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きなこ
2025-03-01 16:16:48
3936文字
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カップリングなし
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クジ+ブケの修行に付き合うボクにスビを添えた話
戦闘力向上(基礎練)の修業をするクジンシーとロックブーケに付き合っているボクオーン。
反抗する若者たちと、そこに現れたスービエが場を引っ掻きまわして、ボクオーンさんが内心お怒りになる、みたいな話。
七英雄は異世界に追放後だけど、のんびりほのぼのワチャワチャしてるだけです。(いつも通り)
「なんでこんな事しなきゃならないんだよ」
肩で息をしたクジンシーからの訴えを受けて、木陰で書物を読んでいたボクオーンは顔を上げた。
「ワグナス殿からあなたたちを鍛え直せと指示が出ているからです」
何を今更と言わんばかりに、ボクオーンは首を傾げてみせる。
ボクオーン、クジンシー、ロックブーケの三人は拠点にしている館の近くにある広場で鍛錬を行なっていた。大神官の策略によって異世界に追放された七英雄が復讐を誓ったはいいが、クジンシーとロックブーケの二人は戦闘能力に課題があった。そのため、戦闘力の底上げのためにボクオーンが二人の修行に付き合っている。
「す、少し休憩をさせてください」
館の外周を走ってきたロックブーケがボクオーンの目前に座り込む。ゼェゼェと息をしながらその場で頭を垂れる。
「水分補給は構いませんが、休憩はまだです」
「無理ですわ
……
」
「敵はあなたの疲労具合なんて気にしてくれませんよ」
傍にあった水筒をロックブーケに手渡し、ついでにクジンシーにも投げてやる。
「もっと実践的な訓練がいいっ。いざという時は吸収の法で疲労回復できるし、能力アップもすりゃいいじゃん」
「何事にも基本は必要です。また、精神への影響が懸念されるので、吸収する魔物は選ぶ必要があります。無闇矢鱈とする物ではありません」
クジンシーもロックブーケもまるで聞いていないが、大事なことなので告げる。ダンターグを筆頭に七英雄は本当に話を聞いてくれない。年長者がそんな態度なので、若者達も真似をするのだとボクオーンは嘆かわしく思う。
「剣の技術自体はそれなりのレベルにあることはノエルも認めていました。しかし、あなたたちに足りていないのは体力をはじめとする基礎です」
「だからと言って、外周百周はやりすぎではないですの?」
「
……
それはあなたの兄上殿に苦情を」
ボクオーンが考えた練習メニューをワグナスとノエルに確認をしてもらった際に、このくらい出来なければ困ると無茶な数字に書き換えたのはノエルだ。正直なところボクオーンもどうかと思った。しかし、戦闘のスペシャリストの指示なのでボクオーンに異論は唱えられなかった。
「だいたい、こんなのボクオーンだって出来ないだろっ。お前、本を読んでばっかりじゃん」
「出来ますよ」
喧嘩腰のクジンシーに冷ややかな視線を返すと、彼は体を震わせて冷や汗を流した。
ボクオーンとて戦闘訓練はちゃんと受けている。加えて調査の合間に体を鍛えることは怠ってはいないのだ。
「本当に? そもそも、ワグナス様やお兄様ならともかく、ボクオーンには負けないと思うのですけれど」
ボクオーンは大袈裟にため息をついてやった。なるほど。基礎トレーニングに対してだけでなく、教える相手が後衛のボクオーンであることにも不満があったようだ。他の七英雄が化け物揃いなので、それに比べればボクオーンなど大したことがないだろう。前線に立つ者達から後衛や軍師の立場の者が侮られるのはよくあることなので腹は立たないが、説得が面倒だなとは思う。
さてどうするかと考え始めたところで、笑い声が聞こえてきた。振り向くと、愛用の槍を片手にしたスービエが揶揄うような笑みを浮かべて木の反対側から顔を出した。面倒見の良い彼のこと、空いた時間でこちらの様子を見に来てくれたのだろう。
「ははっ、お前らボクオーンを見くびるなよ。こいつは強いぜ」
「スービエっ。暇してんなら相手になってくれよ」
クジンシーからの申し出に首を振って、スービエはボクオーンの肩をとんとんと叩いた。
「相手はこっち。ほら、ボクオーン。お前の実力を分からせてやれよ」
「遠慮します」
力でねじ伏せて言うことを聞かせるのは主義に反する。最終手段だ。
しかし若者達はすでにやる気になっているようで、ボクオーンは渋面になった。
「スービエ、時間があるならあなたが稽古をつけてやりなさい。二人もそれを望んでいるでしょう」
「えー、俺? ボクオーン先生が負けたらな〜」
ニヤリと笑うスービエの顔に腹が立ってくる。彼は面白そうだから場を引っ掻き回しているだけだし、おそらくボクオーンが負けることすら計算に入れている。
「ボクオーン先生ともあろうものが、負けるわけないよな」
安っぽい挑発だ。いつもいつも「楽しそうだから」という理由で生真面目なボクオーンを揶揄う行動に被害を被っている。こめかみに青筋が立ちそうになるのを深呼吸をすることで抑えた。
とはいえ、もう戦う雰囲気になっている。主義に反するが、今回は仕方がないか。ボクオーンは愛用の棍棒を手にして、舌打ちをしながら立ち上がった。
目前に座り込んでいるロックブーケと、少し離れたところに立っているクジンシーのことを観察する。彼らは走り込みのせいで息が上がっていた。この状態の二人であれば、同時に相手にしたところで打撃のみで黙らせることは容易であろう。
それよりも腹が立つのはスービエだ。一泡吹かせてやらねば気が済まない心境であった。
トントンと、右手に持つ棍棒で左の掌を叩くこと数回。
「ところで、二人を同時に相手にするのは良いのですが、私はか弱い後衛なので二つ条件を飲んでもらってもいいでしょうか?」
語りながらボクオーンはクジンシー達から距離を空けるように歩き出す。
「ひとつ目は開始位置を少し離れた場所とさせていただくこと」
ボクオーンは一気に踏み込まれない位置で立ち止まり、二人に体を向ける。
「ふたつ目。接近戦のみではなく何でもあり形式でいいですか? 例えば、術の使用とか、人形召喚とか」
「どんな手段でも大丈夫っ、勝つのは俺たちだっ!」
なんの根拠もない自信たっぷりのクジンシーの発言。それに同意を示すようにロックブーケも頷いて、息を整えながら膝に手をついてゆっくりと立ち上がる。
二人がそれぞれの武器を構えるのを見ながら、ボクオーンは軽い口調でスービエに語りかけた。
「ノエルに怒られるので、スービエは怪我をさせないように注意をしてあげてください」
「おう、いいぜ」
楽しいことになったとご機嫌のスービエも場に引っ張り出すことができた。ボクオーンは満足をするように金色の瞳を細めて唇で弧を描いた。
ボクオーンの両手から魔力を具現化させた濃い紫色の粒子が溢れる。対峙する二人の瞳に術の使用を警戒した色が帯びる。
「さあ、いつでもどうぞ」
ボクオーンの言葉を受けて、クジンシーとロックブーケは顔を見合わせて同時に地面を蹴った。
連携技でも仕掛けてこようとしているのだろか。その割には走る速さもバラバラだし互いのことを見ていない。そもそも疲労が足に来ているように見える。これでは後衛のボクオーンに一撃を入れることも叶わないだろう。
ボクオーンは指先に集めた魔力を解放しながら、その手を優雅に天に向かって掲げた。その手の軌跡をなぞるように鮮やかに色を変えた魔力の紫色は糸のように細く伸びていく。くるりと舞うように回転をすると、魔力の糸は周囲に張り巡らされていった。
「マリオネット」
ボクオーンの声が響いた瞬間、クジンシー達は警戒するような険しい表情をして足を止めた。
静に支配された場に風が吹き、木の葉が擦れる音だけが響く。
クジンシーとロックブーケは互いを見やって、変化がないことを確認すると頷きあった。
その瞬間、ぶぉんと風を切り裂く音が鳴り、
「おわっ」
と、スービエの素っ頓狂な声が響いた。
ロックブーケが背後へと視線を向けた時にはスービエの槍の柄が彼女の横腹に直撃していた。ふいを突いた一撃はロックブーケを吹っ飛ばし、地面をゴロゴロと転がった彼女は伏したまま動かなくなった。
「ほらほら、怪我をさせたらノエルに怒られますよ」
そう。マリオネットを掛けた相手はクジンシーたちではなく、スービエであった。全く警戒していなかった彼は容易に技にかかってくれたようで何よりだ。
「ボクオーン、ずりぃぞっ!」
「なんでもありを受け入れたのは彼らなので」
クククと含むような笑い声がボクオーンの口から漏れていく。彼は緩む口元をローブの裾で隠しながら、空気を切るようにもう片方の腕を水平に薙いだ。
それに呼応するようにスービエが槍をぐるりと一回しして、薙ぐ。「ひぇぇ」と悲鳴をあげながらクジンシーが背後に飛んでその攻撃は回避に成功するが、その後の突きを捌ききれないでいる。
「ほら、実践形式を望んでいたのでしょう? もう少し根性を見せなさい」
「逃げろっ、かわせっ、回避しろーーーっ」
「ひ、ひげぇー」
スービエが叫び、クジンシーが悲鳴を上げる。逃げ足が速いクジンシーはどれだけ粘ることが出来るだろうか。
それを愉快そうに眺めるボクオーンの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
その後、四人はそれぞれワグナスに怒られることとなった。
ワグナスは、クジンシーとロックブーケに対しては練習メニューを途中で投げ出したことと、ボクオーンを軽んじていることについて苦言を呈した。一方で、ボクオーンとスービエに対しては、年長者として模範となるべく行動を取るように言い含められた。
ボクオーンは長い長い説教を右から左へ聞き流しながら、今後あの二人が言うことを聞かない時はマリオネットで問答無用に従わせるのも一つの手だなと考えた。しかしそれでは成長が出来ないので、ワグナスの言葉で心を入れ替えてくれれば良いのなとも思ったのだった。
――
そもそも、彼らのお守り係から外して欲しい気持ちが一番大きいボクオーンであった。
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