かいえ
2025-02-24 14:17:56
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【灰武】派遣先のものすごく怖いのに格好良くて綺麗な兄弟に迫られて困っています! ②

ハウスキーパー見習いの武道が、派遣先の灰谷兄弟に迫られる話
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 花垣武道は竜胆の周囲にはいないタイプだった。
 竜胆が初めて武道に会ったのは、外出から戻りシャワーでも浴びようと入ったバスルームだ。武道はドレッサーの前にしゃがんだ姿勢で、兄である蘭の長い髪を指でつまんで、子供のように眺めているところだった。
 武道の指先から独特のカラーリングの髪の毛がきらりと光る。
 刹那、なんだコイツ? と、武道を不法侵入者と勘違いして殺意が湧いた。カッと頭に血が上るのが自分でも分かった。
 蘭にとって竜胆が特別なように、竜胆にとっても蘭は特別だった。否、特別とか家族という言葉では言い表せられないくらいの繋がりは、一つの魂を二人で半分にしているくらいの親密さで。
 だから「おまえ誰?」と、口に出していた時、蘭の毛髪を知らない人間が手で掴んでいて、あまつさえポケットに入れて持ち帰ろうとしている事実だけで、耐えがたい憤怒の念が噴出していた。
 目の前の相手を八つ裂きにしてやりたいと荒ぶった竜胆が落ち着くことが出来たのは「すげぇ綺麗だなと思って」という武道の嘘偽りのない言葉を聞いてからだ。
 額をバスルームの床に擦り付けるように土下座している武道が、良く見ればエプロンをしていて、両手はゴム手袋を着用しているのが目に入った。不法侵入者では無くてハウスキーパーだと認識を改めれば、目の前にいる武道は、中学生くらいの貧弱な体形をした哀れな子羊のように目に映った。金髪に染めた髪はくせ毛で、怯えているのかふるふると揺れていた。
 兄の蘭は、弟の目から見ても芸術品のように美しく、蘭を見た者は大抵目を離す事が出来なくなる。そんな場面を竜胆は物心ついてから何度も目撃していた。だから髪の毛一本だとしても、一般人が虜にされても仕方がないかと竜胆は思い直していた。
 そうなると、俄然目の前の人物に興味が湧いた。振り向きざま土下座をして震えている。江戸時代かよと、竜胆は愉快な気持ちになりつつあった。だが、どんなに声を掛けても頑なに顔を上げない事に段々腹が立ってきて、竜胆は武道の前髪を掴んで引っ張り上げた。それでも、必死で竜胆の姿を見ないようにしている姿は笑えるくらい滑稽で、メデューサにでもなった気分になってムカついていたのだ。最終的に、それは他人が自宅にいる事を嫌う蘭のせいだという事が分かり、竜胆は武道の目を開けさせることが出来たのだけれど。
 竜胆の目の前で、想像より大きな瞳が、花が咲くように開き、その晴れ渡った日の空のように美しい青色の瞳に見惚れた。
 男なのに、めちゃくちゃ自分好みの顔をしている事に竜胆は一瞬たじろぐ。でも、次の瞬間には武道を下僕にする事に決めていた。
 竜胆は育った環境がおかしすぎて、普通の恋愛手順を知らなかったのだ。ひとまず自分のものにしなくてはという本能で、武道を自分で支配しようと配下に置いた。
 それからというもの、竜胆は仕事に来る武道を自宅玄関で待ち伏せした。そして、武道が掃除をする姿を見る為ついて回った。小さな体がちょこまかと動き回る姿が小型犬みたいで可愛かった。
 その姿を見ていて、昔犬が飼いたいと言ったら、蘭に駄目だと言われた事を思い出した。蘭は竜胆の言う事は大体何でも叶えてくれたのに、犬の毛が室内を舞うから嫌だと却下したのだ。
 だから、犬を飼ったらこんな感じで動き回るのだろうかと眺めてしまった。不思議な事に武道のする事なら何時間見ていても飽きないのだ。それに一生懸命働いている武道はいじらしく可愛い。
 可愛いが過ぎて少しいじめたくなって、武道が指紋一つなく綺麗に磨いたガラスにべったりと指紋をつけると、武道は「ダメっスよ!」と、泣きそうな顔をして竜胆を止めに走ってくるのだ。そんな顔もゾクゾクする程可愛かった。しかも「ごめん」と一言いえば、武道はあっという間に竜胆を許してくれるのだ。気難しくて怒ると手に負えない兄の蘭に比べて、武道はチョロ過ぎて笑えてきた。
 それから、服のセンスが壊滅的なところも可愛かった。どこで買っているのか逆に興味が湧いてしまうくらいダサい。そのうちちゃんとした服を買ってやろうと竜胆は思っていた。武道と一緒にショッピングに行くなんて、きっとものすごく楽しいに違いなかった。
 もっと一緒に居たくて、仕事終わりの武道を強引に遊びに誘った。多分、会社のルールを逸脱した行為なので、武道は渋々という感じの了承しかしてくれなかった。多分、負い目が無ければ承諾しなかった筈だ。それでも、一緒にゲームをするうちに友情のような連帯感みたいな絆は構築されたようで、武道は徐々に竜胆に慣れていった。
 竜胆の横で無邪気に笑う武道をもっと見ていたいと、ますます離れがたくなり、何とかぎりぎりまで一緒に過ごせるように竜胆は画策した。
 武道と二人でゲームに興じ、ご飯を食べて過ごす時間は想像以上に楽しかった。こんな日々がずっと続くのだと、竜胆は勝手に思い込んでいた。
 そんな竜胆に冷や水を浴びせたのは蘭の言動だった。蘭は自分たちのプライベートスペースに入り込んだ武道を敵とみなしたのだ。
 武道はハウスキーパーだったから、他人とまではいかない感覚だったし、竜胆が気に入っていれば蘭も気にいる筈だと高を括っていた竜胆は青ざめた。
 竜胆の目か見ても、蘭が恐ろしく怒っているのがありありと伝わってきていたからだ。それなのに怒鳴らないでいてくれるのは、竜胆が関わっているからだという事も瞬時に理解した。
 蘭には自分が説明すれば、なんとかなると思っていたのに、現実は「うちでやるな。そいつは帰しとけ」という冷たい一言を浴びただけだった。
 蘭は武道を受け入れなかったのだ。
 それは、もう家で武道と遊べないという事に他ならない。しかも、蘭は武道をクビにする恐れもあった。何故なら、蘭と鉢合わせした奴は今までもれなく全員クビになっているという前例があるのだ。それは武道も感じているようで、そっと武道の様子を伺うと可哀想なくらい蒼ざめて震えていた。
 竜胆は生まれて初めて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。今まで蘭が誰をクビにしようが何も思わなかったし、誰が部屋を掃除に来ても、竜胆には全く関わり合いのない事だと考えていた。
 でも、今は違った。
 武道と会えなくなるのは耐えがたいと感じ、自分のせいで武道がクビになるなんて、あってはならない事だと思っていた。
 武道を返した後、竜胆は蘭に謝り武道をクビにしないように懇願した。蘭は面白く無さそうではあったが、渋々今回だけだぞと許してくれたので、竜胆はようやくホッとする事が出来た。
 自室に戻って、次回から武道と過ごすにはどうしたら良いだろうかと思案した。このマンションが使えないとなれば、別の場所で過ごすしかない。
 不動産も金も蘭が管理しているので、竜胆が自由に使えるものには限りがあった。今迄何でも兄を通していたが、不自由だと考えた事が無かったのだ。兄に相談さえすれば、大抵の事は何でも適ったからだ。
 女でさえ、蘭は竜胆に当てがった。自分に群がった女に、竜胆の相手をするように命令することもあれば、竜胆が良いなと思った女を抱けるように勝手に段取りしてくれたりした。
 抱く相手は、いつでも二人でシェアしてきた。蘭が抱いた女は竜胆も抱いて良いし、竜胆が抱いた女は蘭も抱いて良かった。
 だから、今回の件は初めてのケースになる。竜胆が気に入って、自らの意思で武道を自分の支配下に置いたのだ。しかも、蘭は武道を気に入らなかった。
 つまり、生まれて初めて蘭とシェアしないという事になる。
 この事に気が付いた時、竜胆は嬉しさの余り胸が高鳴り、ぞくぞくとしてしまった。武道は竜胆だけのものであり、この先ずっと独り占めして良いという事なのだ。それは竜胆にとって限りなく甘美な想像だった。
 翌日、竜胆はいくつかあるアジトの内の一つを訪れていた。手下に好きなように使わせている汚いマンションの一室だ。竜胆が挨拶も無しにズカズカ入っていくと、中にいた数人の男たちが驚いて立ち上がり「お疲れ様です!」と、竜胆に向かって一斉に頭を下げた。全員竜胆より年上だが、六本木一帯を締めている灰谷兄弟の弟という立場は、相手が年上であっても効力を発揮する。
「今日はどうされたんですか?」
 二十歳をとうに過ぎたリーダーの男が、へつらうように竜胆に話しかけてきたので「ここさ、今日から使わないようにして」と言い渡し、別のアジトの鍵を渡してやった。
リーダーの男も、その場にいた他の男たちもびっくりした表情を浮かべたが、灰谷兄弟に反論する恐ろしさを知っているので、理由も聞かず「分かりました」とだけ答えた。
「じゃあ、出てって」と竜胆が言うと、男たちがぞろぞろ出て行った。
 金属の扉が閉まり、誰もいなくなった部屋の中を竜胆は改めて見回した。全く掃除されていない部屋は、恐ろしく汚れている。煙草も吸われていたようでヤニ臭いし、古いアルコールの嫌な匂いも鼻につく。こんなに汚いからこそ、このアジトに蘭が足を踏み入れた事が無いのだ。これからも来る可能性は、限りなく低い筈だと竜胆は思った。だから、この場所で武道と遊べば、蘭の目に触れずに済むと竜胆は考えたのだ。
 とは言え、竜胆にとっても、この部屋は汚な過ぎた。とりあえず、リビング辺りとトイレの掃除を業者に電話で依頼し、ゲームが出来るように、液晶とゲーム機を買い揃える事にした。
 次に武道が自宅の掃除に訪れる日、竜胆は仕事が終わりそうな時間を見計らって武道を迎えに行った。嫌だと言っても帰さないつもりだったが、武道は別の場所ならと了承してくれた。
 竜胆を上機嫌にさせたのは、武道が竜胆と顔を合わせても嫌な顔をしなかったどころか、ホッとするような、嬉しそうな表情を浮かべたからだ。
 あきらかに竜胆を待っていたと分かる武道の態度は、竜胆の気分をどこまでも舞い上がらせた。
 自宅からアジトまでは、歩きでは遠い位置にあったので、竜胆は自分のバイクの後部座席に武道を乗せて連れて行くことにした。
 そこでも、武道が初めてバイクに乗ると聞いて、気持ちが昂るのを感じた。武道がしたことが無い事を竜胆が体験させることができるのだと思うだけで、身体が熱くなり笑いたくなるくらい気分が良くなるのだ。
 自分の腰回りに腕を回させた時など、武道と身体が密着して思わずニヤついてしまった。安全運転に徹したつもりだったが、それでも初めてのバイクは怖かったみたいで、振り落とされないようにぎゅっとしがみついてくる武道は、本当に可愛かった。
 目的地に着いても、緊張でかちかちになった武道は竜胆から離れようとせず、もうずっとこのままでも幸せかもと竜胆は思ってしまった。
 自分で降りる事もせず放心状態の武道を持ち上げた時、竜胆にされるがままとなっている武道にドキドキが増した。何? この可愛らしさ? と、震えが来るほど可愛くて、そのまま抱き締めてしまいたかった。
 地面に武道を下ろした時には、武道の全てを自分のものにしたいと思っていた。
 いつもなら即実行に移す竜胆だったが、今度ばかりは勝手が違った。武道の何もかもを奪ってしまいたいという衝動と、優しくして武道の笑顔を見ていたいという気持ちが竜胆の心の中で鬩ぎ合っていたのだ。今のところ、優しくしたいという気持ちが優先されていたので、表面上は何も変わらず穏やかに過ごしていた。
 発売日されたばかりのゲームを二人で初めて、深夜になっても止まらなくなった。いつもならお開きにする時間を過ぎて、明け方まで続けてしまっていた。いつものように送ってくと声を掛けようとして止めた。武道がうとうと舟を漕いでいたからだ。それを見て竜胆は帰したくないと思ってしまった。
 竜胆が息をひそめて見守る中、武道はそのまま床の上で寝てしまった。無防備に四肢を伸ばして寝入っている。そっと部屋の電気を消した竜胆は武道の横ににじり寄り、武道の頭を持ち上げ腕枕してやる事にした。
 武道は眠りが深いタイプのようで、頭を動かしても全く目を覚まさない。そんな事は、今まで抱いたどの女にもしてやった事は無かった。小さい頭が自分の二の腕に乗っている重みと柔らかいくせ毛の感触に、竜胆はぞくぞくしていた。しかも、至近距離に武道の顔があり、竜胆の心臓はバクバクした。
 堪らなくなって、肩腕でぎゅっと抱きしめると、武道の身体は子供のように体温が高かった。腕の中にすっぽり入るサイズ感が、より一層リアルに竜胆に襲い掛かって来る。
 武道の鼻も唇もすぐそばにあった。武道をじっと伺うと、寝息をかいてぐっすり眠っている。男にしては細い首筋が竜胆を誘う。駄目だと思ったが、気が付けば耳の後ろに口づけていた。
 唇の表面に触れた肌は柔らかく、甘くて優しい匂いがした。嗅ぐだけで竜胆のそこはしっかり反応していて、どくどくと昂ってきているのが分かる。
 このまま何もかも奪いたいという気持ちはあったが、武道は男だった。
 今までとは勝手が違い過ぎて、何をどうしたいかは竜胆も理解していなかった。ただ、武道の時間を占有して自分の傍に置き、本能で支配したいと思っていただけだ。
 今まで武道に対して抱いた感情のあれこれが、まさか性的に抱きたいという行動に直結しているなんてと、竜胆は少なからず動揺していた。
 首筋から頬を撫でるように唇を移動させる。あと数センチ先には、薄桃色のふっくりとした唇があった。少しだけ口を開けた状態で、前歯と濃いピンク色の舌が少しだけ覗いていた。
 視覚的にもうダメだった。
 衝動的に竜胆は唇を武道の唇に押しつけていた。弾力のある柔らかい唇が竜胆の唇を軽く押し返してくる感覚に身を委ねる。今までに感じた事のない、何とも言えない幸福感に満たされて、キスなんて何度もしているのに、まるで初めてするみたいにドキドキした。
 開いた唇に合わせて、竜胆の唇も少し開いている。その隙間から舌を差し入れたくなる衝動を竜胆はぐっと抑え込んだ。
 竜胆に尋ねられて、童貞だと恥ずかしそうに白状した武道は、多分キスもした事がなさそうだった。だから、これが武道のファーストキスに違いなくて。その事実に興奮している自分が変だと思った。
 このまま、欲望の赴くまま深いキスをしたかったけれど、武道が寝ている時にするのはつまらないと思った。ちゃんと意識のある時に、初めてのキスを自分としているのだと武道に意識させたかった。
 だから、勝手だけれど、この触れるだけのキスはカウントせず、竜胆だけの秘密にするのだ。そう思いながら唇を離した傍から名残惜しくて、もう一度と再び唇を押しつけてしまっていた。気が付けば、朝陽が窓から差し込んでくる時間まで、ずっと触れるだけのキスをしていた。