ギャビィ
2025-02-11 23:11:21
2701文字
Public その他
 

シチリアとアルバニア



 サイレンのように鳴り響くベルの音に苛立ちを露わにしながらシチリアは受話器を取った。電話の相手は予想通りの人物で、けれど常よりは幾らか焦ったような声は少しばかり新鮮だった。
「あぁ? アルバニア? 来てねーよ。奴さんロシアのとこにいるんじゃなかったか? へえ、なんだそれ。意味わかんねえの。だあからウチには来てねえっつってんだろ。来るならナポリのほうじゃあねえの。あ? あー、ナポリの奴いまお前んとこに連れられて、あー、遊びに来てんの。ああ、そう。そりゃ……ご愁傷様。わーった、わーった。あのバルカンのお嬢ちゃんが来たらお前に連絡すりゃいいんだろ。はいはい、了解了解。あ? 俺が今までお前の言うこと聞かなかったことあるか? はあ? おいおい、そりゃ冗談きついぜ、イタリアさんよお。テメーの事情に付き合わされてるのはこっちのほうだぜ。ああ、そう。おお。そりゃ知らん。じゃあ少しはウチの事情も考えてくりゃしねえかね。こっちは地中海の孤島なんだ。テメーにウチの何がわかるってんだ。ああ。そりゃ奴らはそう言うだろうさ。それが人情ってもんだ。えぇ、考えてもみろよイタリアさんよお。この右も左もてんでバラバラな俺ら全部、統一しようって言い始めたのはお前さんだろ。ちょっとやそっと足並みが揃わんぐらいで文句を言われても困るんだよ。そのうえ、何だ? テメーが勝手にちょっかい出そうとした海の向こうのお嬢ちゃんが、ちいとばかし厄介な野郎とつるんでるなんて、そんなの俺の知ったこっちゃあないんだ。いいか。こっちは日々の生活で精一杯なんだ。毎日汗水垂らして海に出て魚獲って畑耕して、稼げるお金はこれっぽっち。周りは海で逃げるところもありゃしねえ。そのうえ食えるもんはパンとイワシとレモンだけ。そんな俺にテメー今更なにを望むってんだ。あ? あー、そう。 おう。わかりゃ良いんだよ。はいはい、アルバニアな。覚えてたら連絡するよ。そりゃ勿論。必ずだ。チャオ。もう2度と夜にかけてくんなよ、こっちは今から寝るとこだ。ナポリ? 知らん。勝手にしろ」
 ガチャリ。
 黒い電話の受話器を置いた後、男は素知らぬ顔でフウっと大きな欠伸をした。石造りの家の奥からは、電話の話を聞いていたらしい女がひょこりと顔を覗かせた。
「イタリア、何か言ってたか」
「テメーのこと探してるらしいがそれ以上は知らん。話聞くの面倒だから適当言って切った」
「助かる」
「別にオメエを助けたわけじゃねえんだぜ、お嬢さん。俺ァあいつが嫌いでね。イタリアが好きなやつなんてこの国にはいねえんだ」
「変な奴らだ」
「そうだよ、まともな奴は今日び合併だとか統一だとかしねえんだよ。ほら、お前の横の、あー、何てったっけ」
「ユーゴスラヴィア。イカれた奴らだ」
「だろうな。ま、オメエに言われちゃあ奴らもたまったもんじゃないと思うが。いや、俺の考えだがね。おら、明日の船で帰るんだろ。さっさと寝ろ。うかうかしてるとあの野郎たぶんここまで来るぜ」
 男がふっと息を吹いてランプの火を消すと、あたりはシンと暗くなって、とうとう波の音しか聞こえなくなった。