保科
2025-03-23 21:20:27
2670文字
Public ひびちか
 

酔ってないってば

大学で同棲してる成長パロシリーズ 成人させたら飲ませたっていい 成人してなくてもチョコレートボンボンを食わせたらいい

お題
・酔っ払いチカちゃん

日付をまわる少し前。ぼーっとテレビを見ながら欠伸を噛み殺すわたしの耳に、扉の開閉音が聞こえる。
よかった、帰ってきたみたい。
――チカちゃん、おかえり!」
人とご飯を食べてくるので遅くなる、と一言連絡はあったけど。でも、今日はわたしが一限のために朝早く家を出たせいで、一日チカちゃんに会えてなかったから。折角なら、一目だけでも会ってから寝ようと思ったのだ。
小走りに玄関に向かうと、やっぱりコートを着込んだチカちゃんが後ろ手に鍵を閉めていて。
駆け寄るわたしのことを見ると、ふんわり、幸せそうに笑って――
「ふえ?」
笑っ、て?
「ひびき、ただいま」
動揺して固まるわたしを、ぎゅ、と正面から抱きしめるチカちゃん。冬の空気で全身がひんやりしていて、首のマフラーが肌にこすれてチクチクする。あったかい、という囁きが耳朶をうって、ぞくぞくとしたしびれに我に返る。
夢じゃない。チカちゃんが、わたしに、抱きついている。幸せそうに笑って、だから――
……ほ、ほんものですか……?」
わたしの、酷くこわばった声の確認に、「何が?」とポカンとした声と。――食べ物の匂いの中に、お酒の香りが、少しだけ漂う。
「あ……チカちゃん、もしかして、お酒飲んだの……?」
思わず瞬く。初めて一緒にお酒を飲んだとき、一口含んで、アルコールの味が好きじゃない、と渋い顔をしていたチカちゃん。それ以降、アルコールの入っているものを飲んでいる姿は見たことがなかった。
当然、酔うほどに飲んでる姿も、わたしは知らなくて。
―――
ちょっとぽやぽやのチカちゃんがすっごいかわいいなあ、と思うのと同時に、こんなかわいいチカちゃんが、わたし以外の誰かに見られていたのだと思うと――とっても、モヤモヤする。押し黙るわたしに、ずいっとチカちゃんが顔を近づけてくる。近づけすぎてる。すっごい近い。
「ひびき?……どうかした?どっか痛いのか?」
近い。
普段のチカちゃんなら、とうに赤面してしまっているような距離を、更に、詰めようとすらしていて。わたしのほうが仰け反る――なんて。めったにないようなことをしてしまう。ど、どうかしてるのは。
「どちらかといえばチカちゃんのほうじゃないかにゃー……!?」
……?」
――じゃなくて!
えっと……取り敢えず、コート脱いで、手を洗って、お水飲もう!ね!」
ね!と必死に繰り返せば、チカちゃんは素直にコクリと頷いて、お願いに従ってくれた。


……それで、チカちゃん、その」
ダイニングテーブルの席に腰掛けて、向かい合う。コップに入れた水道水をちびちびと飲むチカちゃんが、うん、と頷く。
「どうしてお酒、のんじゃったの?」
……んー……そういわれても。お酒、飲んでないはずだぞ……?」
疑り深いなあ、と眉をひそめるチカちゃんは、見ただけなら、顔も赤くないし、口調も落ち着いていて、普段通りだけれど。妙に素直だし、声もすごく柔らかいし、なんだか雰囲気がぽやぽやで。何よりお酒の匂いがその証拠だ。
チカちゃんに自覚がないとすると――あんまり良くないような想像も浮かぶ。
わたしは少し硬い声で、重ねて確認する。
「じゃあ、何か飲んだものの中で、不思議な味のものとかなかった?」
「んや、ないない!
なんか……オレンジとピーチ混ぜたジュース勧められて、それからちょっと……ぼうっとするだけだって」
――絶対それだよ!」
「えー……?」
美味しかったのに?と不思議そうなチカちゃん。そんな、お酒が美味しくないものという固定観念から抜け出せないでいる……
「あ……あのね?お酒、ジュースとかがベースのもあるから……そういうの、アルコールの味ってあんまりしないし……
過去の記憶を頼りに、種類について辿々しく説明すると、ふうん、となんだかトゲトゲした声が返って来る。
「ひびき、なんだか詳しいんだな」
「え……そんな……でもないよ?」
「私以外と、飲んだりしたの」
「う、うん。少しだけ、4月の頃とか……
ゼミの新歓に参加した時に、同期の子にオススメしてもらったのだ。わたしはどうやら――というか当然のように――酔えない体質らしく、単純においしかったなあ、位の思い出だ。
………ふうん…………
目の据わったチカちゃんが、納得していませんよ、というチクチクアピールしてくるので、むっとなる。なんだか他人事みたいに!
「ち、チカちゃんだって、こうやって飲んでるじゃん!同じだよ!」
「だから飲んでないっての……
「あーっ、まだ言う……!」
「お会計したし、家にも帰ってきたし、やっとひびきに会えたし、全部ちゃんとわかる。酔ってなんかない!」
ふいうち。
んむぐ、とわたしの喉がぐっと詰まる。……会いたかったんだ、チカちゃんも。
……そうやって、素直になって言えちゃうのは、きっと酔ってるってことだと思うけどなー……?」
「うるさい。
酔ってなくたって、何だって言ったっていいだろ。……嫌なのか」
口をとがらせて拗ねた声。もう、どれもこれも、普段のチカちゃんからは絶対出てこない言葉ばかりで。
…………ううん、嬉しいよ」
録音しておけばよかったなあ、今の会話。
「わたしも、会いたかったから、嬉しい」
「あ……そうだよな。起きてたもんな。
……遅くなって、ごめん」
ふい、と視線をそらして、小さな声。今のはちょっと、いつもっぽかった。思わずんふふ、と笑ってしまうと、チカちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「ふふ、――ね。チカちゃん。
次、お酒を飲む時は、わたしと一緒じゃなきゃ駄目だからね?」
……だーかーら、酔ってないって!何回言えば分かるんだよ。ってか、それならひびきもそうだろーが!私と一緒じゃなきゃだめだろ!」
でも、チカちゃんにはもっと気をつけてもらわないと、って思う。酔ってないと言い張るチカちゃんは見ててとても心配だし、今日が意図的なものかそうでないのか分からなくても、知らないところで飲まされたらこうなっちゃうのかもって不安もあるし。
――何より、こんなかわいいチカちゃん、絶対絶対絶対、独り占めしたい。だからわたしは、約束、と無理やり小指と小指を絡ませて。不服そうなチカちゃんに、ちょっとしたことを思いつく。
「酔ってないんだ?」
「そー言ってる」
……。じゃあじゃあ、わたしのこと、好き?」
「は?何だよ急に。
好きに決まってるだろ」
……わたしが一番?」
「ひびきが一番」
………
えへへ。