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saeko
2025-03-19 07:45:49
12846文字
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無題
書いてる途中の悠アキのリン視点部分
いろいろ捏造解釈有り
VDネタだったけど過ぎ去ってるので、せめてここだけでもと、アップを。
これだけでも読めるようには、なっています。(多分)
1
2
■ ■ ■
数日前の事を思い出したが、やはり心配なのも本当で。
アキラには内緒で、引き続き兄の健康状態をチェックするようにリンはフェアリーへ伝える。
「いい? Fairy。これは最重要任務みたいなものなの。分かる? あと、お兄ちゃんには、ぜーったいにバレちゃダメだからね」
『理解。マスターのためなら、守秘義務を遂行します』
リンが知りたいのは、アキラの身体の状況だ。いつもなら気にも留めない事なのだが、フェアリーが体調の事を言ってくるのが珍しく、どうしても引っかかってしまっていた。気になっていることは解消させないとやっぱり気分的にもスッキリとしない。
(お兄ちゃんには申し訳なさしかないけど
……
。そりゃあ信用はしてるよ。でも、やっぱり心配かけたくないって思ってるかもしれないし)
あれから遅くに出歩くこともほぼなく、アキラは部屋でゆっくり過ごしている。夜の時間が長いからと映画鑑賞をしたり、リンとフェアリーの会話に耳を傾けたり、イアスたちと戯れたりしていた。
けれど、以前よりも昼間に予定を詰め込んでしまっているので、これでは本末転倒だと思ってしまう。
良心の呵責に苛まれつつも、これも家族の健康のためと言い聞かせ、新エリー都を護るセキュリティカメラにフェアリーが介入し、アキラの行動を、できる範囲で見守っていた。
内容が内容なだけに一階のルームで映像を観るわけにもいかず、フェアリーにビデオに録画してもらい、リンは自分の部屋で寝る前にチェックをすることにしていた。その日にチェックできることもあれば、プロキシの仕事が立て込んでしまい、まとめて数日分観ることもある。
「意外とマメというか、これ、結構ハマってる?」
兄の日課になっているんだと最近知ったスクラッチカード。良心的な値段でクジを売っているので手に取りやすいのか、二、三日に一回はウーフの元に通っていた。
(あ、嬉しそう。これは当たったみたい)
ウーフにありがとうと微笑み、アキラの足がそのまま雑貨屋へ向かう。店頭で声をかけている三匹の看板ボンプに話しかけ、オススメのお菓子を聞いていた。もしかすると、お菓子を口実にボンプとお喋りしたいのかもしれない。
(なんか、お兄ちゃんの周りに花飛んでそう)
実際に飛ぶわけでもないが、黄色やオレンジなどの明るめな花が飛んでる幻覚が見えそうになるくらいに、兄の感情が手に取るように伝わってくる。
そして、また違う日はコーヒー豆を買いに店近くのカフェへ。たまに遅い時があるけれど、店外のカフェスペースで飲んでいる兄を見かけたこともあるので、このときも挽きたてを味わっていたのだろう。
(たまにゆるふわなところあるよねぇ、お兄ちゃんて)
背もたれに背中を預け、アキラが嬉しそうに本日のコーヒーを味わっている。歩く街の人たちを緩やかに眺めている兄の表情が画面に映し出されていた。それと同時に、映像を通して兄を観ることにより、アキラが六分街で密やかに人気があるのも納得する。
(確かにビジュアルいいかも)
少し癖がついている色素の薄い髪は、さらりとしているが意外と柔らかい。日に焼けていない白い肌と涼やかな目元。薄い唇も相まって一見近寄りがたそうな雰囲気だが、ターコイズの瞳が和らぎ柔和な笑みが浮かぶと、一気に陽だまりのような暖かさをアキラが纏う。
普段見慣れているというのもあるが、妹には見せない表情というものに触れると、ある程度客観的な目線が生まれてくる。
これで物腰柔らかで人当たりも良いとくれば、まあ人気があるのも理解できる。
店長の業務内容として店に足を運ぶ人のリクエストに応えるというのがあるけれど、アキラに声を掛ける者が多いのも頷けた。
そして、もう一つ。表稼業のときと違い、裏稼業の表情を日常でも垣間見られる場所がある。
(そういえば、昨日も朝から行ってたっけ)
兄の行動範囲の一つ。最近頻繁に通っているのがルミナスクエアにある『HIAセンター』だ。
アキラ曰く、ホロウ内に出没するエーテリアスの種類や戦闘能力を把握し、行動や性能をなるべく頭に入れることにより、ナビ役として遂行する時に有利に働く確率が増えるらしい。
精巧に作られたマシーンはバーチャルとはいえ本物さながらの戦闘を経験させてくれる。
「お兄ちゃん、こういう知識はかなりあるんだよねぇ」
バーチャルなので戦うのは生身ではなく、あくまでもデータから構築されたアバターだ。そこで兄が操作するのは自身のアバターではなく、兄に提供されたエージェントのデータから創り出されたものだった。組織に属さない者にデータを預けるのはかなりのリスキーさを伴うが、相手がパエトーンとなれば話が違ってくる。それにいまは、協力者として手を結んでいる組織も少なくない。
音響装備や、エージェントの戦闘時の身体能力。それらのデータをアキラが投影し戦闘を遂行する。実際にリンが戦闘を直接見ることはないので、アキラが説明してくれたことを思い出していた。
(
……
それにしても、これってお兄ちゃん観察日記になってるよね)
ドキュメンタリーと言ってしまえば聞こえは良いが、さすがに兄のプライベートを覗き続けていることに多少なりとも罪悪感が募っていく。
誰とどこで会ったのか。どんな依頼を受けているのか。
他にも、戦闘で収集したデータ関係についてエージェントと長く話し込んでいる場面もある。
リモコンを操作し映像や音声を軽く飛ばしながら確認を続けていたが、アキラの行動範囲も交友範囲もリンが把握している以上に広いというのを知ってしまう。
(あ、また助けてる)
映像に何度も出てきたアキラの行動の一つに、ボンプの救助がある。
六分街でもボンプが座り込んでいる時がある。回路が混線したりショートしそうになったりして元気なくクッタリとしているボンプの前にアキラは片膝をつき、覗き込むようにして体調を窺う。深刻さの度合いを確かめながら手際よく回路を繋げ、負担が少ないように小さな身体を気にかけつつ修理していく。しばらくして回復したボンプと会話ができると、ほっとしながら兄が笑みを浮かべていた。
映像の中で陽が緩やかに傾いているのを確認し、リンはリモコンの停止ボタンを押し、テレビの画面を消す。
「今日はこれで終わりにしますか」
昨日はこの後まっすぐ店に帰ってきた兄は、リンとフェアリーと共に依頼を受けたプロキシ稼業の準備を進めていた。
(今日も、夜は昨日の続きかなぁ)
椅子から立ち上がると両腕を上げて大きく伸びをする。ここ数週間の間に画面を見続けるの時間が増えたせいで、やけに肩が重い。兄の健康を心配しているのに、こちらが不健康になってしまってはどうしようもない。
「そろそろ、チェックしなくてもいいかも」
とりあえず、今日録画分を見て判断するけれど、ここ二週間ほどは何も異常はなくフェアリーからも正常のお墨付きを貰っている。
(ちょっと、Fairyと相談してみよ)
今日は治安局から呼び出しがあり、アキラから遅くなるとメッセージが入っていた。
朱鳶たちの定期監査だけではなく、治安局へと赴き情報提供をする義務がアキラとリンに課せられている。イアスと感覚同期をしているアキラには、ホロウ内で得た情報を詳細に提供して貰いたいらしい。
けれど、ただ報告するだけで終わるわけでなく、ホロウ内のエーテル侵食率や濃度、エーテリアスの凶暴性、種類など、イアスを通して録画された映像を提供しながらの報告になるのでかなり時間を要する。
スマートフォンを取り出しメッセージを確認すれば、リンの予感は当たっていた。受信した時間は今から二時間前。
「今日は、しょうがない。えっと、閉店作業はやっておくね。疲れてるだろうから、今日はそっちでゆっくり休んで、と」
治安局の都合で引き止められているのならば、兄の宿泊くらいは手配して欲しい。そのあたりは朱鳶と青衣がいるので問題ないだろうと結論を出し、リンは階段を降りていく。
「18ちゃん、いつもありがと。今日はもうお客さんいないみたいだね」
『ンナンナ、ンナ〜〜!!(もうすぐ終わり。あと少し〜〜!!)』
閉店時間まで約三十分弱。週末ならまだ人が来るけれど、平日の火曜日ともなれば客足はピタリと止まる。
フロアにいるのは18号とリンだけで、ドアが開く気配はなかった。
「もうちょっとだから頑張って、18ちゃん。閉店作業はもちろん一緒に頑張るよ」
『ンナ、ンナ!!(うん、頑張る!!)』
労りの気持ちをたっぷり込めて18号の頭をポンポンと撫で、スタッフルームのドアの前に立つ。長方形の覗き穴を覗くと、すぐに6号が開けてくれた。
「Fairy、お疲れ様。今日のお兄ちゃん、どうだった?」
『現状、問題ありません』
リンはフェアリーにビデオデッキを繋ぎテープを入れる。作業完了まで少し掛かるので、その間はフェアリーと話すのが日課となっていた。
「良かった。ちなみに、ずっと治安局にいたのかな」
『否、一度外出しています』
昨日はHIAセンターで戦闘データを収集したあと、六課に足を運んでいる。六課のメンバーのデータで実践を行った結果を報告しに行ったのだろう。
「相変わらず忙しいよねぇ」
対外の交渉や説明などは以前からアキラが請け負っていた。若さと優男な見た目で軽視されることもあるが、アキラの弁舌が冴えてくるにつれ相手の顔色が変わることも少なくない。
とはいえ、相手は新エリー都でも知れ渡っている組織だ。組織内に協力者がいるとはいえ、その陣地で対応する兄を心配してしまう。以前、リンも同席しようかと持ちかけたが、フェアリーとのバックアップも大切な仕事だから、そちらに力を入れて欲しいと押し留められた。
他にも、兄はさりげにリンの前に立ち、守り、ときに優しさを与えてくれる。
(こないだも、マフィンとスコーン買ってきてくれたけどさ」
リンは頑張っているから、たまにはと。
そうやって兄に度々甘やかされている自覚はある。
『助手二号、マスターの異常を感知しました』
「え?! いま正常だって言ったばかりじゃ」
『ログを確認中に発生を検知。検出されたのは昨日の夕方。マスターはHIAセンターで実践を行なっています』
あくまでも、フェアリーの映像が追えるのは建物の外と、内部でも一部のみだ。
(ということは、私が見られないところでお兄ちゃん気分が悪くなったりとかしてるかもしれないってことか)
フェアリーのみが感知できる区域内となると、コックピットの中、もしくHIAセンターの機密内部の可能性が高い。
「
……
やっぱ、お医者さんかぁ」
とりあえず、どんなときに症状が現れるのかを把握しておけば、適切な治療をすれば治るかもしれない。
「Fairy、お兄ちゃんのこの症状が最初に出たのって、どれくらい前か教えて」
『了解。データ検索中』
フェアリーならすぐに結果を出すだろう。その結果をアキラに見せ、無自覚だとしても病院に行ってもらうしかない。
「て、そうだお店、閉めないとっ」
勤勉な18号だけど、店の鍵は店長しか閉められない。慌ててスタッフルームから出ると、誰かが18号の頭を撫でていた。
「悠真?」
「やぁ、お邪魔してるよ。リンちゃん。時間外に入ってごめん。ドア空いてたから、ついね」
「いいよ、いいよ。鍵まだ閉めてないし。
……
って、閉めなきゃ」
「勝手に入った僕が言っちゃうのもどうかと思うけど、戸締まりしっかりするんだよ。ここにアキラくんが居たら、お小言貰ってる気がするよ」
「う、
……
確かに」
「可愛い女の子が夜遅くに、鍵もかけないで店内にひとりでいるのは危ないんだからね」
「
……
でも、18ちゃんがいるし」
「それ、アキラくんにも言える?」
「う、
……
無理。次からは気をつけマス」
閉店時間よりも少し遅くに戸締まりを完了し、小さな息をつく。
「その言葉、ちゃーんと忘れないようにってね。あと、来たついでっていうのもなんだけどさ、僕も閉店作業の続き手伝うよ」
「いいよ、いいよ。悠真も疲れてるだろうし。それに、今日は仕事のことで来たんでしょ」
夜遅くに悠真が来るのはかなり珍しい。それに、昨日今日と兄と連続で会っているにも関わらずここを訪れたということは、急ぎの要件なのだろう。
「正解。人使いの荒いお偉い様たちのおかげでね。これだけ働かされたら、有給三日あっても足りないくらいだよ。まったく、その負担や皺寄せがこっちにきてるっていうのにさ。アキラくん達には本当に申し訳ないけど、もう少し付き合ってもらうことになるかも」
「結構、長引きそうな案件てわけかぁ」
「こっちとしても、あんまり長引かせたくないんだけどね〜。その事でも今回アキラくん治安局に呼び出されてるし。向こうと僕たちが連携しなくちゃいけない案件だから、間に入って色々調節してくれてるんだよ」
治安局〈N.E.P.S.〉とホロウ実務無害化対策局〈H.A.N.D.〉
今回その両組織を繋ぐパイプ役がプロキシであり、ホロウでの案内も依頼内容にしっかり組み込まれている。HIAセンターで兄がデータ収集をしているのも、今回の捜査関連なのだと悠真が掻い摘んで説明してくれた。
(
……
お兄ちゃん、ほんとに身体に気をつけて欲しい)
あのビデオを観ている限りでは、多少忙しくも普段と変わらない日常を送っていると思っていた。確かに最近ルミナスクエアに行く頻度は上がっていたものの、それ以外は六分街でのいつもの兄を観ていただけに、思わず片手で顔を覆って項垂れてしまう。
(いや、私よりもむしろお兄ちゃんの方が疲れてるよ、絶対)
忙しさを悟らせないことに対し、寂しさが胸に湧く。身内としては頼って欲しいところだが、バックアップでしっかり頼らせて貰っていると返されるのが目に見えていた。
己の洞察力のなさに落ち込んでいると、悠真がリンに声をかけてくる。
「リンちゃんもお疲れ様。アキラくんから貰った飴だけど、リンちゃんにならいいよね。頭も身体も疲れ過ぎると、結果どっちもオーバーヒート起こして倒れるよ」
悠真から渡された金色の小さな包み。包装紙に店のロゴが白くプリントアウトされたそれは、比較的手に入りやすい飴だった。
「アキラくんが、たまにくれるんだ」
頭脳労働すると甘いものが欲しくなる。疲れたときには糖分が必要不可欠だと、会う度に兄が悠真に渡していた。しかも時期が時期なのでチョコレート味になってしまったらしい。
(あれ? でも)
兄が飴を食べているところをリンはあまり見たことはない。あの映像でもエージェントに渡しているところは映っていなかったはずだ。
「ねえ、悠真。それ、いつから貰ったのか覚えてない?」
我ながら馬鹿げた仮説が頭を過っていく。それを確かめるために、リンは悠真に問いかけた。
「えーっと、確か、一ヶ月
……
いやそれよりもう少し前くらいかなぁ」
唐突な問いかけに、腕を組み悠真が首を傾げる。
(やっぱり、Fairyが言ってたときと被ってる気がする)
確証が欲しくなり、他にも貰った日があるかと聞いては、悠真の辿った記憶を頭の中にメモをしていく。日付が分かれば、あとは映像をもう一度観返すだけだ。
「悠真、昨日もしかして貰ってるんじゃない?」
「よく分かったね。もしかして、リンちゃんも?」
「いや〜、私は貰ったことないよ。ほら、お兄ちゃんに貰う前に、自分で買っちゃうんだよね」
アキラがHIAセンターで悠真と過ごしていたのなら、ほぼ答えは出たようなものだった。
リンが見つけた一つの法則性。
アキラの脈が僅かに乱れるのは浅羽悠真と会っているときだということ。そしてそれは、これを渡す時にだけ感知されるということ。
点と点が繋がり結論が導き出される。
(あとでfairyに説明しないと。でも、病気じゃなくて良かったよ、ほんと)
フェアリーは、ただ感知した事実を述べただけに過ぎない。
そんな彼女に、人には感情の揺れ動きが身体に作用するときがあるのだと教えておこう。プライドの高い彼女ならば、すぐに学習し理解してくれるはずだ。
「最近会えなかったから、久々にそれ貰ったんだけど、勿体なくてさ」
眺めてはポケットにしまっているのだと悠真が微苦笑を浮かべた。
「まあ、お兄ちゃん忙しいもんね。えっと、半月くらい会ってないんじゃない?」
「んー、それくらいになるのかなぁ
……
。てか、仕事したくないのに書類積み上げられるから定時より遅くなること多いし、雅課長と会議をサボろう
……
もとい、鍛錬しようとしても副課長の目がすっごく光ってるし。蒼角ちゃんは元気いっぱい食べてるし」
「最後のは、悠真別に関係ないよね」
「まあ、それはそれとして、アキラくんも僕も忙しすぎるからさ。会ったとしても、最近ほどんと仕事の話しメインなんだよね」
悠真にとって、アキラと過ごす時間は特別らしい。彼の妹だから隠し事はしたくないと、兄のことが好きだと告げられたのはつい最近の出来事だった。どうせいつかバレるのならさっさと告げてしまおうと、悠真と二人っきりになった時に打ち明けられた。
穏やかな口調とは裏腹に悠真の琥珀色の瞳が憂いを滲ませていたので、リンは手のひらで相手の背中を軽く叩いた。
悠真が何に対して悩んでいるのか。本人から話さない限りリンからは訊くつもりはない。
少なくとも、人を好きになることを後ろめたいと思わないで欲しかった。
誰かを愛しく感じる。その人と一緒にいると胸の中が暖かくなる。大げさかもしれないが、生きる糧にもなる感情をを否定したくはない。
「相棒が足りない。アキラくんとデートがしたい
……
」
「デートかどうかは分かんないけど、もしかしたら、お兄ちゃんも同じこと思ってるかも。悠真と一緒にいる時のお兄ちゃん、なんだか楽しそうだし」
「だったら嬉しいんだけどね。でも、ほら、アキラくんて誰にでも気さくだし、優しいし。それがすっごく魅力なところでもあるんだけどさ」
「まあ、確かにそうかも」
人にもボンプにも。とにかくアキラは相手の為に行動することが多い。だから慕われ、周りに人が絶えないのだろう。
「でも、何に対しても優しいのって、たまに困りものなんだって思っちゃうんだよね」
「どうして?」
一番近くで兄を見てきた妹としては、ほんの少しだけ寂しさを覚えてしまう。
「平等な優しさってね、時々だけど、向けられてる相手が寂しくなっちゃうんだよ」
誰にでも平等に優しい。ということは、アキラの特別にはなれないという決定打をもらったようなものだ。
「だからたまに、お兄ちゃんは誰にも興味ないのかなって思っちゃう」
「リンちゃんたち、家族にも?」
すぐに首を横に振る。
「んー、それは別。家族のことはすごく大事にしてくれてるよ」
「でも、アキラくんて結構世話焼きっていうか、困っている人放っておけない人でしょ。普通そういうのって他人に興味ないとさ、手助けできないんじゃない?」
「
……
そうなんだけど、そうじゃないっていうか」
腕を組み、我が兄の内面を説明しようとして頭を悩ませてしまう。
感情が先走り、衝動で動くことが多少あるリンと対比するように、アキラはまず相手の気持ちを汲み冷静に動く傾向がある。
リンですら最初は悠真と同じように、アキラが他人に対して必要以上に心を傾けているのだと思っていたのだから。
「でも僕からすれば、アキラくんは人に興味がないっていうより、自分に興味がないように見えるんだよね」
もっと言ってしまえば、自分の感情に興味がないっててことだけど、と。悠真が困ったように笑む。
「それに、あの人はちゃんと分かってるよ。相手が寂しがってること。でも、相手がその寂しさも麻痺するくらい、優しさを与えてしまうんだ」
ときにその行為は強引さを伴うのかもしれない。
「で、優しいのは確かなんだけど、ああ見えてアキラくん結構頑固なところもあるんだよね。こっちの言うこと、あえて聞かない振りとかもしてくれちゃうしさ」
軽くため息を落とし話しを切る。
「確かに」
「そういえば、前もそうだったなぁ」
「前って?」
「いや、さっき閉店の手伝いしてるときにさ、アキラくんから渡されたビデオがあったから」
つい思い出したのだと悠真が続けた。
「リンちゃん、覚えてる? リバーブ・アリーナにこの店のミニ版出したヤツ。僕が観たい映画のリクエストをしたんだけど、アキラくんからリクエストとは違うビデオ渡されたんだよ」
「あ、あったね。お兄ちゃんがお客さんのリクエスト間違えるの珍しいなって思ったけど、悠真のは納得しちゃった。むしろわざと間違ってるでしょ、あれは」
人がひっそりと化け物になり変わっている。誰かに擬態し、いずれ擬態した正体が明かされたとき人は恐怖を抱く。と、一見サスペンス風味のファンタジー作品を悠真がリクエストしたけれど、渡されたのは全く違うジャンルの作品だった。
「ちなみに、お兄ちゃんが悠真に貸したアクション作品、私は結構好きなんだよね。観終わった後、気分がスカッとするのっていいでしょ」
「まあ、結果的にはかなり面白かったよ。楽しかったし」
リクエスト通りの映画を借りて観ていたとしたら、観賞後に心が沈んでいたかもしれないと悠真が続ける。
「これは多分なんだけど、きっとそこまで先読みして貸したのかもしれないんじゃない? ほら、考えすぎはよくないってお兄ちゃん言ってたじゃん」
物語と現実は同等な世界線ではなく、あくまでも物語はフィクションとして生み出されたものだ。
「アキラくんなら僕の心を読んでいても不思議じゃない気がする
……
。さすがプロキシ」
「いや、そこはプロキシ関係ないでしょ」
「リンちゃん。君のお兄さんは心理戦のプロだよ。僕は絶対に関係あるって思うんだよね」
過程があり結果があるというのはよく聞く話だけれど、結果を見据えながら過程を構築し動きそうなのが兄らしい。
(でも、悠真の言ってること、ちょっと分かった気がする)
強引な優しさもまた、他人のためだからできるのだろう。自分よりも他人優先。悠真の言う、アキラが自分に興味がないというところなのかもしれなかった。
そして実際にその強引さがあったからこそ、悠真の休日が充実したものとなったので、アキラの誘導は結果的に成功しているということになる。
「じゃあ、もう一度同じような感じの作品リクエストしてみてよ。お兄ちゃん、今度はリクエスト通りにしてくれるかもしれないし」
「そうかなぁ」
「そうそう。なんだったらさ、一緒に観てくれるかも。悠真がどーしても観たいって言ったら、それこそ悠真の心理を読んで、強引な優しさ発揮してくれるかもよ。なんたって、お兄ちゃん凄腕のプロキシなんだから」
ウィンクを決めてみせれば、少しだけ悠真が驚いた表情を見せた。
アキラも悠真も、リンからしてみればどちらも幸せになって欲しい人達だ。随分と不器用な二人の背中を押したくなってしまう。
悠真はアキラが自身に興味がないと言っているが、そんな兄の変化に気づいてしまったから。
「そうだね。そうしてみようかな。でも、一緒に観てくれるかな」
「そこは、弱気にならないで。リクエスト内容次第かもしれないけどさ。でも、悠真が本当に観たいなら、お兄ちゃんはちゃんと選んでくれるよ」
その人にどの物語が必要なのか。観終わったあと、少しでも心が満たされてくれればいいと、この店を経営する主として、アキラもリンも足を運んでくれる人たちを全面的にサポートする。
「実はミニ版第二弾の話もあってさ、お兄ちゃんと、ちょっと落ち着いたらビデオの仕入れに行こうって約束してるの」
「こないだの賑わってたからねぇ。カッコ可愛い兄妹が映画を選んでくれるって、僕の周りでも噂にもなってたし」
「噂か。それでいっそ会員増えてくれたら嬉しいんだけどね。そうすれば、ビデオがもっと仕入れられるし」
「本当に、あんた達ってこの仕事好きだよね」
「当然っ」
「そっか。なんだか羨ましいなぁ」
悠真の琥珀色の瞳がほんの僅かに揺れる。けれどそれは一瞬ことで、すぐにいつもの飄々とした雰囲気を纏っていた。
「だから、明日はもう少しフロアにでて
……
って、もう真夜中じゃんっ」
気心の知れた相手だと、ついつい話し込んでしまう。
「あー
……
ごめん、悠真も疲れてるのに付き合わせちゃって」
「いいよ、いいよ。むしろゆっくりできたから。ほら、仕事の用件も片付けられて、しかもここで休めてるしさ」
「引き止めちゃてるこっちが言うのもなんだけど、悠真もしっかり寝て身体休めてよね。それから、これはやっぱり返すよ。お兄ちゃんの優しさ、ちゃんと悠真が受け止めてあげて」
誰にも興味がないと思っていた。そんな兄が悠真に心惹かれているのだと、甘い欠片が教えてくれたから。
兄が隠しておきたい想い。もしかすると無意識なのかもしれない。そんなアキラの淡い感情に悠真はまだ気づいていないのだろう。
仕事でもプライベートでも。兄をバックアップすることに力を入れようと、リンは悠真に小さな包みを手渡した。
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