保科
2025-03-24 22:16:40
3182文字
Public まほ箱系(オールキャラ)
 

3人で出かけたいって話をしている

まあスナオちゃん普通に海行ってたよな……と思いながら全てを捻じ曲げた 魔眼 

お題
スナオちゃん!

お昼のお弁当も食べ終えて。うつらうつら、船を漕ぐスナオのところへ近づく足跡が聞こえる。歩幅は小さく、姿勢が真っすぐ、ほんの少しだけリズミカル。――分かりやすい。ぱち、と目を開けた。
……どしたー?ひびきち」
「わ、あ、えっと」
不意に顔を上げる。起こそうとしたのか伸ばしかけた手を宙に浮かせたまま、ひびきが目を見開いた。
「び、ビックリした。
ごめんねスナオちゃん、起こしちゃって」
「いんやいや、単にボーっとしてただけだよ。
んで?なにかスナオちゃんにご用じゃん?」
「あ、……うん。そうなんだ!」
スナオが促せば、申し訳なさそうな様子から切り替えたひびきがニコッと笑う。
「あのね、さっきチカちゃんと話してて――スナオちゃん、一緒に旅行、行こうよ!」
……旅行?」
ぽかん、と繰り返す。旅行。旅行といえば、泊まりのおでかけ、の意のはずだ。
「それは、つまり、ひびきちと、チカちーと、あたしで?」
「うん!3人で!
一緒なら楽しいでしょ?」
笑いかけられて。思いがけない誘いに、スナオが言葉に詰まっていると。
「おーいひび――げ。もうスナオに話してんのか」
「おー?げ、とは何だァチカちー。アタシの何が不満だってんだいええ?」
「お前がマトモなことを言ってくれたらこんな態度にもならんっつーに!」
歩み寄ってくる緑のツインテール。頭を掻きつつため息をつく千鍵に、おうおう、とスナオは喧嘩腰で応じる。いじり甲斐故からかってるせいで、すっかり警戒されているのだ――ま、いんだけども。にひーと笑いながら、それでそれで?と続きを促す。
「つまり、あたしも混ぜてくれるってハナシなの?2人のラブラブ旅行に?」
「らぶ……?」
「だーっ、だからそういう所だってんだろーが!?」
「あっ痛ッ!すぐに手ェ出すんだからこのツンデレはー!」
すぱん、と後頭部を叩かれて抗議すれば、そうだよチカちゃん、とひびきの援護射撃。
「あんまりポンポン叩いたら、スナオちゃんおバカになっちゃうかもだよ?」
「これフォローじゃなくて追撃じゃん?」
「あー、確かにこれよりバカになったら申し訳ないな……悪い、スナオ……
「この流れで謝罪はむしろ喧嘩の特売セールっしょ!?」
袖まくりしつつ二人睨み合っていれば。そうじゃなくて!と、しびれを切らしたひびきが両手を上げる。
「旅行!行こうよー!」
……やはりそこに戻るか、とスナオは頬をかきながら、向かい、ため息をつく千鍵を伺う。
「とか言ってるけど。
てかさ、チカちーはいーの?あたしがいても」
……まーな。個人的にはそりゃ滅茶苦茶遺憾だけども、ひびきが乗り気な以上、否定する理由もないし」
………
「オイなんだその顔」
「明日槍とか降るのかなーって」
「お望みなら今すぐにでもシャーペンなりボールペンなり降らしてやろうか」
「にゃはは〜冗談冗談!
だからペン先こっちに向けるのやめようゼ!」
てっきり千鍵はひびきと二人きりでないと抵抗するかと思っていたので、その態度に拍子抜けしつつ。いやでもなあ、と、スナオは目を泳がせる。
「でもその――お誘いはうれしーんだけど。あたし、ちょっと泊まりとかは厳しいかにゃーって……
「あ……スナオちゃん、お家厳しいの?」
……ま、そんなトコ?」
家というか、組織というか。
現状がいくら左遷まがいとはいえ、仮にも任務を請け負う身の上。複数日も任務地を離れたとなれば、間違いなく説教物だ。
例え申請を出すにしろ友達と旅行に行きます〜は通用しないだろうし。トライテンの監視に!などと言おうものなら、もらえるのは休暇ではなく捕獲命令だろう。詰んでいる。
現状を省みて過る一抹の寂しさに、たはー、と苦笑するスナオを見て、ひびきと千鍵は、どちらともなく顔を見合わせる。
「家かぁ……気にしたことなかったな」
「ねー……
「うらやましいじゃん……
"調べた"限りでは、双方違う理由で放任主義のようだった。もろもろ雁字搦めの身の上としては、2人の自由さが何ともまぶしく、スナオは頬杖を付く。
「日帰りとかならまあって感じだけど――折角の旅行ってんなら、ま、あたしのことはいーからさ。ふたりで行っておいでよ。
おみやげ楽しみにしてるじゃん?」
…………そっかあ……
………
スナオの不在に、しゅん、と、分かりやすく落ち込むひびきは見ていて忍びない。とはいえ、何と声をかけようか……と迷っていると、腕組みした千鍵が呼びかける。
……なあ、お前、来週の土曜とか暇か?」
「え?
……あーうん、多分?」
「そっか」
………?」
淡白に返した千鍵が、難しい顔で何かを考え込んで――






………………始発前に駅前ってなんの冗談じゃん……?」
翌週末。
まだ夜も開け切らないような薄暗いロータリーで。呆然と立つスナオの所に、おーい、と駆け寄ってくるオレンジ頭。
「おはよー!スナオちゃん。朝早いねー!」
「お、おはよー。マジで来るんだひびきちも……
……ってチカちーほぼ寝てんじゃんか」
…………………ねてない」
「いや無理があるっしょそのザマで……
ひびきに腕を引かれる千鍵は、ぼやぼやの声で呟くと、そのままカックンカックン頭が揺れ出す。限界の人の挙動に、スナオは若干引いた。
「あははー……えっと、取り敢えずホームに行こっか?」
「い、くのはいーんだけども」
スナオは困惑のまま尋ねる。なにせ、千鍵から昨日の夜に突然この時間の集合を一方的に命じられて、何が何やらなのだ。
「どこにじゃん……?」
ひびきがほよ、と瞬いて。にっこり笑う。
「ユニバだよ?」
………なんて!?」
――ここから電車で2時間程度のテーマパークの名前に、素っ頓狂な声が出た。
「あれ、チカちゃん言ってなかったんだ……
えへへ、楽しみだよね!」
るんるんのひびきはすっかり行楽気分で、置いてきぼりのスナオはもう何が何やらだ。
「ま、待って待って。いつの間にそんな話が生まれてるじゃん!?」
「え?えっと……
ちら、とひびきが、眠りかけてる千鍵をうかがって。
「ほら、この前旅行の話したでしょ?
あの後チカちゃんが、折角ならスナオちゃんも行ける日帰りで、って提案してくれたから」
「ち……チカちーが……?」
普段なら、やっぱりツンデレじゃんか!とでも茶化すところだけれど。動揺のあまり言葉が纏まらない。心臓が騒がしい。
「そんな、でも、」
――何に焦っているのか。2人と一緒に出かけること?高校生らしいこと?自分に慮ってくれたこと?とうに諦めた筈の話が、突然形を変えて転がってきたためか、自分の中で気持ちが上手くまとまらない。そうして、
「い、いーの?だって、あたし、」
――いいんだよ!スナオちゃんも大切なお友達だもん!」
―――
ほんの少しだけこぼれた弱音を、何でもないように肯定される。
よりにもよって、日比乃ひびきに。
その笑顔を正面から浴びながら、ああ、とスナオは思う。
――こりゃもう、あたしもダメかも。
……おい……早くいかないとでんしゃ来るぞ……
ぼそり、地を這うような千鍵の声に、先にひびきが我に返る。「わー、いけない!行こうスナオちゃん、チカちゃん!」
――あいあい!ひびきち、あんがとね!」
ひびきの後を追って、笑いながらスナオも足を踏み出した。のろのろ引き摺られる千鍵にはすぐに追いつける。
「チカちーも、ありがと!」
………
無反応。
多分これは意図的に寝たフリをしてるやつなので――あとでイジってやろうと即座に画策する。機会ならいくらでもある。
なにせ、二人の友達である須方スナオにとって、今日という一日はとてもとても長いものらしいので。