11155.
2023-01-08 01:44:10
2621文字
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並んだ姉と弟

雨宮姉弟の蛍と碧の日常話。仲の良い2人が居間で過ごしてる一場面。碧にとってはちょっと思い出深い日かもしれない。

並んだ姉と弟


 「宇宙の果てには何があるのでしょう」
 
 ふと、テレビから流れる言葉に顔を上げた。居間で課題のレポートを書いていた碧は眼鏡を直すため手をかける。目の前のテレビには来た時からつけっぱなしだったドキュメンタリー番組が映っており、司会者らしき女性が問いかけている場面だった。主役であろう白い髪と髭が似合う如何にも研究者ですという白衣を着た年配の男性が朗々と応えているようだ。
……そんなん、分かるわけないやん……
 ぼそっと開いた口からこぼれる。
「碧、何かわからないことあったの?」
 突然の掛け声にうわっと声を出しながら、後ろに振り返った彼は目を見開く。少し目線を上にあげて。
「っ! 来てたなら早く声掛けろよ!!」
「自分の家なのに~ちゃんとあの扉から音出して入ってきたよ。碧が気付かなかっただけだから私のせいじゃないら?」
「それでも、驚いたんだ……! 蛍!!」
 眉をぎゅっと寄せ、苦虫を潰したような顔をする碧にあははと手を口元まで持って笑ってしまう蛍。引っ込みがつかなくなった弟に彼女はごめんねと口にしながら彼のソファー横の席にぽすんと腰掛ける。
「ふふ、可愛い弟が悩んでるから思わずお姉ちゃんとして心配しちゃったんだ。許して?」
 ムスッとまだ納得してないような碧だが、はぁとひとつ大きくため息をつく。
「そんなこと、どうでも良いだろう」
「そんなことなんかじゃないよ。ここの所忙しかったみたいだし……たまにはさ、姉弟仲良くお話したいなとも思って。碧みたいに頭は良くないけど一緒に悩むくらいなら出来るから!」
 お姉ちゃんに任せなさいと言わんばかりに胸を張る蛍。そんな様子の彼女に碧は力が抜けていくのを感じる。
「もう、いいよ。ただ答えのない問いかけをするあの様子にぼやいただけだって」
 んとテレビの画面を手で示す。そこにはまだ先程の司会者と白衣の男性が映っていた。
「答え?」
「そう、宇宙の果てには何があるんですか~って。まだ到達してない、答えが見えてないからわからんやんって俺は思って観てただけ」
 碧は書きかけのレポートに目線を戻しながら、カリカリと手の動きを再開する。
「ふーん、わからんやつだね」
 でもと目の端に映る蛍は口を開く。
「答えが分からないからこそ楽しいんじゃない?」
「えっ?」
 声と共に碧の動きが止まり、姉の顔を上げた。
「前に碧も言ってたじゃん。人は考えるから進化出来たんだって」
 首を傾げ、そうでしょと目を細める蛍。
「知らないからこそ調べるし、その先を思わず想像出来ちゃうなら確認したくなると思うよ。私はそれが、興味持ったのが機械関連だったからお父さんの仕事をやらせてもらってるけど」
……時間かかるのに、考えるのか?」
「うん! その時間が楽しいと思えるならね! しんどいなら考えてくれる人に任せれば良いら」
 えへへと照れるように笑う蛍。
「まあ実技以外は苦手だから、お父さんやお母さん、碧に頼ってばかりだけどね」
……お隣さんにも頼ってばっかだよな?」
「え? あ、ああ! まあそうかな~いや、夕飯をお裾分けとかしたり遊びに誘ったりしてるだけだから、た、頼ってるとかじゃ……
「遊ぶ時には頼りきってるだろ?」
「う、そう、言われたら?? そうなのかな?」
 首を傾げる彼女は思わず頬に手を添える。ほんのり熱くなってるのは気のせいだと自分に言い聞かせている彼女に碧はにやっと不敵に笑う。
「まあ、俺に頼ってるようじゃお姉ちゃんもまだまだだな。お隣さんと遊ぶ時も一緒にってってな?」
 そしてソファーの背にどさっともたれかかると目を細める。対照的に前のめりながら彼に向かってお姉ちゃんはしっかりしてるでしょ?と慌てて話す様子に、ぷはっと吹き出す碧。
「そんな笑わなくても!!」
「いや、くく……蛍が……っ」
「言うならはっきり言ってよ!」
 耳を染めながら口を尖らせている蛍と止めようとして笑いが止まらない碧。
 今では変わらない笑い合う姉弟のこの光景に碧は安堵する。いつかみた、ただひとりだけいた姉の隣に自分が並んでいるのだと。ずっと見つめることしかできていないと思っていた彼は姉の後ろをついて回っていた幼い頃の自分を思い浮かべた。
 なんだか、あの頃の自分を許せる気がした。