夕凪

5月に出る予定の銛イサヒス
尻叩きのために一部を掲載します

 
 
 視線の先にはいつもその人がいた。

 彼は目を引く容姿とは相反するようにただひそやかにそこにいて、狭い船の上で淡々と暮らす人だった。
 彼は船員の誰よりも恵まれた体躯を持ち合わせていたが、その実誰よりも不自由な人だった。

 船上と言う名の牢獄の中で、彼の視線は常に水平線の先にある景色に囚われていた。
 そこに何があるのかを訊ねたこともあったが、彼は口を噤み顔を背けるだけだった。
 その瞬間、彼と同じものを眺めることはできないのだろうと、己の直感がそう告げていた。

 目を焼くほどの鮮やかなオレンジ色。
 陽光に当てられ影が落ちたその人の顔は、たとえこの先どのような生き方を選んだとしても、日々の端々に焼き付いて離れることはないと思った。