夢篠
2025-02-26 21:35:00
2109文字
Public 兄弟星(雑渡双子弟)
 
1199814

兄弟星煌めく、宙に散る

幼い雑渡は沢山無理をしている


ナマエが町に降りる事が増えている。誰にも言わず秘密裏に。それとなく何をしているのか聞くけれど、曖昧にぼやかされてお終いだった。何をしているのだろう。どうして片割れのそんな事も私は知らないのだろう。どうしてたったそれだけの事を聞くのに、私は陣内に協力をお願いしているのだろう。

「ねえ、お願い、陣内」

……それくらい、ナマエの好きにさせてやれば良いだろうに」

「っ、だってさ、もしナマエの目的が誰かに会いに行ってるとかだったらどうするの。……もし、町に、好い人とか、いたら……

陣内は軽く考えているようだけど、私に取ってみれば考えるのだって嫌な可能性に声は自然に小さくなる。視線が勝手に下がって、唇は尖って。なんだか叱られた子供みたいだなあと頭の片隅で考えた。

「そんなにナマエの好い人が気になるのか?」

「ねえ!好い人なんかいないに決まってるだろ!……わ、私は、ナマエがヘマして里の子だってバレたら良くないって言ってるんだって……

自分でも苦しい言い訳だというのは分かっている。陣内の苦笑を睨んだらもっと笑われた。歳上ぶりやがって。舌を出したら声まで上げて笑われて、しかも頭を乱雑に撫でられた。ほんっとうに、この男は私の兄みたいに振る舞う。

「それで?昆奈門はどうしたい?」

低く落ち着いた声。優しい眼差し。この声と眼差しにはどうしてだかどんな我儘も許されるような気になってしまう。父にも母にも同年代にも、誰にも言えない、言ってはいけないと思っている心の内を、言っても許されるのではないかと思ってしまう。だからナマエも陣内といると笑顔が多いのかな。私も、言っても良いのかな。唇が勝手に緩む。

…………ナマエが、町で何やってるのか、知りたい……、」

怒られるかも、と陣内の顔が見れない。でも何も言われなかった。ただ、ふ、と笑う声がして、また頭を乱暴に撫でられた。

「止めろよ。私は組頭の息子だぞ。不敬だろ」

「だとしても今はクソ餓鬼の中のクソ餓鬼だからな」

私の強がりを全部お見通しで明らかに笑っている声。陣内って本当、良い性格してると思う。それでも、嫌な気持ちはしない。なんだか、顔が凄く熱い気がする。今顔を上げたら、揶揄われる、かな。恐る恐る顔を上げたけれど、陣内は優しく目を細めて笑ってくれた。

ナマエが町に行っている理由。まずは陣内が聞いてくれる事になった。聞く時は、私の名前を出して良いと言った。そうしたら何日かして結果を教えてくれた。どうやらナマエは陣内にも明確な答えを教えなかったらしい。

……やっぱり、好い人、なのかな」

「まあ、まだそうと決まった訳じゃないだろう。ただ……、昆奈門はナマエに好い人がいたら嫌なのか?」

……え?」

陣内の質問に答えるのはとても簡単だと思った。ナマエに好い人がもしいたら、そんな事考えただけで怖くなる。だってナマエが見るのは片割れの私だけで良い筈じゃないか。生まれた時から一緒の私がいるのに、ナマエがそれ以外に気を逸らす必要がどこにあるのか。それを陣内に言う。当然だと思ったからだ。でも。

…………なるほど、」

陣内は少し思う所があるようで眉を寄せた。何だかそれが妙に怖かった。陣内にこの答えを間違いだと言われたら、私はどうしたら良いのだろう。

……わ、私の、これは、間違っている?」

つい、訊いてしまった。間違っていると言われたってどうしようも無いのに。断罪されたとして、どうしたら良いか分からないのに。陣内が口を開く音がした。俯いて目を強く瞑る。折檻の前みたいに。

「間違っている、かどうかはともかくとして、昆奈門は昆奈門で良いんだぞ、と思っている」

……どう、いう事?」

「昆奈門はナマエじゃないし、ナマエは昆奈門じゃないって事だ」

言われている事がよく分からない。私には難し過ぎる。私一人で大人の期待に応える事も、ナマエの心を取り戻す事も、陣内の言いたい事を理解するのも。全部全部、私一人じゃ出来ないんだよ。気持ちが昂る。生まれた時からそう決まっている事を、今更違うと言われたって私にはどうしたら良いのか分からない。それしか生きる方法を知らないからだ。

……、分からない。陣内が何言ってるのか、何を言いたいのか分からない。何でだよ。なんで……っ、俺とナマエは、生まれた時から二つで一つだろ!!」

陣内に当たったって仕方無いのに。分かっているのに。でも止められない。哀しそうな顔の陣内が私に手を伸ばす。殴られるのかと思った。でも、頬を撫でられて初めて、自分が泣いている事に気付いた。もどかしかった。ナマエと私が一つじゃないから、私たちは分かち合えない。でも二つなのに分かり合う事も出来ない。

苦しくて哀しくて、私は何も言えなかった。言いたい事はとても沢山あった筈なのに。