保科
2025-03-15 00:44:18
4642文字
Public まほ箱系(オールキャラ)
 

チーム料理上手くない組

3/13投稿

千鍵とアルキャスとかいう幻覚レベル120のなにか、多分私にしか見えない

お題
・敬語のアルキャス
・敬語の猫被りチカちゃん
・料理の話

「んじゃァ儂はそろそろ戻らせてもらうからな。まあ……なんだ、お前さんも頑張れよ」
「こらぁ!雑にぶん投げるな村正ァ!」
千鍵が、食堂でのバイトの時間と訪れてみれば、何やら中が騒がしかった。
普段からにぎやかな場所とは言え、今聞こえてくるのは喧騒というよりは喧嘩のそれだ。入り口で立ち止まって様子をうかがおうとすると、赤毛の青年がするりと千鍵の横を通り抜け、食堂を出ていく――前にマスターに紹介してもらった気がするが、ええと……
記憶を辿るよりも早く、もう!と残された少女が、やけになって皿へと叫ぶ。
白いパイロットキャップらしきものを被っていて、牧歌的な雰囲気がある子だ。およそ千鍵と同い年か、少し下といったところか。
「これじゃ全然……もー!あのへっぽこ爺!どうにもならないって分かった途端に見切りつけてー!」
きゃんきゃん、居ない誰か――きっと今出ていった青年なのだろうけれど――に文句を叫ぶ口が止まることはない。
……元気だな……
思わず口にすると、ば、と少女の眼差しがこちらを向く。声のせいで存在に気づかれたようだった。真っ赤な顔で、こちらを凝視する視線から、そっと目をそらす。
――降りる沈黙。気まずい。
「あー……
……耐えきれず、先に口を開いたのは千鍵だった。なんとなく、かしこまった口調を選んで話す。
「その……ですね、私は単なるバイトなのでお気にならさずに……
「え?あ……っ、ご、ごめんなさい!そっか、もうちょっとで食堂が開く時間じゃん……えっと、今、片付けるので――
彼女が慌てた様子で振り返る。
その視線の先にあるキッチンをうかがって――シンクに大量に積まれた洗い物の量に目を剥いた。
……これ、今から一人で片付けるの?」
「ええと、その、たぶん、なんとか……するので……
………
――ち、チカちゃん、これどうしよう……
右往左往、オロオロする姿に――どうにも、キッチンのひびきの姿が重なって仕方なくて、ため息をつく。
面倒なことは嫌いだ。今、要らんことに首を突っ込もうとしているという自覚は、ある。
あるけれど、
――あの、手伝いますよ」
「えっ?」
「片付け。どちらにせよ私がやることになるんで、ついでです」
―――
驚いた様子で千鍵を見つめた少女は、はっと我に返ると。
「あ」
……あ?」
「ありがとう……?」
戸惑い気味につぶやくので、なんで疑問形なんだと千鍵は思った。



蛇口から水が流れ落ちる。
暫くの間、無言の空間にそれだけが鳴り響いた。互いに口下手なのか、それとも無口なのか――黙々と食器を洗い続けて、5分くらい経った頃。
ぽつりと、ベレー帽の少女が口を開いた。
……千鍵、お皿洗うの早いんですね」
「え?ああ、まあそれだけが取り柄みたいなもんで……
「そう、なんだ。……え、そうなの?」
「んー……他に取り柄とかはあんまり……
……そ、そっか……
彼女はアルトリア、と名乗った。アルトリア・キャスター。似た顔と名前についてすでに複数人見かけてる気がしたけれど、なんか組織的な共通の偽名とかなのかも知れない。深くは追求しないでおいた。
カルデアの台所は複数人の使用を前提としているので、洗い場も複数ある。2人でそれぞれシンクを使いながら、調理器具を手早く洗っていく。
それにしてと、どれもこれも異様に甘い香りで胸焼けしそうだ。ブラウン色の汚れについて、時期も相まって予想するのは簡単だった。
汚れを温めのお湯で溶かしながら、確認を取ってみる。
「あの。もしかして、チョコ、作ってたんですか?」
「あ、……えっと、うん、まあ……
しどろもどろな返答は、まあ、直近の用事がバレンタインだからだろう。送る相手は誰だ、とか、そーゆーやつで、深く突っ込まれたら返答に困るのは当然だった。これ以上はやめておこう、と口を閉じて。
「作っては、いたんですけど……
……?」
歯切れが悪い返答を、不思議に思う。
「なんというか、出来た、というか」
……よかったですね?」
「出来てない……というか」
「いやどっちなの」
思わずツッコむと、「私が知りたい……」とアルトリアが肩を落とす。
「これでも、その、魔術師なので。
チョコは、できる。できるんだけど、形が全部……
「全部?」
「剣になる、んですよね……
………
何じゃそりゃ。半目を向ける千鍵に、
「だって本当なんだよ!」と若干涙目になったアルトリアが抗議する。
「どれだけハートで型どっても剣になっちゃうの!何しても全部剣!」
彼女が指差す方には、適当なビニールの中に詰められた無数の小型剣が――なにあれ凶器?町中に放り投げたらそこそこパニックが起きそうなハイクオリティの出来栄えだが、確かに色はチョコレートのそれだった。
「いやでも、ハートで型どったならハートになるでしょう……?」
「ならない!剣になるんです……村正に手伝わせても、何も変わんないし……
「ええ……
ムラマサとは、さっき出ていった青年だろうか。なんとなく老練された雰囲気の人だったけど、チョコ作りとかに付き合ってくれる人なんだなあ、と、千鍵はちょっとそれたことを考えて、我に返る。
「もう……どうすればいいんだろ……助けてマーリン魔術……
沈んだ声でぶつぶつ呟くアルトリアが執拗にスポンジでボウルを磨いている。
………
――どうすればいいのか、というのは千鍵に向けた疑問というより独白のような形だから、きっと回答とかは求めてないのだろうけれど。
彼女が困窮してることだけは、ありありと伝わってくる。
当然ながら、そのトラブルらしいなにかの解決方法を千鍵は持ち合わせていない(そもそも意味が分からないし)。でも、『どうやっても作るものの末路が変わらない』という話は――
――ちょっとだけ、分かりますよ」
「え゛。……嘘、分かるの?この話の共感ポイント、ゼロじゃない?」
「いや、まあ……、あくまでちょっとだけですけど」
大した慰めにもならないかもだけれど、隣の彼女が悪い人ではないのは、これまでの会話でなんとなく分かったから。落ち込ませたまま、というのも気分が悪い。千鍵は、未だ掴みかねている距離感を測りつつ、ぽつぽつと続ける。
「私もその――なんというか、料理を作るとどうにも上手くいかないというか」
「苦手……なんですか?」
「全部暗黒物質産業廃棄物になる、みたいな」
………
何だそれ、という目を向けられる。失礼な、恥かいてやったのに!
「本当なの!」半ば自棄っぱちになりつつ続ける。
「ま、まあ、その?言うなれば、完成すると色と形状と匂いと味がレシピと違くなってしまうだけなんだけれど……
「だけってそれ全部違うじゃん!?え、本当……『本当』じゃん!?」
独特の言い回しで驚愕したアルトリアは、はえー、と感嘆らしい息を吐く。
「すごいですね……。千鍵、暗黒物質を作る使命とか帯びて生まれてきてます?」
「どういうこと?
いや、そもそもそんな嫌すぎる使命背負わせないで……
ごく一般の女子高生であり、料理下手も個性の一つである。使命なぞであってたまるか、と千鍵は肩を落とす。
―――。でも、そっか。ありがと、ちょっと嬉しいです」
「別にお礼を言われるようなことじゃないです。体験話しただけなんで」
……うん、でも、……ありがとう」
そんなにしみじみしないでほしい。いたたまれなくなる。
キュ、と最後の皿を拭き終える。一旦持ち分の片付けは完了だ。活気づいてきたあたりを伺いつつ、まだ数枚残っているアルトリアの状況を確認する。
「アルトリア……さん、残りの食器もらおうか?」
「あ……ううん!大丈夫。こっちも後少しだから。
千鍵は他にやること、きっとありますよね?」
……まあ、確かにね。
じゃあ、お言葉に甘えて」
ブーディカさんやビーマさん、赤いアーチャー――エミヤ、と名乗っていただろうか――もすでに顔を出している。
厨房に入れずとも、テーブルを拭いたり、食器の準備をしたり、定食のメニューの掲示を書き換えたりとやることは細々ある。
気がかりではあるけれど、これ以上かけられるおせっかいもないだろう。
頷いてから、その場を離れようとして。
――千鍵!」
アルトリアが不意に呼びかけた。
振り返る。アルトリアは、何故か彼女自身も驚いたような顔をしながら、躊躇いがちに口を開く。
「あの、アルトリア、でいいですよ。
私のこと。敬称は、なしで」
意外な言葉に、目を見張る。こんなふうに距離を詰められることは、千鍵にとってめったにないことだ。思わず頷く。
「わ……分かりました」
その返事を聞くと、アルトリアはまっすぐ、千鍵のことを見る。見つめて――
……後、口調も」
そこから続いた言葉もまた、予想外だった。千鍵は思わず、ぱちくりと瞬いた。
……、えーと。もしかして、私のこと知ってたとか?」
「ううん。
知らなかった、けど。なんとなく、その……一致しな……違和感が、あったから。
……きっとそうかな?って」
「そーか……
ハァ……この猫被り、あんまりバレたことなかったんだけどな」
「え、本当ですか?なんかごめんなさい」
「いや、謝ることじゃない……ねーだろ。気にするなよ」
なんとなく気まずい気分で、分かった、と嘆息する。
「アルトリアもさ、いいよ、私にはタメ口で。こっちも気にしないし。
ま、チョコ作り頑張れよ」
……うん、千鍵もね!」
ぱあ、と嬉しそうに笑いかけられて、千鍵は困惑する。……何で渡す相手が居る前提なんだ。
「は?いや私は既製品――ああ、うん、まあ、……機会があったらな」
そんな機会、そうそうないだろう、と、高を括った千鍵であったが、そうは問屋も店長も降ろさないのは、少し先の話である。







「やっほう千鍵!今日もバイト?」
「アルトリアか。ったく、人を散々バイトに明け暮れる変人扱いしやがって……
「いやだって。カルデアでわざわざ自分の職を探すのってあれじゃない?所謂ワーカホリックってやつ!」
「待て、それは私から一番縁遠い概念のはずなんだが!?」

――アルトリア、アルトリア。キャスターのアルキャスさん」
「そんな呼ばなくても聞こえてるって。
どうかした?マスターさん」
「桂木さんと、仲良かったっけ?」
「えっと……カツラギ……?」
「え?あー……あそこの緑のツインテ。千鍵ちゃんの名字」
「あー、あーあーあー!千鍵と私?
うん、この前お喋りして仲良くなったけど……それがどうかした?」
「へー。珍しいねまた」
……珍しいとは何さあ」
「いや、日比乃さんならともかく、桂木さんってそういう、人と積極的に仲良くなるタイプでもなし、アルトリアもそうだし」
……冷静な分析腹立つ……
でも、ま、うん。そうだね――千鍵、話してて色々面白かったからさ。ちょっとだけ仲良くなりたいって思ったりした」
……絶対本人に伝えないほうがいいタイプの感想じゃん」
「アハハ、そうかも!
あの本心と言葉にズレが出る感じ、ちょっとバーヴァン・シーと似てるなーって。ま、あの子の口の悪さとは比べものにならないけど!
その点千鍵はずっとフレンドリーだもん」
「はー……その視点はなかったかも。なるほどねえ」