やごろく
2025-02-09 21:10:51
2303文字
Public
 

友達の距離

ベロベロに酔ったロがサとセに淋しさをぶちまけるss
※信洛
※劇後独自設定含む

◇◇◇


 俺はアイツと───信一と、ずっと友達でいたい!何、飲み過ぎ?こんなにお喋りな俺は見たことがない?まぁ聞け、たまにはいいだろ?俺だって、何もかもぶちまけたい気分になる時がある。
 ……信一がな、最近少し変わったんだ。説明しようとすると難しいから、実際にあったことをお前らに語って聞かせる。聞いてくれるよな?……十二、人の話を聞く時は目を開けろ。四仔も手遊びせずに真面目に聞け。いいな?

 俺らがまだ城砦で暮らしてた頃に遡るぞ。あそこは埃っぽかったろう?だから、俺はよく目を擦ってた。擦ってたら涙と一緒にいつか出てくるからな。そこを信一に見られたんだ。信一は「擦るなんてみっともない、見せてみろ」って言って、俺の目を診て埃を取ってくれた。……信一はたまにすごく世話焼きになるな。俺はアイツの小さい頃を知らないが、弟妹がたくさんいる兄貴って感じだ。まぁ、城砦で暮らしてればそうなるのも当然か。でも、いきなり顔を鷲掴みされたのは驚いた。両側からガシッとな。俺は頭を触られるとどうにも緊張しちまうんだが、信一と───龍兄貴だけは安心して任せられた。
 で、その頃から俺が目の前で目を擦ってると、信一が埃を取ってくれるようになったんだ。……笑うな。アイツは本当に優しい奴だ。でもな、俺も少し甘え過ぎてたのかもしれん。いつの間にか俺は、信一に「目にゴミが入った」って自分から言うようになってた。そりゃもう、目を擦るたびに「みっともない真似すんな」って、弟を叱る時みたいな口調で言われるもんだから。鏡なんて近くにないことの方が多いし、自分じゃ上手く取れないんだ。そんなに言うならお前が取ってくれよ、ってな。
 信一は本当にすごい奴だ。うるさい!俺は自分が酔っ払いだって自覚してる。ってことは、まだ酔ってないってことだ。……アイツはな、面倒な顔一つしなかったんだぞ。可愛げのあるチビでもない俺の世話を、律儀にやってくれたんだ。

 ……で、話はここからだ。俺たちは半年前に城砦を出て、虎兄貴の世話になりながら暮らし始めたよな。城砦に居た頃と比べて埃も格段に少なくなって、俺はあまり目を擦らなくなった。だけど、少し前───一週間くらい前だな。店の天井を掃除してる時に、ふと目に埃が入った。久しぶりにやると痛くてな、丁度信一が空いてるバーバーチェアで雑誌なんか読んでたから、咄嗟に言ったんだ。「目にゴミが入った」って。習慣ってやつは恐ろしいな。考えるより先に口から出ちまった。……そしたらな、アイツは俺にこう返したんだ。「そうか」って。それだけ言って、立ち上がってウロウロした後に店から出て行ったんだ。
 俺はドキッとしてな、動揺してる自分に驚いたよ。いや、俺も思うんだ。それが普通だってな。ガキでもないんだ。いい歳して友達に目のゴミを取ってもらうようじゃダメだって、俺だって思う。とっくの昔に香港に根を張ってるんだ。信一に───勿論お前らにも頼ってばかりじゃいられない。これからは俺が信一に頼って貰えるように、しっかり自立しなきゃいけない。大体、俺だって城砦に流れ着く前は、何だって一人でやってきたんだ。いざって時に頼れる奴が多いのは有り難いことだが、俺もお前らにとってそういう存在でありたい。

 そう、分かっちゃいるんだ。分かっちゃいるんだがな……情けないことに、無性に淋しくなった。笑えるだろ?口煩く注意されるくらいならって思ってたが、俺は本当は信一に世話を焼いて欲しかったんだって、理解しちまった。
 最近はアイツと少し距離を感じるんだ。前なら抱き合ってたような場面でも、気まずそうな顔をして誤魔化すようになった。ハイタッチも、握手も同じだ。暮らす場所が変わって初めの頃は、苦労することも多かったろ?アイツが理髪店のオーナーで俺は雇われの店主だ。問題も二人で一緒に乗り越えてきた。そういう時に、信一と昔みたいに喜びを分かち合えないのは……いや、今までが近すぎたのかもしれないな。
 世話焼きにつけ込んで、アイツをうんざりさせちまった。でも俺は、信一とはずっと友達でいたいんだ。なぁ、お前らはどうすればいいと思う?昔のアイツに戻って欲しいなんて、口が裂けたって言えない。でも、……




……寝たか?」
「あぁ、完全に落ちてる」
 勢いよく卓に突っ伏した洛軍は、気持ちよさそうにいびきも立てず眠っている。十二と四仔は腹の底から大きなため息を吐いた。
「何だろう、どっと疲れたな」
 座っていたソファの背もたれにぐったりもたれかかりながら、十二が天井を仰いだ。
「犬も食わねえもん無理矢理食わされたんだ、疲れるに決まってる」
「あ、お前もそう思う?」
 十二は四仔へ顔を向けた。くりくりしたつぶらな目の奥には、下世話な好奇心が瞬いている。
「明白だろ。信一がそう・・なるタイプだったのは意外だけどな。アイツは遊び慣れてるし」
 剥いたピーナッツの殻を黙々と繋ぎ合わせながら、四仔は答えた。洛軍が演説をぶっている間もずっと手を動かしていたので、卓の端にはツギハギの殻が山と積み上がっている。
……なぁ、どうだろう。ここは俺らの出番なんじゃないか?」
「どういう意味だ」
 四仔が顔を上げた。その面に浮かぶ表情を見て、十二はニヤリと笑った。
「二人の友情・・が永く続くよう、一肌脱いでやるべきなんじゃないか、ってことだよ」
「具体的には?」
「信一をベロベロに酔わせて全部吐かせる」
「クソ黒社会らしい単純で粗野な策だが───俺も同じことを考えてた」
 四仔の目の奥にも、十二と同じ光が瞬いていた。