11155.
2022-04-10 01:48:24
4176文字
Public
 

君のために使う「愛してる」

うちの子CP、陽輝と千佳の日常話。友人のつむぎ(うちの子)も出てきます。イメージソングに近くなれば良いなと思います。

君のために使う「愛してる」

 
 広い通路をドタドタと勢いよく走る。偶に目の前の人にぶつかりそうになるがギリギリで避けていく。
「ほんますんません!!!」
 相手からしたら何があったのかと驚くが、確認する頃には言葉を投げた人物は目の前から居なくなっているのでどうしたら良いのかわからない。そんな彼の行動に周りは唖然としたまま取り残されるのがいつものことだ。
「ほんにこの大学は無駄に広すぎるわ!」
 大きな独り言を零して走る。彼は階段を降りていくと、左に曲がり広い通路を真っ直ぐ駆けていった。目の前に見えてきた両開きの扉をガバッと開けると、探していた人物を見つけ、大きな声を出す。
「千佳!!!!」
 辺りに響く声は本人にまで届いたのだろう。サラッと振り向く動きに合わせ髪がなびく。頬にかかる明るい髪を耳にかけて、にっこりと笑って口を開いた。
「はる、また周りに迷惑かけてへんよな?」
 少し遠くにいたがしっかりと何を言いたいのかわかった彼、陽輝はビクッと固まる。一瞬で我に返り、いや、ちゃうんや!と言いながら、彼女の前まで早歩きで向かう。
「あの、急いでは来たんやけど! 誰にもぶつかってへんし、今日はむしろ講義の片付けまで手伝ってきたくらいで……!」
 じっと下から見上げる彼女に陽輝はアタフタと大きな手振りで伝える。
「ほんまなんやで……ちかぁ……
 だんだんと尻尾を丸めた子犬みたいに信じてくれと言い出す始末。
……走るのは駄目やって言ってるのに。まあ次からはしないようにしてな?」
「千佳!!! わかったわ!!」
 ガバッと両手を広げると目の前の彼女、千佳に抱きついた陽輝。
「ちょっ、はる!!」
「千佳は女神やで~~~!!」
 一回りも大きい陽輝から抜け出そうとじたばたする千佳だが、彼には勝てないと諦めるしか無かった。
 その横でこほんと咳をする人物がいた。
「お二方、公衆の面前で仲良くするのはもう少し控えるのはいかが? 仲が良いのは知っていますが、注目されている側に居る私は少し困るのだけれど」
 腕を組み呆れるように声をかけたその彼女は吊り上がる目を細めて二人を見つめる。
「つ、つむぎちゃん……! ごめんな! そんなつもりなくて……!」
 周りの視線に気づいた千佳が慌てだす。つむぎと呼ばれた彼女は片腕を上げると手で彼を示して言葉を続ける。
「まあ、一番の原因は貴方だと思いますが、陽輝さん。控えなさい」
 指名された陽輝はそんな……と驚いた顔で先程よりも強く千佳を抱きしめた。
「殺生な……!! やっと千佳と会うたのに……!」
 まるで離さないと言わんばかりの陽輝の様子にはぁと大きなため息をつく、つむぎ。
「たった半日会えなくてそんな焦る方が可笑しいわよ。彼氏ならもっと構えていなさい。もう慌てる様な歳ではないでしょうに……
「そんなん、彼氏やから焦るんや!! こんなめっちゃ可愛らしいてべっぴんやから変な男に声掛けられへんか心配になるやろ!!」
「はる!?! あんた、何言うてんの???」
 それにと続けて叫ぶ陽輝。
「千佳の可愛らしい胸をここまで育てたのは俺っ!!」
「アホなこと言うな!!?!」
 鋭いツッコミと共にみぞおちに思いっきり千佳の拳を受けた陽輝はぐはっと息を吐くと腕の力を緩めた。その隙に抜け出した千佳はつむぎへと駆け寄る。
「つむぎちゃん、ほんまに騒がしくてごめんな!! わざとじゃないんだよ! あのアホがただアホ過ぎただけで……! まだ友達で、いてくれる?」
 千佳は、つむぎの両手をさっと掴むと募るように目の前の彼女を見つめる。ふっと微笑むと優しく声をかけたつむぎ。
「千佳さん、こんなことが続くと私も呆れてしまうけど大丈夫よ。貴方は悪くないことは見ててわかるもの。ただ、大変な方と御付き合いされてることのほうが心配なぐらいだわ」
「つむぎちゃん……!!」
 感動して瞳が揺れる千佳。そんな彼女からそっと目線を奥へと移す。
「それにしても……関西の文化にまだ不慣れなのできちんと理解出来てはいませんが、先程は夫婦漫才になるのかしら? 漫才をされていたとしても、理解通りなら私は彼にここでの発言を控えるように伝えたいのだけれど……それとも先に体の心配をした方が良いの? 千佳さん」
 そこにはお腹を抱えたままの陽輝が立っていた。どうやら顔色が少し悪いようにも見える。
……ナイス、ツッコミやで千佳……
 苦しそうにしながらも親指を上げ、辛うじて作った笑顔を向ける陽輝。その姿を見た千佳は大きな息を吐いた。
「夫婦漫才じゃない、よ。ただちょっとさっきのは力が入り過ぎたみたいやから……じゃなくて、過ぎたみたいだから見てくるね」
「わかったわ。顔色が悪いのは本当のようですね」
 二人は陽輝の方へと向かい声をかける。
「はる、自業自得やからね。でもしんどいやんな、堪忍なぁ」
「大丈夫や……可愛い彼女からの拳なんて、俺には効かへん……
「そんな痩せ我慢せんでええんやで………
 ほらと手を差す出す千佳に条件反射でサッと掴む陽輝は首を傾げた。どうしたのかと見ていると、千佳は彼の腕を自分の肩に回るようにし、支える体制をとる。
「ほら、少しは楽になるやろ。行くで」
「やっぱり俺の彼女は女神や……
「そう言うんのはええから!! つむぎちゃんに謝んねんで!!」
 はっとして、隣にいたつむぎに向き合うと頭を下げる陽輝。
「めっちゃごめん!! 二人の邪魔するつもりはなかったんや……ただ千佳への想いが昂りすぎてもうて……あ、痛っ!?」
「そんな理由は言わんでええ!!」
 二人のやり取りを見ていたつむぎは、手を頬に添えて口を開く。
「貴方が千佳さんを好きなのは充分わかりましたから、彼女の負担にだけならないよう気をつけてください。貴方が困るのは構わないのだけれど、悲しむのは結局、千佳さんなので、そこだけは心に留めておきなさい」
「つむやん……!!」
「その変なあだ名はどうにかしてくださいませんか?」
 眉間に皺を寄せたつむぎが目をキラキラとさせる陽輝に言葉をかける。
「まあ、言いたいことは沢山ありますが……放課後は私も予定がありますので、二人で過ごしていてください。彼氏として千佳さんはお任せしましたよ、陽輝さん」
「それは任しとき!!」
 溢れんばかりの満面の笑みとなった陽輝に不安を感じ、思わずつむぎは隣の彼女に可哀想な視線を送る。
……気をつけてね、千佳さん」
「心配ばかりかけて、ごめんなぁ。つむぎちゃん……
「え、どうしたん? 二人とも?」
「なんでもないんやで……じゃあ、つむぎちゃんも気をつけてね。そしてほんまにありがとう」
「こちらこそ、千佳さん。それじゃあね」
 陽輝をよそに分かりあった二人は挨拶を交わした。
 そして千佳が陽輝に声をかけ、二人が歩き出す。大学の外へと向かう。
「はるは、よう言うわな。女神やとかも。うちには言えへんわ……
 呆れるように呟く千佳。それにきょとんとする陽輝は不思議そうに、彼女を見つめる。
「そりゃあ、千佳やからやで?」
「はいはい、いつもありがとうやで」
「あぁ! 真面目に聞いてへんやろ! ほんまやで! めっちゃ好きやからやで!!」
「彼女冥利やわ~」
 陽輝は本当だというが、はいはいと聞き流す千佳自身は前を向いておりそもそも目線が合わない。
「この想いが消える時は、俺がこの世から消える時や」
 突然の言葉にあははと笑う千佳だが少し耳に熱を感じた。そして陽輝がどんな顔なのか見れないまま思わず言葉を零す。
「そんなん、はるのハゲやで」
「んな、アホな! まずハゲてねぇし! フッサフッサやで! よう見いや!!」
「うーん、うちからはハゲが見えとるけどなぁ」
 いつもの陽輝だと思いながら歩いていると、グイッと肩に回された陽輝の腕で引き寄せられる。頬を支えられ、彼女の耳元で陽輝は囁く。
「愛しとる」
 幼い頃からずっと一緒で聞き慣れてたはずなのに初めて聞くような声で何を言われたのか最初わからず千佳は硬直する。その言葉が頭に届く頃には、首までまるで茹でダコの様に赤く、熱くなっていくのを陽輝は目を細めて見つめる。
「千佳やから。このためにあった言葉やな」
 言葉にならない言葉を発しながら、涙目で見つめる千佳に陽輝は今日一番の笑顔を見せた。そんな可愛いらしい彼女の鼻へ思わず口付けを落とす。