君の手を取ったことに後悔はないそうですよ

君の手を取ったのはエースです。

※ついすて本編最新六章のネタバレを含みます
※ふぇご本編アトランティスならびに六章のネタバレを含みます







 別れの場所は、やっぱり鏡の間、ではなく。
 城になっている学園にある、展望台だった。予言の授業かなんかで、天体観測に使う場所だった。開けたそこに、リツカと、ジークだけが姿を見せていた。他の二騎は霊体化しているという。
 唐突に「そろそろ帰るわ」とリツカが宣ったのは、本当に何でもない日だった。
 なんなら何でもない日のパーティさえなかった。誰かの誕生日というわけでもなかった。リドル寮長はいつも通りにキレてたし、トレイ先輩はタルトとキッシュを焼いていて、ケイト先輩はそれをマジカメに上げてた。
 キングスカラー先輩はたぶん温室で昼寝してる。さっきラギー先輩が探してたし。ジャックはクソ真面目に授業受けてた。アズール先輩もリーチ兄弟もモストロ・ラウンジの経営で忙しそうにしてたし、ジャミル先輩は相変わらずカリム先輩に振り回されてた。イデア先輩は見てないけどオルトがいつも通り部屋に引きこもってるって言ってたし、マレウス先輩はセベクに大声で探されてて、その横でシルバー先輩が眠そうにしてて、リリア先輩が楽しそうにそれを見てた。
 クルーウェル先生は相変わらずバッボーイだのなんだの言って、トレイン先生はいつも通りルチウスを抱えて、バルガスはずっと熱血でうるさくて筋肉バカで脳筋。
 学園長はいない。たぶん、リツカが今日でカルデアに帰還することを知らない。挨拶はしたけど、取り合ってくれなかったそうだ。学園長らしいと言えばらしいかもしれない。
 見送りに来たのは、案外、エースとデュースと、グリムだけだった。グリムはぼたぼた泣いていた。デュースも泣くまいとしているようだが無理そうで、さっきからずっと何事か、「向こうに行っても無理するなよ」とか「応援してる」とかなんとか言ってる。

 エースは何も言えなかった。

 だって、エースは、マスター リツカになんか送り出してやりたくなかったから。

監督生 リツカを、騙せなかった。

 その事実を受け入れるだけで、精一杯だったから。

「グリム〜、ちゃんと勉強するんだぞ〜?」
「ぶな゛、」
「デュースも、応援してるから!」
「あ゛、ありがと、かんとくせ、」
「エースは……

 へらへら誤魔化すように笑っていたリツカが、唇を閉じる。

「最後まで、そうしてくれてたの、エースが初めてかもだ」

「──────」

「さよなら。ありがとう。君は確かに、藤丸立香を救ったよ」



 星の光が、斜陽に混じる。

「転身開始。彼方への巡礼を───」

 眩い輝きに、視界が白く灼かれる。
 どうにか堪えて瞼を開けば、そこにいたのは頼りない青年ではなく。
 おとぎ話でしか聞いたことのなかった、巨大な竜だった。

 漆黒の羽が、強かに空を打つ。
 生じた風が、ざわめきも葛藤も、頬を伝っていた一筋の涙も、何もかもを吹き飛ばす。
 強大なその姿は、世界を圧倒するのに十分すぎるほどだった。

 これが宝具。これがサーヴァント。

 光に向かって、竜がソラを翔ける。

 昼と夜が混じりあって、全ての境界が曖昧になってゆく空間に、星の光が瞬いた。