間に恩を売り、情報を得る作戦だとも知らずに、青年は冷えた手で人魚姫の手を取ります。
「名前は? 城で礼をしたい」
人魚姫は答えられません。声を失っていたからです。同時に、人間に説明できる身分はありません。もともと、嘘を吐くつもりでした。
「喋れないのか? それとも記憶が
……
」
人魚姫は青年の手に、文字を書きます。
わからない、と。
「そうか
……
喋れず、記憶がない。それは辛いだろう」
青年は上品な顔に面倒見のよさそうな微笑みを浮かべました。
「俺は叢雲だ。俺の城に来てくれ。記憶が戻るまで暮らすといい」
叢雲はこの国の王子でした。人魚姫は片頬を持ち上げます。国同士の勢力を知るには、うってつけの場所です。記憶を失っているというふれこみをいいことに、叢雲は様々なことを教えてくれました。
「自分の生まれた場所を探しているのか? 地図をみせてやろう」
そう言って地図を広げ、ひとつひとつ人魚姫に説明してくれます。人魚姫が受け取った紙束にペンで疑問を書くと、丁寧に答えてくれました。
「その国はさほど豊かではないな。協定を結んでいるので攻め込んでくる可能性も低い」
人魚姫は頭に叩き込みます。すべては人魚によって地上を支配するため。人魚姫の覚えがよいと、王子は微笑みました。
「賢いな。生まれた家が貴族だったんだろう」
人魚姫は曖昧に微笑みます。王子に優しくされると、微かに胸が痛みました。
「
……
はやく記憶が戻るといいな」
そう言うと、王子はまた地図の説明をしてくれました。
人魚姫は、ひとりでこっそりと渚に来ました。海に触れ、エコーで伝令を呼びます。数ヶ月かけて学んだ各国の情報を伝えました。
「王様からの言付けです。王子に近づけたなら、婚礼をして内政を支配する手もある。様子を伺え、とのことです」
人魚姫は硬直しました。王子は美青年で、とても魅力的です。けれど、嘘をついて傍にいるのです。結婚などできるはずもないと、人魚姫は思っていました。
「
……
はい」
ですが、人魚姫は頷きます。他の選択肢はありませんでした。
青い顔をした人魚姫が戻ると、王子は心配そうに眉をひそめました。王子もどこか元気がなく、窓辺の長椅子に座ると、人魚姫を呼びました。
「
――
俺の政略結婚が進められている」
人魚姫は隣に座り、王子の手を取ります。手のひらに「うけるのか」と書きました。王子の手は、溺れた時よりも暖かく、しっとりと汗ばんでいました。
「本来であれば、受けざるを得ないだろう。国の益になる結婚だ」
俯いた人魚姫の手を、王子が握り直します。人魚姫を抱き寄せて、いいました。
「だが、俺は
……
愛したひとと添い遂げたい。国を出ることになってもだ」
びく、と人魚姫は肩を震わせました。王子の言葉は続きます。
「俺は誰かに操られるために生まれてきた訳じゃない
……
見ていてくれ。俺の決断を」
人魚姫は頷きます。王子の言葉はとても強く
――
私の出る幕は、ありそうもない。人魚姫は王子の手をゆっくりと振りほどき、また外へ駆け出しました。王子を巡った婚礼話が出ているとなれば、勢力図は大きく変化します。急ぎ父王に知らせる必要がありました。
渚に来た人魚姫は伝令に向けてエコーで話しかけます。
「王子は好きな相手と結婚するため、出奔しようとしているようです。政略結婚を蹴ることになるので、情勢が変わると考えられます。私との婚礼は無理でしょう」
伝令は素早くひるがえり、海底へ言葉を伝えます。帰ってきた伝令は、父王の言葉を告げました。
「わかった。では王子を殺し、軍師として戻ってこい、だそうです」
「
……
は」
「王子を殺せ、とのことです」
「それは
……
なぜ、ですか」
お姫様は、初めて疑問を口にしました。脳が理解を拒んでいます。父王の言葉は絶対であるというのに、最善とは思えません。時間をかけて帰ってきた言葉は、残酷なものでした。
「お前が人間に寝返っていない保証はない。忠義の証明として、親しい王子を殺せ。そうすれば元通り、人魚として迎え入れてやる
……
とのことです」
お姫様は何も答えられませんでした。それを承諾だと思ったのか、伝令は頭を下げて帰っていきます。
波の音だけがする渚で、人魚姫は立ち尽くしました。
人魚姫が夜まで帰ってこないことを知り、王子は城を飛び出して探し回りました。海を見下ろす高台の岬に佇む人魚姫を見つけた王子は、ほっと息を吐きました。
「ここにいたのか。帰ろう」
安心し、手を差し伸べます。人魚姫はその手を掴み、抱きしめるように引き寄せました。
そしてナイフで王子の腹を刺しました。
「
――
ぇ?」
熱い痛みが王子の腹を焼きます。人魚姫は王子に対して唸ります。顔は俯いていて目はあいません。
「な、ぜ
……
」
王子は腹を押さえます。ぬるりと熱い血が指に触れました。
「 」
人魚姫は、口をぱくぱくと動かします。痛みに動揺する王子には、なんと言っているかわかりません。
「お前、は
……
」
王子の言葉を拒絶するように、人魚姫は王子を突き飛ばします。たたらを踏んだ王子は、岬の断崖を落ちて行きました。夜の暗い海に吸い込まれていきます。人魚姫は、王子と逆方向に走ります。不慣れだった足もすっかり地上に慣れて、痛み無く走ることができました。
「これで、元の私に戻れる」
自分に言い聞かせるように、頭の中で繰り返します。父王の命令に従う、優秀な一人の人魚に戻れる。
そして人魚姫は、王子と出会った渚から暗い海に飛び込み、人魚の姿を取り戻しました。
王子の部屋には、人魚姫に渡すつもりだった恋文が残されています。
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