さかな
3230文字
Public CPなし監
 

ネジを失くした監督生

異世界にきて全部なくなって、ついでにネジもどっかいった女監督生(男子制服の姿)

pixiv投稿 2024年12月2日

異世界にきて、いままでの全部がなくなった気がした。全部ったら全部だ。幸せも安寧も苦しみも、柵も。



オンボロ寮の監督生はこの世界に突然降って湧いた、魔法のない世界 無力からの 迷い子 少女だ。
学園長の優しさに依って性別を伏せて学園に囲ってはいるが、その存在が公になれば有象無象が押しかけてくるのは目に見えている。異世界やら闇の鏡の転送事故疑惑やら、監督生に纏わるすべては秘されることとなった。

その寄る辺ない脆弱な仔犬を慮って月一のクルーウェル様主催特別個人面談が開催されるようになったのも、さもありなんといったところであろう。
なんせこの仔犬は厄介な問題に巻き込まれて軽率に生命を危機に晒しまくっているのだ。
危機を乗り越えたおかげで複数寮の寮長副寮長とも懇意になったのは良い収穫であろう。しかし、魔法を使えないくせ何故ここに、とすでに反感を買っているというのに、学園の実力者らと交流があるというのは更に馬鹿どもを煽った。
この個人面談の名目はツイステッドワンダーランドでの基礎教育や常識の欠けた監督生が困っていないかの配慮となっているが、そのついでに取り返しのつかないナニカは起きていないかの確認もある。
なにせ大抵のことを『異世界ってすげー!』で受け入れてしまう仔犬なので。

「クルーウェル先生、監督生です」
「入っていいぞ!」

毎月第一月曜日の放課後、監督生はひとりクルーウェルの根城である薬学準備室に訪れる。

「Good girl! 時間通りだ。ご褒美に淹れたての紅茶と、今回はチョコレートサブレをやろう」
「わぁい! 先生だいすき〜!」

この特別個人面談ではいつも一緒のグリムもいない。頼れる元気な親分を厭うわけはないが、この時間を監督生は存外楽しみにしており、いつも時間ピッタリに訪れている。美味しい紅茶と甘いお菓子、そして顔の良い担任。素晴らしい時間である。

紅茶とをつまみにいつも通りの問答をし(馴染めているか問題は起きてないか……なんて心配性の母親みたいだと口を滑らし米神を片手で握りつぶされながら「せめて兄と言え」と美声で怒られた)、謎の祝福や呪いをかけられてないかの検査も終え、雑談に移ったときだった。

「ねぇ先生」
「うん?」
「わたし、ずっと思ってたんですけど……

憂い顔で言ってくるものだから、てっきりこの生活 雑な男装に嫌気がさして女子制服が欲しくなったのかと考えた。
クルーウェルは監督生に合っていない制服姿を常日頃から苦々しく思っていたのだ。スカートは無理でもせめてサイジングして仕立て直してやりたかったのに、トレインに「信頼も築けていない見知らぬ男性教員が? 女生徒を?」と言われ流石のクルーウェル様も諦めたのだ。

「なんでも言ってみろ、大丈夫だ」

さぁスカートが欲しいと言え、そして俺に仕立てさせろ。という内心を隠し優しく微笑み続きをうながせば、監督生も安心したように笑いながら爆弾を落とした。

「繁殖可能年齢の異世界人の女って、検体としておいしすぎじゃないですか」
……うん?」
「卵子取ってクローンつくっても良いですし……なによりこの世界の人間と類似生命体なんです、交雑種つくれるか知りたくなりません?」
「仔犬、ステイ」
「魔力を一切含まない母体ですから魔力に負けて受精しない可能性もありますけど……よくある設定だと反発がないから魔力強めの父系遺伝そっくりそのまま引き継げるとかもありますし! 可能性は無限大!!」

頭を抱えるクルーウェルを無視して監督生は瞳を輝かせながら、およそ想定していた可愛らしいお悩み相談なんてものではない悍ましい仮説を並べていく。
確かにそのような実験をするマッドサイエンティストもいるかもしれないが、このツイステッドワンダーランドでは到底許される好奇心ではない。

……もしや異世界には道徳や倫理がないのか?」
「置いてきました」

基本的に大人しく礼儀正しい仔犬だったので安心していたが、もしや異世界との常識に多大なズレがあったのではと訊いてみれば、返ってきたのは晴々とした笑顔であった。
それにクルーウェルも「そうか」と微笑みを返し、カップに残っていた紅茶を呷る。そうしてらしくもなく乱暴にカップを置くと、我慢できず睨みつけるように叫んだ。

「取ってこい‼︎‼︎」