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ぎんちき
2025-02-10 21:51:57
6129文字
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ブン木手
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過去作まとめ③
年齢操作(未来設定)のものをまとめました。
1.羽目は外すもの(成人)
2.素直になること(高3/「ラブコール」以前に書いたものなので今見ると違和感のある部分があります)
1
2
素直になること
「なるほど。木手にはあんな秘密が」
「おや? 何をしたためているんですか柳くん。
……
えぇっ、彼にそんな秘密が」
「何を騒いどるんじゃ柳生。
……
ほぉか、ヤツにこんな秘密がのう」
「
……
ふたりとも、このことはどうか内密に頼むぞ」
「勿論です! プライバシーは保護されて然るべきものですからね」
「ピヨ」
*
半ば偶発的にダブルスを組んだあの日から、早いことで丸三年。あれ以来私たちは毎年の合宿で、何度かはネットを挟み、対峙する。それは試合に限った話ではない。今だって自主練習をして、その休憩中だ。午前のメニューが始まる時間も近いことだし、もう少ししたら移動しなければ。
「俺たちさぁ」
飲み物をひとくち口にしたあと、丸井くんが突然に言葉を発した。さっきまで黙々とおにぎりを食していたのに。
……
もう終わったんですか? あの大きさを? はぁやぁ。
「恋人、な訳じゃん」
「あ
……
え、えぇ。そう、ですよ。そうですね」
恋人。彼から発せられたその単語に、思わず緊張が走った。そうなのだ。丸井くんと私はこの秋から「恋人同士」になった。
「だから
……
」
いつになく真剣な声色。この空気、彼の言わんとするところが自ずとわかってしまう。
「キス、しよう」
やはり。予想どおりのものだった。とすれば、私からの答えはひとつ。
「
……
で、でも」
「でも?」
何を言い淀んでいるんだ。言いたいことは決まっているのだから、ハッキリ言えばいい。
「駄目です」
「
……
何で?」
「
……
」
理由は言えなかった。あまりにもくだらないものだから。
『アナタに嫌われたくないんです。柔らかくもないだろう唇に、口髭の感触なんかが上乗せされたら、きっと嫌悪するでしょう』──だなんて。これは私のわがままだ。そう思うならせめて髭なんて剃ってしまえばいいだけなのに、そうしない、私の。それでも
……
自分を曲げたくない、から。
「
……
キテレツがそう言うなら、俺はお前の考えを尊重するよ。だけど」
丸井くんが、寂しげに笑う。
「俺の気持ちも、ほんのちょっとだけ汲んでくれたら嬉しいかな、なんて。
……
あー、ごめん。ほんと、こんな、さ」
「
……
丸井くん
……
」
私も、本当はアナタとキスがしてみたい。きっとそれは、素敵なものなのだろうと、少女のように夢想してしまっているんです。だからこそそれを私自身によって崩落させたくない。
……
ああ、こんなことなら、今までの関係のままでいられたほうが互いの為だったのではないか。
こう思ってしまうのは、彼に失礼だろうか。私を受け入れてくれた、丸井くんに。
「無理やりしようとかは思ってねぇし。いいよ。いつか、できれば。いつか
……
できれば近いと嬉しいけどな!」
「
……
」
どうか。どうか、明るく笑わないでほしい。アナタが理由を述べよと強く出てくれたら、私も言えるかもしれないのに。真摯に私と向き合ってくれるからこそ、己が考えの矮小さに辟易とする。
……
こうやって、アナタのせいだと言おうとしてしまえそうな点を含めて。
「もう少し。時間を、ください」
「うん
……
。待ってる!」
丸井くんの頬を指先で撫でれば、くすぐったいと目を細めて笑われる。
*
「
……
何でだよ」
今までにほとんど聞いたことのない程度に低まった、声。気圧されそうになったが、こんなところで折れてたまるか。
「昼間と言ってることとやってることが違うじゃないですか、あの余裕はどこにやったんですか?」
だからといってわざわざ煽るような発言をする必要はないだろうに。今のは不用意だった。そういう性分なので仕方ない部分はあるが、明らかに選択を間違えた。
「話、逸らすな。俺の質問に答えろ」
丸井くんによって壁際に追い詰められた。俯く彼の表情はこちらから見えない。少なくとも笑ってはいないだろう。
「
……
柳クンに、聞いたんですって?」
「正確には柳から聞いた比呂士から聞いた仁王」
「
……
皆さん私たちが付き合ってるって知ってたんですか? ああ、いや。細かい部分は、まぁ、いいとして
……
」
ともかく。どこから仕入れたのか知らないが、私が丸井くんとキスをできない理由を立海の柳クンから伝言方式で一部に伝わり、丸井くんにまでそのことが届いたらしい。最悪な形で穴抜けした情報が。
女子中学生ではあるまいし、そんな噂話をして面白いのだろうか。
「俺が言ってんのは理由云々じゃなくて。
……
俺にだけは言えないって、何でだよ、って聞いてんの」
どうせネタがバレているなら全て正確に伝えてほしいものです。
……
そもそもこんな話が流出しているということ自体が大問題なのだが。漏れたものが今更どうにかなるわけでもない。
「全くもってその通りですよ。アナタには言えません」
失望されるのが怖いから。そう思って保守的になっていること自体も、アナタには見せたくない。アナタも、見たくないでしょう? で、あれば私はできるだけ不遜な態度に努めよう。
「第一、知ったところでアナタは納得するんですか? 違うでしょうね。きっと。それに、恋人同士だからといって、一から十まで知り尽くさなければならないなんて必要ないでしょう。丸井くんにだって、私に隠しごとのひとつやふた
……
つ」
「隠しごと、して
……
別にそれが悪いって言わないけど。でも、」
ズルい。そんな表情は。急にしおらしくならないでください。
「俺は、さ
……
納得、できるかわかんねぇよ、聞かないと
……
そんなの、当たり前、じゃん」
何なんですか。アナタらしくもない。丸井ブン太は、いつだって堂々とかつ飄々としていて、そこにあるのにどこか捉えどころがなくて。こんなところで、私の目の前で小さくなっているような存在じゃあ、ないでしょう。
「ごめん
……
俺。頭冷やしたほうがいいよな
……
」
「あーもうわかりましたよ!」
「え」
自分が何をしたのかわからない。が、気づいたときには至近距離に丸井くんの、真っ赤に染まりきった顔があった。
「
――
……
ほら。もう、二度と
……
したくない、でしょう」
「あ」
そうだ私は今、丸井くんと
……
キスをした。してしまった。彼の首の後ろを抑え引き寄せて、無理やり。最低だ。最悪じゃないですか! 夢に描いていたそれとは遠く。自分自身ショックに感じているのだから、彼にもトラウマを植え付けてしまったに違いない。謝って許されるものでないし、殴られたって文句は言えない。腹は括ろう。だが、最低限のマナーとして謝罪はしなくては。
「丸井くん、その
……
」
「な。もう一回、しよ」
「本当に申し訳ありませんこんな私を
……
ん?」
頭の整理ができない内に、丸井くんに顔を両手で抑えられる。顔が固定された。丸井くんが過剰に接近してくる。吐息が感じられた。丸井くんの、恐らくは唇が触れる。柔らかかった。
……
柔らかかった。
「
……
んっ」
「
――
っはぁ。ま、るいく
……
待って、何
……
」
何をするんですか、と言い切る前に再び口を塞がれる。今度は、舌まで入れられた。にゅるりとした感触は苦しさを生じさせるが、決して不快ではなく。
「あっ。ふ
……
っ」
「ん
……
ぅ」
どうして。どうしてこうなっているのか。おかしい。困惑のままに解放される。
「はっ
……
はっ
……
は、ぁ」
「
…………
わり。がっつきすぎた」
そういう彼の目には反省の色など一切見えない。むしろ何かがメラメラと燃えているように見えて。
――
この瞬間が、出逢ってから今までで一番、彼のことを恐ろしく感じた。
「
……
でも、俺。ずっと、ずっと我慢してたから」
少なからず怯えた、ということを表に出したつもりは微塵もない。しかし、何かを感じ取ったのか、丸井くんは炎を隠すようにした。そればかりか、昼と同様、寂しげな微笑みをこちらへ向けてくる。
「キテレツのことが恋愛感情として、好き、だって、自分で納得してから
……
。キスがしたかったよ。でも、そういう身体的接触? が全てじゃないって、わかってたからさ。何よりお前から、不器用なりにいっぱいきもちを伝えてもらって。そのひとつひとつが嬉しかった。だから俺は、お前のことを大切にしたくって、俺
……
っ」
「
――
…………
理由」
「?」
もう隠すべきではない。何もかも伝えてしまおう。そうしなければ、いけない。それがせめてもの、誠意。
「私がアナタと
……
キス。できなかった理由を、お話します」
*
「
……
ってこともあったなぁ〜」
何年も前の話を、一体何度蒸し返せば気が済むんだ、くぬひゃー。酔っ払っているときに話すものだから自覚がないのかもしれないが、少なくとも年に一度は聞いている。いっそ羞恥なんぞ覚えなくなってきた。
「私だって若かったんです。もうそれでいいでしょう」
これだっていつもの返しだ。全く、こちらはいい加減飽き飽きとしたというのに。
「ま〜そうだよなぁ」
少し癪に障るが平常心を保てる範疇だ。問題ない。
「俺がどんだけお前のこと好きだったかわかってなかったんだろうし。髭なんてかわいいお前の一部だってのに」
「
……
ああそうですか」
おや。相当酔っているようだ。やけに饒舌なことで。とろんとした瞳でどこに向かって言っているのだかわからないが、彼の言葉はまだまだ止まらない。
「でもさー、俺も若かったんだわ!
……
キテレツのことだから、多少強引にいったってキスくらいなら怒らないだろうに、なぁ」
「はい?」
酔っ払いの戯言とはいえ、それは聞き捨てならない。まるで私が簡単な人間かのような言い草だ。
……
確かに、当時はそういう面もあったかもしれないが。
「ほら。だって、お前ってさ、俺のこと大好きだもんな。昔っから」
大層なご自信をお持ちのご様子に、ため息が出る。が、否定をすればそれは嘘になる。と、認めるくらいには私も素直になったものだ。
「はいはい。そうですよ」
「んふふー、だろい?」
「あのね。でも、それは」
――
『アナタだって同じでしょう?』
その問いは音に乗せず、口づけに含めた。
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