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2024年11月24日、記念日にて。
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「メフィスト」
「?」
――あの角を、曲がってしまったら。
そうしたら埋れ木家の垣根が見えてくる。
タイムリミットはすぐそこだった。
この意味のない『メフィスト!』連呼は、本日すでに十回目だ。
いや、十一回目だったか?
「あくまくん?」
並んで歩いていたはずのメフィストの足が止まる。
さすがに様子がおかしいと思ったのか。
『家まで送る』『君の両親に用事がある』と伝えたまでは良かったのだ。
家族旅行から帰ってきたメフィストに、
一郎は告げなくてはならないことがあった。
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メフィストが旅行に出ていたのは、数日前のことだ。
黄色のエプロン姿の悪魔がいない千年王国研究所はがらんとしていて、本を読む気にもなれなかった。
駅周辺が騒がしいと言うグレモリーの誘いに乗ったのは気まぐれだ。少しでも気がまぎれればいいと思った。
外に出たのは正解だった。
はじめてふれたこの街のイベントの様子を、一郎はじわりと思いかえす。
けっきょく探していたホットケーキのキッチンカーは見つからなかったが、いい匂いがそこら中に漂っていた。
駅周辺のはしゃいだ空気に、浮かんだのはこの子の顔だ。
(来年は、いっしょに来よう)
その考えは、すとんっと一郎の胸に落ちた。
クリスマスの空気がすきだと言っていた。いまなら一郎も、なんとなくそれが分かる。
「メフィスト」
「うん」
帰ってきたばかりのメフィストを三回連続で呼んでしまった時は、ホットケーキが足りないと思われたらしく、呆れながらも四枚目のホットケーキを焼いてくれた。
数日ぶりのメフィストのホットケーキはもちろん、存分に堪能した。
「め、メフィスト」
「うん?」
五回目はエプロンを手早くはずしたメフィストが、ソファに寝ころんだままの一郎をのぞきこんできた。
すこしだけ考えるそぶりをみせたメフィストが、
『
……悪魔くん。もしかして、さみしかった?』
などと聞いてくるから、素直に頷いてやった。
そうだ。
あのままならない感情は『さみしい』だ。
それを聞いたメフィストはなぜかぐりぐりと一郎の頭をなでて、ココアにマシュマロをいれてくれた。
『うまい』と呟いたら、そんな一郎に視線をあずけたまま、くすぐったそうに目許をゆるめたりする。
メフィストのこの顔が、一郎はすきだ。はやく誘わなくては。
マグカップを落としそうになっている場合ではない。最近、こんなことばかりだ。
――そう。
メフィストの家族旅行のジャマはしたくない。
ならば先に、埋れ木夫婦にこの予定をまっすぐに伝えるべきだと思った。
一日、メフィストをゆずってもらいたい、と。
そこで一郎は、重大なことに気づいたのだ。
そのためにはメフィスト本人を、誘わなくてはならない。
愕然とした。今さらだ。
仕事以外でじぶんはこの子を何かに、誘ったことがあっただろうか?
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「メフィスト、」
「うん」
――ぼくと来年、
――蟹汁を食べにいこう。
なんども、なんどもなぞったセリフが、のどの奥でつっかえる。
心臓が鼓動をはねあげた。埋れ木家の垣根の、みどりが見える。
だらんとおろしていた手が、どこに置いていいか分からなくなる。
去年の冬、メフィストは一郎を新しくできた喫茶店に誘ってくれた。
『誕生日は前の日だ』などとふて腐れたセリフを口にする一郎に向って、チラシを見せながら。
あのときの、めずらしく落ちつかない様子を思いだす。
ああ、
ああ、あれは、なんて
――、
「
……すごいこと、だったんだな」
「えっなに? 急に」
「去年の誕生日の翌日。きみ、僕をアミーゴパンケーキに誘っただろ、奢ってやるからって」
「へ?」
「すごいことだ。すごいこと、だったんだ」
ブツブツとくりかえす一郎を見上げる、まるっこい瞳がぱちりとまたたく。
まっすぐに一郎を映しこんだまま、頬がじわりと色づいていった。
その色がきれいで、かわいくて、見逃すまいとじっと見つめてしまう。
ちがう。一郎ははやく告げなくては。
埋れ木家は、もうすぐだ。
「メフィスト、」
目のまえで、睫毛がちいさくふるえてる。
身体の奥が、ぐっと切ない熱を持つ。
つっかえそうになる声を、一郎はひっしに絞り出した。
「メフィスト、ぼくと
――……」
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ちなみに。
耳まで赤くしてカチコチになったふたりに来年の予定を告げられ、
「え???これデートの誘いだよね??? ただのデートだよね???」
シチューの鍋をつかんだまま2世は、
ケタケタと笑う愛妻に何度もなんども確認するハメになるのだった。
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>つづきました
https://privatter.me/page/698e3c4518e73
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