保科
2025-03-21 19:58:06
1543文字
Public ひびちか
 

肩より上でお願いしていません

※三次創作です 人の作品に触発されて文字を打ちました ここにオリジナリティはありません

「桂木さんッ!」
店長さんの叫びが聞こえた。魔獣を一体倒し終えたわたしは、何気なく振り向いて。
―――
瞬間。――はら、と宙に散る緑の髪の毛が、わたしの目の前で、スローモーに落ちていく。よく見知ったその色は、昨日も結んであげたものだったから。
何が起きたのか、わからなくて。
わたしはぼんやりと瞬いた。
…………どぉあああ!?」
向こうの方。巫女服に身を包んだチカちゃんが、地面に落ちた自分の髪の毛を持って、その長さに絶叫する。
出どころは明らかだった。どこからどう見ても、チカちゃんの長い髪の毛が、肩から下ですっぱりなくなっている。
「うわあ……バッサリ……
店長さんの唖然とした声に、青ざめた顔で肩を震わせたチカちゃんが、キッと魔獣を睨む。
「何やってんじゃこのボケェーー!」
「えっ、ちょ、か……桂木さん無茶しないでね!?」
拳を振りかざして走っていくその背を、わたしは呆然と見送った。遠く、見送って、―――
……日比乃さん!」
ぐら、と体が揺れて、我に返る。店長さんが、わたしの肩を揺さぶっていた。
「え、あ」
「大丈夫?ボーっとしてたけど。何か毒とか食らったりした?」
呼びかけに応えようと、は、と息を吐く。――呼吸を止めていたことに、今さらのように気がついた。
「だ、大丈夫です、その」うまく回らない頭で、でも、なんとかしなくちゃ、と思う。今はレイシフト、というのの最中で、店長さんを守らなくちゃいけなくて、でもチカちゃんの髪が、チカちゃんの、きれいで、ながい、すてきな髪が、
――ぐわん、と視界が揺れる。
……えと、だめかもです……
「えっ嘘、毒!?」
「て、店長さん。
チカちゃんの、髪の毛って……
わたしの問いかけに、店長さんがはっとした顔をする。
「あ……そっか、そうだよね。
う、うん。ごめん、私の指示ミスだ……
「大丈夫……です、よね。も、戻りますか?」
「うん。それは保証する。サーヴァントだから、大丈夫……だけど」
店長さんは僅かに目を伏せる。「こういうの、戻れば大丈夫とか、理屈じゃないよね。……本当ごめん……
「そんな!違います、店長さんのせいじゃあ……
………
………
互いに、言葉が見つからないまま。その場に降りる沈黙は重たい。
「おーいひびき、店長、倒してき――おいなんだこの通夜会場!?この一瞬に何があった!?」
「ち、チカちゃ……
焦った様子で駆け寄ってきたチカちゃんの、ざんばら髪の毛が視界に入る。それだけで、きゅう、と胸の奥が苦しくなって視界がにじむ。
「どええ!?泣くな泣くな泣くな!」
「だ、だって、だって……かみのけ……わたし、まもれなくて、ごめんなさい」
「いや、ちょっ」ひく、ひくとしゃくりあげるわたしの様子に、チカちゃんが、あわてて店長さんを伺う。
「おい店長、こ、これもしかしてずっとそのまんまなのか!?なんかそーゆーアレなのか!?」
……ううん、再臨戻せば一緒に戻ると思うけど」
店長さんはフ、と憂鬱そうに笑う。
「『サーヴァントなので平気です!』とか、『いずれ伸びるので問題ありません先輩!』とか、別に、そういう話ではないから……もっと私が……頑張らなくちゃいけなかったのに……
「なんか別の話してないお前!?」
虚ろに遠くを眺めだした店長さんは、あいまいに笑うばかり。チカちゃんはうええ、と戸惑った様子で、懸命にわたしを呼ぶ。
「あ、あのな、ひびき?
別に髪だけだし、そんな大したケガもないし、な?そもそも私も油断してたから悪いんであって――
「うううう〜〜〜〜〜」
……あーもー聞けってば……
わたしが感情のまま抱きついても、チカちゃんはついぞ押しのけなかった。