やごろく
2025-02-23 00:06:18
5144文字
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色男の憂鬱

さぷいとせじゃがそんやをベロベロに酔わせて色々聞き出すss

※ベロベロに酔ったロがサとセに淋しさをぶちまけるssの続き(https://privatter.me/page/67a89b4b91123)
※信洛
※劇後独自設定含む
※かっこいいそんやは不在です

◇◇◇

 今夜は止めてくれるなよ。俺は今、浴びる程飲みたい気分なんだ。何、お前の限界はまだ先?珍しいな四仔、お前が俺を止めないなんて、どういう風の吹き回しだ?おい、十二までどうした?今夜は最後まで付き合うって……いつもなら真っ先に帰るくせに!さては、お前ら……俺のことを心配してくれてるのか?全く、持つべきものは友だな───友達、か。

 ……実は最近、悩んでるこ───悩んでる知り合いがいてな?その知り合いが眠れない夜を過ごしてると思うと心配で心配で、俺まで不眠症になっちまって困ってる。断っておくが、決して俺の話じゃないからな。俺の知り合いの知り合いの話だ。いいな?
 俺の知り合いには、大事にしてる……友達がいるんだ。そいつとは幼馴染ってわけでもないし、特別長く一緒にいるわけでもない。初めて会った時は、兄貴のシマに流れ着いたただの余所者だった。兄貴がそいつをシマに受け入れたから、そいつの面倒を見始めたんだ。
 面倒を見るって言っても、そう手のかかる奴じゃなかった。屋根と服と仕事だけ与えたら、あとは自分で転がり出した。働きぶりも悪くない。真面目で誠実な奴ってことで紹介先からの評判も良くて、俺も鼻が高───いって知り合いが言ってたな。知り合いがな。

 でもな、そいつを見てるうちに気付いたんだ。金は貯めるばかりで碌な飯を食わない。服も同じものばかり着てる。ほんの少し関わっただけの奴にも情け深い割に、自分のことには無頓着。身体のどこかが痛んでても、誰かに聞かれなきゃ答えないし、医者にも診せない。……時々いるんだよな、自分の世話が苦手な奴。しないんじゃなくて、できないタイプなんだ。そういう奴は大抵、早く医者にかかってりゃどうってことなかったはずの怪我や病気であっさりくたばっちまう。
 で、は思ったんだ。洛軍は情に厚くて腕っぷしも強い。何より、キツい生き方を経験してるのに目が澄んだままだ。近い将来必ず龍兄貴を支える男になるのに、簡単にくたばられちまうのは惜しい。よくよく観察して、気に掛けといてやろう、ってな。……何?だから、俺の話じゃないって言ってるだろ!知り合いの話だ。十二、俺は真面目な話をしてるのに、腹抱えて笑うとは何事だ?まだお前に馬鹿にされるほど酔っ払っちゃいない。呂律だって回ってるだろうが。

 まぁとにかく、最初のうちはそんな考えだった。怪我してりゃ四仔のところに引きずって行ったし、飯抜いてたらお前らも巻き込んで飯に誘って食わせたし、……目のゴミ?あぁ、そうだな。城砦は埃っぽいから、洛軍はよく目に埃が入って痛がってた。アイツ、目にゴミが入ってもゴシゴシ擦るだけなんだ。目に傷がつくし、第一にみっともないからやめろって言って、俺が取ってやってた。城砦のチビ共と同じ要領だ。椅子に座らせて頭を固定して、パパッとな。
 ……お前ら知ってるか?洛軍の奴、最初の頃は頭を触るとビクッとしてたんだ。落ち着かない表情になってた。多分、頭を触れらることに良い思い出がなかったんだろうな。でも、何回も繰り返すうちにそれも無くなった。それどころか、アイツは目にゴミが入ると俺に報告してくるようになったんだ。離れた所にいても、目を押さえながらわざわざ俺の所まで来るんだぞ。鏡を探して自分で取った方が手っ取り早いのに、俺を探すようになった。自分から椅子に座って、「目にゴミが入った」って言うんだ。
 ……わかってる。お前らの言いたいことなんざ、俺もわかっちゃいるんだよ。いい歳した大人を何ガキ扱いしてんだって。アイツ、多分俺より二、三歳は上だよな?大体、洛軍だって城砦に来るまでは何だって一人でやってたんだ。俺がいつまでも世話を焼いてやる必要なんか無い。……俺が、世話をしたかったんだ。アイツが素直に俺に甘えて、俺を探してると思うと───良い気持ちだった。初めて会った頃は野良猫みたいに俺を警戒してたアイツが、今は何の躊躇いもなく俺に頭を触らせてると思うと、何とも言えない優越感があるというか。満たされた気持ちになるというか。洛軍の濡れた目が俺だけを見てるあの瞬間……お前ら、その「石をひっくり返したら思ったより沢山虫がいた」みたいな顔をやめろ。わざわざひっくり返したお前らが悪いんだからな?おい、聞いてんのか?

 ここまで来たら、最後まできっちり聞いてもらうからな。龍兄貴が……死んで、俺らが城砦を取り戻して少し経った頃、洛軍は理髪師の学校に通い始めただろ?アイツが龍兄貴のカミソリが錆びていくのを見たくないって言った時、俺は衝撃を受けたよ。
 俺は……城砦に戻って秋兄貴を助け出してからしばらくは、理髪店に近寄ることもできなかった。あそこは……思い出が多すぎたんだ。あの頃は崩れかけてた城砦の秩序を元通りにするのに必死だったし、身体だって本調子じゃなかった。理髪店に行ったら最後、もう立てなくなる気がしてた。
 でもな、いつだったかな。ほんの少し肌寒い夜だった気がする。洛軍が俺の腕を掴んで、理髪店に引きずって行ったんだ。あぁ、あの時はお前らもいて、四人で麻雀をしてたな。俺が……そうだ、「もうあそこへ行く勇気は無い」って、俺がヘラヘラ言ったからだ。洛軍は勢いよく立ち上がって、怒った顔で俺を引きずって行った。あの時取り残されてたお前らの顔、ものすごく間抜けだったぞ。今でも覚えてる。
 勿論抵抗したさ。ガキみたいに滅茶苦茶に暴れたけど、アイツはびくともしなかった。あっという間に理髪店に着いて、俺は投げ飛ばされるみたいに椅子に座らされた。龍兄貴に散髪してもらう時にいつも座ってた席だったから、俺はうっかり涙が出そうになったよ。で、洛軍が言ったんだ。「俺は今でも、二度と帰れない場所を夢に見る。二度と戻れなくなるなんて、その時が来るまで夢にも思わなかった場所だ。俺はまだガキで、弱くて、別れを惜しむ暇もなかった。でも、お前は違う。知ってるだろ。ここは近いうちに取り壊される。だから、まだある内に来て目に焼き付けろ」って。俺の両腕をがっちり掴んで、座ってる俺に目線を合わせて、弟に言い聞かせるみたいな口調でさ。
 その時だったな、実は城砦を出た後は理髪店を開きたいと思ってて、そのために理髪師の学校に通い始めたって、初めて俺に打ち明けてくれたのは。「龍兄貴のカミソリがただ錆びていくのを見てるだけなんて、俺は絶対に嫌だ。信一さえ良ければ、俺に手入れをさせてくれないか」って。アイツの真剣な顔を見て、俺は自分が恥ずかしくなった。洛軍をガキ扱いして世話を焼いてたくせに、俺の方がよっぽどガキだって。アイツだって辛くないはずがないのに、それでも自分なりに決着をつけて、前を見て歩き始めてた。洛軍が経験してきた出会いと別れは、きっと俺よりもずっと多い。俺が自分みたいに後悔しないように、思い出を整理して前に進めるように、手を引いてくれたんだ。なんて良い男なんだ、アイツは!……おお、さすが気が利くな十二。丁度空にしたところだった。

 俺はあの時、心に決めたんだ。洛軍の隣に居ようって。本当の意味で、アイツを支えられる俺でありたいと思った。だから、半年前に城砦を出た時、アイツと相談して理髪店の居抜き店舗を買ったんだ。洛軍が店長で俺がオーナー、この半年は苦労の連続だった。王九の元手下が報復目的で押し入ってきたり、そのせいで店に変な噂が立ったりな。でもその苦労も、二人で乗り越えてきた。
 ……何だよ、前置きが長いって。折角気持ち良く話してたってのに───だあ、もう!分かった、正直に言うから。そうだよ、俺は洛軍のことが……ダメだ、恥ずかしすぎる。勘弁してくれ。俺は……こんなの初めてなんだぞ!アイツが無邪気に手を差し出したり、眩しいものを見るみたいな目で笑って腕を広げるたびに、心臓が変な調子で跳ねやがる。昔は何も考えずにできてたことに急に意味が生まれて、前と同じって訳にはいかなくなった。洛軍に触れると、盗みに入ろうとした家で家主に歓迎されちまった泥棒みたいな気持ちになるんだ。
 洛軍は俺のことを友達だと思ってる。俺を見る目に下心の欠片もないのに、俺が友達みたいな面してアイツに触るのは……フェアじゃないだろ。───いや、今のはナシにしてくれ。嘘をついた。今まで散々遊んできた俺が言う台詞じゃなかったな。フェアだとかフェアじゃないだとか、そういう話じゃない。アイツが眩しくて見つめてられないとか、俺の気持ちがバレて関係性が変わるのにビビってるとか、もっと情けない理由だ。……お前ら、その生温かい目で俺を見るのをやめろ。だから、俺が一番分かってるんだよ!三十過ぎの男がティーンみたいに悩んで情けないって、俺が一番思ってる。何?今まで散々遊び回って、まともな恋愛をしてこなかったツケ?おい四仔、頼むから今晩くらいは俺に優しくしてくれよ。近頃、今までご縁のあったお嬢さん方もみんな俺に冷たいんだ。「信一、アンタってそんな顔もできたのね」って。相談しても冷たくあしらわれるだけで……そうだな、ツケが回ってきたってのが正しいんだろうな。ツラの良さにかまけて女に甘えてたツケを、今になって払わされてるんだ。
 怖いんだ。洛軍の真っ直ぐな目に全部見透かされるような気がして。触れたところから俺の熱が全部伝わっちまうんじゃないかって。しかもな、俺がビビって握手だとかハグだとかを誤魔化して流すと、アイツはすごく悲しそうな顔をするんだ。「淋しい」「何でだ?」って、顔で訴えかけてくる。
 ついこの前、久々に洛軍に「目にゴミが入った」って言われた時もそうだった。俺はあの日、店のバーバーチェアで雑誌を読んでた。天井をハタキで掃除してたから、それで目に埃が入ったんだろうな。目を押さえたアイツにそう請われた時、俺は頭の中で椅子に座るアイツの頬を手で包んで、顔を覗き込んで、その後───もうやめてくれ。これまで生きてきた中で、今の俺が一番かっこ悪い気がする。結局俺が絞り出せたのは、「そうか」の一言だけだった。しかも、気まずさに耐えかねてそのまま店を出ちまったんだ。最悪だよな。店を出る前にちらっと見えた洛軍の顔、雨に濡れた子犬みたいだった。せっかく洛軍が頼ってくれたのにあんな顔をさせるなんて、俺は最低な男だ。

 なぁ、俺はどうしたらいいと思う?洛軍は俺のことを好いてくれてるし、俺も洛軍が……好きだ。でも、同じ言葉でも俺とアイツじゃ意味が違う。今の関係性が変わっちまうのが怖いのに、ずっと今のままだと思うと気が狂いそうになるんだ。きっとそう遠くない未来、洛軍は気立が良いとびきり美人の女と結婚して子どもだって生まれて、俺は笑顔でその子を抱っこしてやらないといけないんだぞ。一番の親友として、心から喜んでやらないといけないんだ。……ダメだ、涙が出てきた。とにかく、今日は吐くまで飲ませてもらうからな!お前ら、覚悟しておけよ。




「今夜のこいつは正に龍捲風たつまきだったな」
「そんな使い方したら龍兄貴が草葉の陰で泣くぞ」
 べろべろに酔った信一は号泣しながら弱音を吐いたかと思えば、急にご機嫌に踊り出して椅子を蹴り倒し、酔っ払いにしては鋭すぎる動きで四仔と十二に絡み倒した。結果、信一が酒瓶を抱き締めて眠りこける頃には、四仔の診療所の休憩室はまるで竜巻が通り過ぎた後のような酷い有様になっていた。
……俺、結構軽い気持ちで『信一を酔わせて全部吐かせる』って言ったんだけどさ」
 信一の寝姿勢を横向きに変えながら十二が言った。
「ここまで赤裸々に吐くとは思ってなかった」
 無言で休憩室を片付けていた四仔が、ぐっすり眠る信一をチラリと一瞥し、大きなため息をついた。
「まだ気持ちが固まっていないのかと思ってたんだが、あれだけ細かく言葉にできるとはな。……俺に、一つ案がある」
「え、何々、教えてくれよ」
 興味津々といった表情を浮かべる十二を見て、四仔はニヤリと笑った。
「明日を楽しみにしてろ」

◇◇◇

 翌日の朝、四仔の診療所から慌てて飛び出す信一と───それを必死に追いかける洛軍の姿が廟街中の住人に目撃された。
「信一、待ってくれ!」
「いや、ちょっと今は、受け止め切れねぇ!」
 真剣な顔の洛軍と顔を真っ赤にした信一の本気の鬼ごっこは昼を過ぎても延々と続き、辺りが暗くなる頃にようやく決着した。



「おい!四仔、お前一体洛軍に何したんだ?」
「簡単なことだ。朝迎えに来た時に、

信一が結婚したら、こんな面倒は負わなくて済むな

そう言った。それだけだ」