【デデカビ】その特別な味に

お祝いにかこつけてもだもだ片思いしていた大王の気持ちに向かい合い答えを出したはるかぜの話。

いつも朝までぐっすり眠るけれど、たまに目が覚めて窓から見える星空がとても綺麗な日はベッドを抜け出して夜空を散歩するんだ。
静かな夜の海をワープスターでゆっくり泳いでいく。お花も小鳥もみんながみんな夢の中。お月様は雲に隠れたり、ひょっこり顔を出したり。空に瞬く星たちの光はどこまでも続いていて、それを追うように泳いでいたら馴染みの城が見えてきた。
なんとなく特に意味なんかなく部屋を覗きに行ったら、窓辺から差し込む月明りで読書をしているのに遭遇した。
空に流れていた雲が月を隠して薄暗くなるタイミングで窓枠に降り立った。起きていたのが嬉しくて、ちょっとびっくりもさせたかった。
雲に隠れていた月が顔を覗かせる。差し込む月明りに照らされた顔はとても不機嫌そうだった。多分、静かな読書タイムを邪魔されたから、だと思う。
だけど、追い返すこともせず腰を上げ大きな背中越しに伝わる気配が、招き入れてくれる相手の素振りが嬉しくて無意識に駆け足になってしまう。
まんまるな家のベッドと違い大きくてふっかふかなベッド。すでにベッドに潜り込んでいる大きな背中目掛けじゃれ付けば、大きな手がわっしわしと頭を撫で「もう寝ろ」と促してくる。いそいそとベッドに潜り込んで顔をひょっこり出すと、思っていたより近くにある顔にびっくりした。
びっくりさせたかったのに逆にびっくりしてしまったことにムッとすれば、視界いっぱいに広がる悪戯が成功して満足げに笑う、君の顔。でも、何だかこっちまでおかしくなってきて一緒に笑っちゃう。
「こんどは負けないんだから」
「いいぜ、次も返り討ちにしてやる」
それからまた見合って二人して笑った。
夜の空をお散歩していたからか急に眠くなってきた。くあ、と欠伸ひとつすればうつったみたいで目の前の君も大きな欠伸をした。
それから重くなる瞼に耐え切れず、そのまま目を閉じた。暗い闇の中、やわらかな闇の中。
すぐ隣にいる君に小さくおやすみを言えば、微かに聞こえるぶっきらぼうだけど優しい声でおやすみと返ってきた。
君の隣で見る夢はとてもあったかくてたのしい。でも、夢の内容は目が覚めたら忘れてしまう。だから夜のお散歩をして君が起きていたらまた一緒に寝て夢を見させてもらうんだ。



翌朝、デデデ大王を起こしに来た家来ワドルディは知らぬ間に寝ていたカービィの存在に気付きその場で数センチ浮いたという。



ここ最近夜の読書タイムを邪魔する不届きものがいる。
誰も彼も寝静まった静かな夜、窓から差し込む月明りで優雅に読書に耽っているとそいつはやってくる。
飽きもせず窓辺に降り立ってはニコニコ笑うそいつを当初追い返そうとしたが思いとどまった。どうせ追い返したところで食い下がってくるならば、さっさと招き入れて寝るに限る。その方が圧倒的に楽。無駄に疲れない。
随分とこいつの扱いに慣れてきた。隣で我が物顔で眠るのんきな寝顔を見てふと思い出す。
あれは出会って間もない──、どこの誰かも分からない旅人風情のあいつに国中の食べ物ときらきらぼしを返せと言われコテンパンにするはずが、返り討ちに会ってしまった、あの忘れようにも絶対忘れられない頃のことだ。
その日も打倒あいつを掲げ特訓に励んでいた。するとどうだ、冷やかしに来たのか特に何も考えていないのかあいつがやってきた。
負けて日も浅くムカついて仕方なかったのにもかかわらず、何故かあいつを追い払わなかったどころか誰にも話したことのなかったことを話していた。

『君はお星さまが好きなんだね』
『そうだ……、あと、好きじゃねえ。欲しいんだ』
『なんで?』
『お前笑うなよ。──いつかこの手で星を捕まえて、ずっと手元に置いておくのが夢っつーか野望だ
『そっか~。またみんなに悪さしないのならいいんじゃない。その夢ぼく応援する』
『はあ!? お前なんかに応援される筋合いなんかねぇよ!』

思えばその時から胸の奥がざわついていた、ような気がしなくもない。
そこからホバリング習得を筆頭に打倒あいつを掲げ、勝負を挑んでは負け、負けては挑んで、一緒に過ごす時間と日々が増えていき……しまいには、楽しいこと面白いことがある時は大抵あいつ絡みのことだと気付いてしまった。はじめこそ困惑した。ただの気のせいだと、たまたまだと。だが、考えれば考えるほどあの陽気な春色が記憶に色濃く残っていた。
一時期あいつの顔を見るだけで馬鹿みたいに鼓動が速くなったが、ケーキを盗んだ濡れ衣を着せられボコられた時「そういえば、こいつはこんな奴だった」と変に身構えるのを止めた。食べ物で釣ればあいつは何処にでもやってくる。所詮食べ物ありきだと、漏れ出た笑い声はとても情けないものだった。
いつか見た夢は叶わない、半ば諦めかけた時、非常に認めたくないことが起きる。結果からして言えば禍を転じて福と為す。恥ずかしいかな己自身がよもや攫われるも取り返すため、あいつが天高く聳え立つツリーを駆けあがり敵の本拠地に殴り込む事態が起きるとは誰が予想できたか。攫われていた当時の記憶は曖昧もいいところだが、何度も名前を呼ぶあいつの声が、懸命に駆け寄る姿が、不明慮なりにも残っている。
まだ諦めるには早い。僅かに見えた光。それを掴み取るべく、まず行動を改め始めた。
こいつには友情というものはあっても恋愛自体の感情があるかどうか定かではない。ならば、どうするか。

どうにも出来なかった。

こっちが勝手にドギマギするばかりで、こいつの表情は一ミリも変化しない。
掴み引っ張る小さな手を離さぬよう握り返し、じゃれて抱きついてくる小さな体を落とさぬよう支えるのも、全部こちらが意識するだけでこいつは何とも思っていない。
今も暢気に横でグースカ寝ているこいつに腹が立ってきた。
以前意を決して告白した時もケロリとした顔で「ぼくも好きだよ」とのたまりおった。あの顔は意味を理解していない顔だった。
渦巻くもやもやを吐き出すように呟いた声は苛立ちに満ちていた。
……オレさまはお前と恋人同士になりたいんだよ。分かるか?」
どうせ寝ていて聞こえていない。そんな相手じゃなきゃ素直に言えない自分が腹立たしい。
「はぁ、もう寝よ」
背を向ける形で横になり目を瞑ったオレさまは、後ろで静かにこちらを見つめる澄み渡る空色の瞳の存在に気付いていない。



翌朝、家来ワドルディがデデデ大王を起こしに来た際一緒に寝ているカービィを見つけて「またか」とため息まじりに呟いたという。



お城での朝食を食べていたカービィは口の周りにソースを付けながらデデデ大王に話しかけた。
「一週間後、前にさ君の野望を聞かせてもらった丘の上に来てほしい」
「は? なんでだ?」
「ぼくなりのこたえを君に伝えたいんだ」
「別にいいけどよお」
デデデ大王がふと疑問を聞く前にカービィは朝ご飯を口に頬張るだけ頬張って早々に出て行ってしまった。
家来ワドルディたちが追加の朝食を持ってきた横を勢いよく通り過ぎたため、トレーに乗せていた料理が危うく落ちそうになるも謝罪の言葉を残すだけでカービィは止まらない。
「大王さま?」
今走り去ったカービィを見送ってからデデデ大王に視線を向ける家来ワドルディは今起きた出来事を飲み込めないでいる。
「なんなんだ、あいつ
折角アツアツの料理が来たというのに食べず出て行くなんて。二人分用意したのを一人で食べることになったデデデ大王はぶつぶつ文句を呟きながら大量の朝食をぺろりと平らげた。

それから一週間城にも遊びに来ない、ふらり外に出かけた際もカービィの姿をデデデ大王は目で追うばかり。
声を掛けたがったが、声を掛ける前にカービィがデデデ大王のことを認識するなり何処かへ行ってしまうため結局掛けられず仕舞いだった。
露骨に避けられているものの、とかく嫌な気持ちにはならなかったことにデデデ大王自身小首を傾げた。根拠も確証もない、だが心の底で期待してしまう。もしかしたら、と。
約束の日が近付くにつれ、デデデ大王はカービィの姿を視界端で捉えるだけで声を掛けることをしなくなった。
そして、カービィがあの日あの朝、朝食の場で言った日がやってきた。