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ほしのまなつ
2024-02-12 21:56:02
8972文字
Public
:ドルパロ
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【R-15】🥞🎩3️⃣/ぼくたちオトコのこ!
いちろうくん、事件です
1
2
・
・
・
(※副業:アイドルやってるふたりのお話し)
・
・
・
「お疲れだねぇ
……
」
「きみの息子よりは、ましだ」
ふぁ、と隠す気もなく盛大なあくびをすれば、隣から苦笑いが零れてきた。
今回の撮影は、以前に表紙をやった雑誌の小さなコラムで、簡単なインタビューとスナップを数枚。
一郎の気質も知られているので、随分とスムーズに終わった方だと思う。
『無人島に持っていくならこの一冊』という、いったいどんな状況なのか首を傾げたくなるような特集だったが、一郎なりに考えて「原色図鑑・野外の毒虫と不快な虫」を勧めておいた。
――
かさばるから、メフィストに持たせるのは大変かもしれない。
なんとはなしに呟くと『仲良しだねぇ』などと顔なじみのインタビュアーに目を細められてしまった。
あいつは手が小さい。身体にあっていると言ってしまえばそうだが、僕と比べてみたら誇張表現でなくすっぽりと隠せてしまえて驚いた。慎重に観察してみると、お気に入りで使っている鍋つかみは子ども用らしく
――
、
……
などと気づけば話はすっかり無人島からそれてしまったが、一郎の場合これでいいらしい。
最後に『連れて行くの、前提なんだね』などと言われたのには、首をひねってしまったが。
「今日はこれで上がりだろ? ゆっくりするといい」
「
……
そうさせてもらう」
こぼれたあくびは疲労というより、昨晩読みこんだ書籍がおおよその原因だ。
だが、撮影スタジオの長い廊下は様々な人でごったがえしており、誰がどこで見ているか分からない。
一郎はそういうのを全く気にしたことはないが、最近各方面で引っぱりだこな小さな相棒がいたら、小言のひとつやふたつ出てきそうだ。
――
ほら、帰ったらココアいれてやるから。
――
行きたいって言ってた喫茶店、今度のオフでいこうぜ?
そんな風になだめながら「な?」と確認してくる子と、ここ最近まともに顔を合わせていない。
一郎の腕を、くん!っとちいさく引っぱって、ナイショ話をするように囁やかれたのは、もう二週間もまえだ。
こっちの仕事をやるにあたって『悪魔くん、猫背!』などと注意してくる回数が増えたが、誰のせいだと思っているんだ。
「そうだねぇ。あの子はこういうのに向いてる気質というか、これは親の欲目じゃないんだけど
……
」
実際にそうだろう。
じぶんのような人間にすら何だかんだ世話を焼きまくってしまう子が、エンターテインメントの世界に向いていないはずがない。
その世話すら、減ってしまっている現状だが。
「ファースト写真集の発売が決まったんだもんな、あんたの息子。今のところSNSの評判も上々だ。
クソ親父やあんたのプロデュースもあって初版十万部は固いなんて言ってるヤツもいる。
本人もしばらくこれで家賃に悩まなくてすみそうだと張り切っているし、過密スケジュールは仕方ない。あの年齢層の幅広さは強みだな」
「
……
一郎くん、もしかして機嫌悪い?」
「??? なにがだ」
今日だって、以前お世話になったと言っていた出版社の撮影が、急遽ねじ込まれていた。
体調不良だかブッキングだか知らないが、穴があいてしまった雑誌撮影の助っ人に駆り出されたらしい。
うちのような小さな事務所ではよくあることだ。
通常、雑誌の撮影はスタジオを何日間か押さえて、その期間で一気に撮り進める。
モデル撮影が入ってる場合は特に、スケジュールが完全に決まってるので時間との勝負だ。
――
というのを一郎に切々と説いていた生真面目な顔が、記憶に新しい。
よくしてもらった編集さんだから
……
と、父親に自分のリスケを相談していた。
一郎からしてみれば知ったことかといった内容でも、あの悪魔にとってはそうじゃない。
「それなんだけどね、今回打ち合わせをあの子だけで進めてしまっていて
――
」
「分かってる。だからきょう僕の方にめずらしくアンタが帯同してんだろ。
……
このビルでやってるんだな、撮影」
「うーーん、話が早くて助かるよ」
困ったように眉を下げているが、本当は息子の仕事すべてに自分がチェックを入れたいはずだ。
打ち合わせだって、初期はそれこそ最初から最後までずっと帯同して目を光らせていた。叶うならそれは今も同じだ
――
通常ならば。
義父の真吾とこの人に至っては、やるつもりのなかったタレント業に加えプロデュース業も兼任している状態だ。
ずれこんだスケジュールの調整に、元々のプログラミングの方も繁忙期らしく、めずらしく目許に疲労が滲んでいる。
「3世はああ見えてしっかりしているから、心配はしてないんだけど
――
」
「前置きはいい。今日はクソ親父の所に今からとんぼ返りだろ、アンタ。どうせ僕は帰るだけだ、覗いてから回収してくる」
「
……
ほんとうに、話が早くて助かるねぇ」
メフィストにはホットケーキを作ってもらうから、連れ帰るのは研究所の方だ
――
というのまでは、黙っておいた。
この食えない悪魔こそ、そこまで計算済だろうが。
今度みんなで焼肉しようね、などとにこやかに約束してくるのに曖昧に頷き、冷蔵庫の卵が大丈夫だったか思考を巡らせる。
そもそもこんなにも長い期間、ふたりが離れるのは初めてだ。
・
・
・
古めかしい作りではあるが、ここはテレビ局が所持する都内でも大きめの撮影スタジオだ。
同局主催の音楽フェスに出演したことがあり、おおまかな地図は一郎の頭に入っていた。
用意された楽屋からトイレが遠く、緊張で手が冷たくなっていたメフィストの手をひいて、ひとつ下の階を階段で降りたのを覚えている。
『Aスタ、僕もいる。帰るぞ』
そう短いメッセージを送ったが、返事はない。
もう終わってもいい頃だが、撮影が押しているのはよくあることだ。
いったん下で待ちぶせようと既読のつかないスマホをジャケットにぐっと捻じ込む。
一郎の身体の線にしっくりくるやわらかな生地のジャケットは、『黒はいっこ持っといた方がいい』と念を押され、買い取ってしまったものだ。
素材やブランドの名前はよく知らないが、『悪魔くんに、にあってる』と、あの子は満足そうに笑っていた。
別に、きょう会えそうだから着てきたわけではない。偶然だ。
……
これに気づいたら、あのまろい頬をゆるめてくれるだろうけど。
(買いものする時間は
――
ギリギリあるな)
どう考えても、冷蔵庫の卵は全滅だ。
メフィストに叱られるだろうが『だってお前がいないから』と言ってやっていいだろう。
……
そう考えていたところで、最上階から人を乗せたらしいエレベーターが、ようやく降りてくる。
「
……
、
……
」
中には、人形めいたちいさな女の子の先客がいた。
――
といっても薄暗い箱のなかで、さらに顔をうつむけているため容貌はよく分からない。
肩の上あたりでふわふわしているプラチナブロンドで一応女の子だと判断した。
一郎の腰ぐらいしかない小柄な子は、付き添いの大人がついていないのが不思議なくらいだ。
『おつかれさまです』と声をかけるべき場面だろうが、会釈のようなものを一郎なりにしてみる。
もともとうつむく顔が、いっしゅんちいさく揺れただけ。
待機中のモデルが着用しいるのをよく見る、黒いベンチコートを袖も通さずに羽織っており、ちいさな身体を隠すようにぎゅっと前を握りしめていた。
――
ここで一郎は、なんとなく察してしまった。
気分が悪い。
じろじろ見るのはよくないと分かっているが、まじまじとその恰好を眺めてしまう。
コートの中身は
……
白いレースまみれの、たぶんキャミソールだ。
身体にたいしてコート大きすぎるので、一郎からだと中が覗けてしまう。
目の覚めるような赤いいろの細いりぼんが、プレゼントのように胸元で几帳面に結ばれている。
視線を下せば、これまたレースばかりが重ねてあるショートパンツから、まっすぐな白い脚がのびていた。
剥き出しの、ほそっこい太ももは薄手のストッキングすらまとっていない。
身もふたもない言い方をすれば、よくてネグリジェ、どう見てもランジェリーといった格好だろう。
衣裳に対してちぐはぐなスニーカーが浮いてしまってる。
「
……
ぇ
……
っ」
見すぎていた自覚はあるが、ふいにこぼれた小さな声ではっと我に返る。
異変を知らせる、チカチカと点滅するランプ。
階数表示のランプが、二階と三階の両方で点滅をくりかえしていた。
ガ
―――
ッ
ガ、コン
……
っ
なにが起きたのか考える間もなく、わずかな揺れとともにエレベーターが沈黙してしまう。
故障だろうか。これだから古いビルは嫌なのだ。
箱の奥にいたはずの子が、なんどもなんどもボタンを押すが反応がない。
ちいさな息遣いだけが、密室にこぼれるだけ。
「
……
完全に止まったな」
「
……
っ」
赤い非常用ボタンにかかった小さな手が、わずかにためらう。
緊張からか、身体のよこでぎゅっと握られた手に力がこもってしまっている。
これ以上ただ見ているわけにもいかず、一郎はその背後から電話のマークが描かれた赤いボタンを押してやった。
すぐに、聞き取りにくいザーザーという音を交えながら、『どうしましたか?』という声が返ってくる。
目のまえの小さな肩が、見るからに安堵にゆるんだ。
「
――
×××ビル、二階と三階のランプが点滅をくり返し、停止している状態だ」
ビルの名前、停止した階数、点滅の状況などを口早に伝え、この場で待機状態になる。
少なくとも復旧には三十分前後かかるようで、何度も謝罪を重ねられた。
無人島ではないが、本でも持ってきておくんだったな
……
、と頭の隅で舌打ちをする。
「取りあえず座らないか?」
ようやく声をかけるが、こくんと小さく頷くだけ。
薄暗い箱の中で、白銀の髪がわずかにゆれる。
この後におよんでコートを汚すことに戸惑っているのか、衣装が動きにくいのか。
こっちはデニムなので気にせず先に座り込んでやった。
「
………
っ!」
「なぁ、」
もう面倒なので、コートごとその身体をすっぽりと膝の上にのせてしまう。
びくっとちいさく肩が跳ねたが、抵抗はない。この状況は不可抗力だ。
一郎はこぼれそうな舌打ちを、のどの奥でひっしにのみ込んだ。
「
――
メフィスト、これはどういうことだ?」
うでのなかで大人しかったはずの子が、ようやく顔をあげる。
二週間ぶりに見たかったのは、こんな顔じゃない。
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