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夢篠
2025-02-24 15:07:27
2183文字
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兄弟星(雑渡双子弟)
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兄弟星捜せ、宙渡る
雑渡の双子弟について里の若人は知らない
1
2
⚫︎
山本小頭が帰還された。先に帰って来ていた者たちに聞くと、どうやら忍務にしくじりがあったようだった。一番強い小頭がその場に残って殿を引き受けた。帰って来られたのだから敵は撒いて来たのだろうに小頭の顔は暗い。先に帰った者が口々にその身体を労わるのに、小頭は焦ったように組頭の許に目通りを願った。いつも冷静な小頭には珍しいと思った。
報告には組頭と小頭と、それから何故か押都小頭が呼ばれた。いつもと違う雰囲気に何故か私の方が背筋を震わせた。高坂さんの表情を窺ったら、彼も怪訝な顔をしていた。厳重な人払いがなされたが、私と高坂さんはすぐ近くに控えているように言われた。
暫くはとても静かに報告が行われていた。声も気配も溢れなかった。私たちが控える意味はあったのだろうか、と少し疑問に思い始めた頃だ。恐ろしいくらいに鋭い殺気と共に何かを殴打したような音が聞こえた。高坂さんと顔を見合わせて慌てて入室の許可を得る。押都小頭の押し殺したような入室を許可する声が聞こえて、恐る恐る組頭の部屋に入室した。目の前の光景に呆気に取られるばかりだった。
組頭が不倶戴天の宿敵を見るような目で山本小頭を睨み付けていた。私たちには当てた事も無い、鋭い殺気が垂れ流されていて気分が悪くなる。山本小頭は左の頬を押さえて平伏していた。口端に血が滲んでいる。組頭に殴られたのか、と気付いてどうしたら良いのか、何を言えば良いのか分からなかった。
「
……
それで、」
組頭の地を這うような冷たい声に私は顔を上げられなくなってしまう。高坂さんもきっと同じだ。私に対して向けられている訳ではない声に私はぶるぶると無様に怯えていた。
「それでお前はその男が
ナマエ
だって言うのをまんまと信じて、証拠も無いのにその慈悲に縋って尻尾を巻いて退散した訳だ」
ひゅ、と山本小頭が息を呑んだのが聞こえた。
ナマエ
、という名前を私は聞いた事が無かったので少し引っ掛かった。高坂さんは心当たりが有ったのか肩をぴくりと震わせた。
「畏れながら、あの男は
……
、
ナマエ
で間違いない、かと」
山本小頭の震える声に驚愕する。あの山本小頭がまさか、と。いつもと違う事態が酷く恐ろしかった。
結局私たちは直ぐに下がらされてそれからは組頭の部屋は厳重な人払いがなされた。誰も近寄れない部屋からはまた、音も気配もしなかった。その方が恐ろしいと思った。
「
ナマエ
って、誰の事でしょうね。高坂さんはご存知なんですか?」
何の気無しに話を振った積もりだった。唯の世間話の延長線上。少なくとも私はそのつもりだった。それなのに高坂さんは殺気立った目で私を見た。
「その話は、二度とするな。誰にも、一言も。これからもこの里で生きていきたいのなら。それがお前の為だ」
高坂さんもいつもと違う。
ナマエ
とは、誰なのだろう。
◼︎
ナマエ
様を、私はこの目で見た事は無かった。組頭の双子の弟御で、今は行方知れずの片割れ。その生死すら誰も知らないその存在を、組頭は御自ら私に開示された。
「
ナマエ
はとても優秀で、生きていればもしかすると今ここにいるのは彼奴だったかも知れないね」
どのような流れで
ナマエ
様の話になったのかはもう忘れてしまった。ただ、組頭があまりにも寂しげな顔をされたのだけは覚えている。だって組頭が言ったのだ。
そういえば、お前には
ナマエ
の面影があるね。
頬に触れた指先は乾燥していて硬かった。その目の中を覗いて、その心を垣間見て、私が何のためにこの人に選ばれたのか、分かった気がした。
組頭は私と二人きりになる度に
ナマエ
様の事を教えてくださった。幼い頃からその見目はとても良く似ていて、実の親ですら見分けられなかったと。戯れに入れ替わっては大人を揶揄って、ずっと二人で生きていくのだと思っていたと。
「私たちが先代の子でなければ。
……
否、せめて双子でなければ違ったのだろうね」
夜更けに組頭に誘われて空を見上げた事もある。それもきっと、
ナマエ
様がやっていた事なのだろう。私には良く分からない星々を指差して、組頭はその一つひとつに名前を与えた。あれは、これはと名を与えられる星を最初は覚えようとしたけれど、途中から其れはあまり意味の無い事なのだと気付いた。組頭が今、共に時を過ごしているのは、彼が握った手の持ち主は、私ではないのだから。
どのような人なのだろう。何度も何度も話を聞かされる度、
ナマエ
様について知りたくなって、少しでもその存在に己を寄せたくて、それとなく嗅ぎ回った。でもそれは直ぐに組頭の知る所となって私は酷く叱られた。
「
…………
陣左、お前は何か勘違いをしているみたいだね」
凍えるような冷えた目で私を見る組頭に心臓が握り潰されるように痛む。折れるのではないかと思うくらいに強く握り締められた手首に、組頭の表情に不安に思う気持ちが顔に出たのだろうか。組頭は苦い顔をしてそして私を解放した。
もう、此処には来なくて良いよ。
そう言われた。それから、組頭には呼ばれていない。
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