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ふみかぜ@壁打ち
2025-03-02 19:51:07
4765文字
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【本編ドラロナ】満ちる前/満たすまで
できていない本編ドラロナ/支部に投稿していた話の再録です
進捗ダメでテンション低いロがドにほんのり気遣われて何かが芽生えそうになる話/自覚しているかもしれないドがロの寝顔を眺める話
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2
【満たすまで】
初めてロナルドへ食事を作ってやった時のことを、ドラルクはよく覚えている。
釈然としない表情を浮かべながらも箸を止めず、空になった器を見て物足りなさげにする姿。料理が美味しかったことすら悔しそうに悪態を吐く様は、退治人としてはある意味正しいものだったかもしれない。
――
それが、今やどうだろう。
「ドラ公ー、飯ー」
「もうできる。手を洗っておきたまえ」
「おう」
当たり前のように食事を催促し、短い返答の中に声を弾ませて。
「ドラ公おかわり」
「自分で取りにこんか若造」
空になった器を持って無防備に腕を差し出す姿は、本当に幼子のよう。
自分が彼を変えたのだという実感を得る度に、ドラルクは楽しくなる。ロナルドの中に己の存在を根付かせる作業は単純なようで繊細な案配を必要とし、それが面白くて堪らないのだ。
◇
照明を消したリビングの中、若造がソファベッドの上で健やかな寝息を立てている。無防備な姿を晒している退治人ロナルドの傍にしゃがみ込んだドラルクは、何とはなしに彼の寝顔を眺めていた。
「ジョン、ロナルド君すっかり寝ちゃったねぇ」
「ヌー」
枕元にちょこんと座ったアルマジロのジョンが、小声で返事をする。時刻は日付が進むまで後少しといったところ。人間といえど退治人稼業のロナルドにとっても遅くない夜だが、今晩は事務所休業ということで昼から原稿と格闘していたらしく(尚、進捗はお察しである)平時より早い眠りに就くこととなった。
というより、休日までも執筆作業で己を追い込むロナルドを見かね、ドラルクがさり気なく休眠へ誘導したと表現するのが正しいか。ハーブティーの鎮静効果がワーカーホリックゴリラにも効果覿面でよかったと思う。
人が仕事で追い詰められている時にゲームなりダンスなり即興コントなりで煽ってやるのは面白いが、相手が元気にこちらを殺す勢いでリアクションを取ってくれなければ楽しみが半減してしまう。そのためにもロナルドには十分な食事と睡眠を摂らせて、万全なコンディションでいて貰わなければならない。
――
それにしても。
露出した首筋へ静かに顔を寄せる。ついさっき入浴したばかりの火照った身体から立ち上る芳しい匂いに、知らずドラルクの喉が鳴った。
「
……
順調、順調。さっすが私」
望むものを作ってやって胃袋を掴みつつ、ロナルドの身体を作り変える試みは面白いほどに上手くいっている。今のところ新横浜の人間から血を狙う突発チャレンジはことごとく失敗に終わり諦めの境地に至りつつあるドラルクだが、一つの大目標へ向けた長期的攻略については確実な手応えを感じていた。
姿勢を戻し、今度は頭へそっと手を伸ばす。窓から差す町の灯りを受けて煌めく銀色の髪は、その色および持ち主に反して吸血鬼を殺しうる暴力性を持たず、月明かりのように穏やかで。栄養状態の改善によって毛艶が増したロナルドの髪も、好ましいものの一つだ。
「んん
……
」
「おっと」
毛先だけ触れるに止めていたが、流石に気配を察したのかロナルドが身動ぎする。起きるか、と身構えたが予想に反して彼は目を開けることなく、ただ寝言を漏らすのみだった。
「どら、こう
……
めし
……
」
「夢の中でも腹ペコ五歳児だな君は」
もっとこう、真祖ドラルクを畏怖して普段言えないような賛辞を言うとかすればいいのに。ただ、何とも録音し甲斐のない内容ではあるが。無意識にでもドラルクの施しを求めるようになったと考えれば、案外悪くない気分である。
「カレー
……
よわいやつ
……
」
「
……
ジョン、明日はハヤシライスにしてみるかい?」
「ヌイヌ」
サムズアップしながら頷いたジョンを丁寧に撫でる。嬉しそうに頭に乗った使い魔をベストポジションに据えてから、ドラルクはもう一度ロナルドの髪へ触れた。
「というわけだ。私とジョンへ大いに感謝したまえよ若造」
「んー
……
」
少し力を込めて叩くように頭皮を撫でたところで、ロナルドは目を覚まさない。いくら小指一本で砂と化す相手とはいえ、吸血鬼を前にしてこの安眠っぷり。あまりにもチョロ過ぎる、と何度目かも分からない感想を抱いてしまう。できれば、ここまで無防備でいるのは我々の前だけであって欲しいものだ。
キッチンへ戻り、洗い物を再開する。ロナルドが眠っている今、電気を点け直す必要はない。
「明日は面白い依頼が来るといいねぇ、ジョン」
「ヌー」
依頼人を出迎えた彼が青い目を真剣なものへ変えるか、しょうもないあるいは常軌を逸した内容に白目を剥くか。それを想像するだけでドラルクの心は躍る。明日も明後日もその先も、楽しいものをたくさん見せて欲しい。そのためなら、いくらでもその胃袋を満たし、舌を満足させてやろうじゃないか。
そして、いつの日か身も心もドラルクなしではいられなくなってしまえばいい。その頃にはロナルドの肉体を流れる血潮もきっと、深い味わいとなっているに違いない。
常にチャート変更を余儀なくされるクソゲー攻略など、ドラルクの得意分野だ。ロナルドが陥落した宵には、存分に笑って、揶揄って
――
可愛がってあげよう。
キッチンの中で、食器の汚れを落とす水の音と読経めいた鼻歌が響く。手際よく洗っていく吸血鬼は、忙しなくも楽しげに手を動かすのだった。
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