Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
夢篠
2025-03-04 20:44:53
2137文字
Public
黄昏星(雑渡双子妹)
Clear cache
Customize name
1216110
Customize name
兄弟星借りた、宙高く
雑渡の双子が妹だったら
1
2
男女の双子は、心中の生まれ変わりなのだそうだ。だから、と言うと酷く不合理だが、私と私の双子の妹は幼い頃から分かたれて育てられた。それはきっと「こうなる」事を父が予測していたからではないかと、今となっては思う。
幼い頃から忍びの技を叩き込まれた私に対して、妹は、
ナマエ
は女としてこれから必要になるだろう事のみを与えられた。礼法に始まり歌、茶、花、琴、その他諸々
……
。凡そ忍びの家に生まれたとは思えないあれやこれやを
ナマエ
は与えられるまま文句ひとつ言わずに習った。私に良く似た、目鼻立ちのはっきりとした顔は一見気の強そうにも見えるのに、彼女の蕩けるような笑う顔は男女の別無く実に多くの者を虜にした。
父も
ナマエ
には甘かった。大人たちは
ナマエ
を口々に褒めそやした。城の人たちも同じく。私の同年代、或いはもう少し歳上の者も
ナマエ
の隣に立ちたがった。私も、本当はその手を取りたかった気がするのに。物心付く前には、それは赦されぬ事なのだと気付いていた。
周りの様々の思いとは裏腹に、
ナマエ
の心を得たのは私の兄貴分のような山本陣内だった。組頭の血を引く娘に周囲がどのような意味合いを見出すのか、
ナマエ
は本当に良く理解していた。だからその身が彼女だけの物では無い事を
ナマエ
は知っていたのだろう。だからなのか、心だけは早々にただ一人に明け渡してしまったようだった。
「陣内は、お前に優しいの」
いつだったか、
ナマエ
が珍しく屋敷の外に出た日があった。多分手習いの帰りだったのだと思う。何かあってはいけないからと、私が護衛についた。暫く見ない内に、
ナマエ
はすっかり女になっていて、実の妹相手に私は上手く言葉が紡げなくて二人の共通の知人の話題を出した。
ナマエ
の少し垂れた瞳が巡り、私を見詰める。とろ、とした葛湯のようなまろやかな目が私を見て、そして頷いた。その目が表す感情は、きっと忍びでなくても読み取れただろう。
「陣内様は
ナマエ
を『
ナマエ
』と、そう呼んでくださるのよ。皆のように
ナマエ
様とも姫とも呼ばないの」
甘くて、胸が痛くなる声に心臓が締め付けられる気がした。
ナマエ
の想いの深さが居た堪れなくて、時間稼ぎのように俯く。
「そう。じゃあ、
ナマエ
は陣内に嫁ぎたいの」
私の中では、それは核心を突いた問いだった。
ナマエ
の心が陣内にあるのは疑いようが無いのに、私はこの期に及んで
ナマエ
の口からそれを否定して欲しいと思っている。
ナマエ
は悪戯の見付かった子供のようにくすくすと笑った。悲痛な顔と笑顔が混ざって、端正な顔がとても曖昧な表情になった。
「昆兄様は分かっている癖に意地悪ね。
ナマエ
の気持ちは関係無いのよ。
ナマエ
は陣内様が好きだけど、それを夢見るのは酷だわ。
……
だって今日、お父様から
ナマエ
はお山を幾つも越えた先にいる殿方に嫁ぐ事が決まったと言われたのだもの」
絹のような髪が風に攫われて靡く。
ナマエ
のとろりとした目には強い光が輝いていた。覚悟を携えたその光を、とても美しいと思った。
陣内は
ナマエ
のその目を見た事が有るのだろうか。彼がとても羨ましかった。私は絶対に
ナマエ
の隣に並ぶ事は赦されない。私は
ナマエ
と最も近しい所にいてそれでいて最も遠い場所にいる存在だからだ。その目が私を顧みる事は万に一つもない。
「
……
陣内が羨ましい」
ナマエ
の縁談について根掘り葉掘り聞いて父に叱られた。父に叱られた時、私が逃げ込むのは陣内の所だ。彼もそれは心得ているのか、私が彼の許を訪れると苦笑しながら受け入れてくれる。その余裕が私と陣内の差にも思えて悔しくなる。
膝を抱えて口の中で呟く。聞こえなければ良いのに。伝わらなければ良いのに。私がこんなに醜くて赦されない感情を持っている事が。でも陣内は大人だから気付いてしまう。
「何がだ?」
何でもない事のように聞かれたら、言葉を返せない。視線を陣内に遣ったら、「優しい」とか「温かい」という言葉がぴったりの目が私を見返した。忍びには似つかわしくないだろうその目が矮小な自分を責め立てているような気がした。
「っ、別に
……
」
逃げるように再度顔を隠す。視界が閉ざされて、私には陣内の顔が見えなくなる。陣内の苦笑する声が聞こえた。大人ぶられているようで嫌だった。馬鹿にするな、と顔を上げようとしたのに。
「
……
私は、お前の方が羨ましいよ」
頭に手を置かれて顔が上げられない。陣内の手が私の頭を乱暴に撫でる。何故、と問うた声は聞こえたのだろう。陣内は困ったように唸ってから、低く呟いた。
実の兄なら、それはこの想いを殺す理由には充分だろう
その声が、とても哀しげでそれでいてもう観念してしまったような音だったから、私は余計に傷付いてしまった気がする。私の想いが誰にも顧みられない事も、私の愛する人たちの想いが結ばれないままなのも。
1
2
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内