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つきのせ さぶろく
2025-03-22 00:49:37
1262文字
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竹の木漏れ日
【よそ探SS】人様のこげぬ箱ちゃんのSS【ネタバレ有り】
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嵐山の竹がざわざわと泣いている。不意にそう思って振り返った。ちょうどうねる道の真ん中で立ち止まる。竹はまだ泣いていた。
「りぃちゃん、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「早く行こうよ」
「行くよー」
これってなんでもないお散歩だよね。首を傾げたところで世界は変わらない。笹の葉がさんざめく強い風が、凛音の前髪も攫って行った。
嵐山は有名な観光地なだけあって、平日でも人が多い。ときたま日本語ではない言語が耳を掠めて、日本を代表する古都の中を歩くその一歩ごとに異なる表情を感じ取れるだろう。季節以外の街の表情なんて、考えたこともなかったのに。
「やっぱり人が多いねえ」
千年近く踏み固められてきた土の道に、チカチカと木漏れ日が瞬いている。
「あ、りぃちゃん。あそこでお団子売ってるよ」
「食べたーい」
「みたらしとあんこ、どっち?」
「うーん
……
」
ショーウィンドウに並ぶ偽物のみたらしは、照明で艶めいていた。レモンで涎が出るのと同じで、みたらしの重たい甘さが唾液腺を刺激する。ぱちぱちと散る火花の音に乗ってふわりと香るあまじょっぱさ。あんこのぽってり甘いも好きだけれど、今はゆっくり滴る砂糖醤油の葛餡が宝石のように見えているから。
「みたらし」
「いいね」
店員から受け取ったのは、琥珀の輝き。はねる柔らかさと舌を包むような甘さ、それを待ち望んでいた顎は、ぎゅっと縮むような衝撃を受けている。表面の艶がちかりと目を刺した。あ、また竹が泣いている。なぜだかそう思えた。
「にぃくんも今日来れたらよかったのにねえ」
今日はいないもう1人の面影を、知らない観光客の足元に見出した。ざわざわと混ざる人の声をかき分けても、もちろん彼の声が聞こえることはない。そうだね、と隣の君は頷いていた。
あれ、でもどうして今日は来れないんだっけ。
嵐山が、大きくざわめき出す。それと対象に、周りの音がどんどん遠くなる。聞こえていた声も、甘さも香りも、食べかけのみたらし団子も遠くなる。
強い風の音の中、握っていたのは君の手だ。小さく名前を呼ぶと、その目から木漏れ日がチラついた。それが涙だと気がついたのは、ようやく現実を思い出せたからだ。空は濁り、竹どころか現代的な街路樹も薙ぎ倒されている。石ばかりが転がっていて、黄色いあの神は無遠慮にこの美しい都を踏み潰している。二条がこの場に来ないことも、木漏れ日ばかりがチラついていたのも、竹が泣いているのも、今があるからだ。現実は、夢を最後まで見せてくれるものではない。
「
……
悔しいなぁ」
瓦礫の崩れる音がする。指先から熱が失われていって、もう体の中心は冷え切っている。どうかこの熱が、君のところに届いていますように。そう願って目を閉じた。
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