人類悪が顕現しそうですよ

やるしかねぇと思ったんだ







 なんだかんだスターゲイザー達を手伝うことになった立香は、燕青に『マジのマジで参加しないやつから願い星を集める』役目を頼み、デュースやトレイ、オルトとイデアにくっついて各生徒の元へと顔を出して回っていた。
「俺の願いは……そうだな。『一人旅ができますように』」
 スカラビア寮にて、ジャミルが星に願いを篭める。願いを宿した星は、小さく淡く、けれども力強く輝いた。
「旅か。いいな」
「そうか? 地味なんだゾ」
 トレイが微笑み、グリムが忌憚ない感想を述べる。立香は「旅は楽しいよ」と笑って、ジャミルに「途中、エネミーに襲われないよう気をつけてくださいね」と訳の分からないアドバイスをした。
「エネミーって……ゲームじゃないんだから。君はエネミーに襲われるような旅をしていたのか?」
 ジャミルに苦笑されて、立香は笑顔で「はい!」と頷いた。
「そりゃもうキメラやらワイバーンやらラミアやら何から何まで!」
…………そうか……
「でも貴重な食料にもなりますからね!」
「は?」
「栄養はゲテモノ肉でも変わんないんですよ、先輩!」
 あくまでもにこにこと世間話のノリで訳の分からないことを話す後輩に、ジャミルは数拍ほど間を空けて、「そうか、ありがとう」とだけ返した。
「少し、疑問に思ったんだが……なぜ、一人旅がしたいんだ?」
 立香の付き添いだったジークが淡々と聞いてくる。立香を相手にするよりもマシなので、ジャミルは「大したことじゃないんだが」とジークに向き直った。
「いつか、誰も俺の事を知らない世界に行ってみたいんだ」
「そういうのも、楽しそうだな。自分を見つめるきっかけにもなりそうだ」
 トレイの横で、立香がうんうんと頷いている。グリムが呆れたようにして言った。
「なーに分かった風な顔してんだゾ」
「この中で一番旅慣れしてる自信があるからね!」
 旅はいいですよね、と立香は目を細めて笑った。
「懐かしいなぁ。私もジャミル先輩みたいに、とある王さまの小間使いをしたことがあるんですよ。まぁ、体の良い何でも屋みたいな感じでしたけど」
「それって、今も変わんないんだゾ」
「あ、確かに」
 あはは、と立香が笑う。ジークが小間使いは今も変わらないんじゃないかと小さく言って、立香はそれもそうだねと笑みを深めた。
 直後、立香が叱られる前のこどものように顔を歪める。
「帰ったら、絶対怒られるんだろうなぁ…………
「そりゃあ……勝手に出てきてるんだ、怒られるだろ」
「やっぱりそうですよねぇ……
 ジャミルの言葉にしおしおと項垂れていた立香に、ジークが「たぶん大丈夫だ」と声をかけた。
「賢王は、そこまで怒っていなかったと思う。寧ろ軍師殿の方が、ふぁっくだとかなんとか言っていたぞ」
「二世に怒られるのはもういつものことだからな……
「さてはお前、結構な悪ガキだな?」
 からかうように眉を跳ねさせたトレイが、うりうりと立香の頭を掻き回した。そうして、ジャミルに「協力ありがとう」と向き直る。
「お前の夢が叶うのを祈ってるよ。邪魔したな」
「あ、いえ、……お気になさらず」
「お邪魔しました!」
「失礼する」
 人が一気に減って、部屋に静寂が訪れる。
 ジャミルは、先程の立香の言葉を、何度か思い返した。

 ───エネミーに襲われないよう……

 ───栄養はゲテモノ肉でも……

 ───王さまの小間使いを……

 ───旅、いいですよね……

 敵性体(エネミー)に襲われて、おそらくはモンスターだろう、野生では無い肉を食ってまで旅をして。
 旅の途中で、王の小間使いまですることになって。
……そんな旅が、本当に良かったのか……?」
 もしかしたら安全が保証されていたのかもしれない。
 もしかするとジャミルが想像するよりもっと普通のサバイバル系統な旅だったのかもしれない。
 けれども立香の纏う雰囲気が、そして立香の傍に控えるジークの滲ませる気配が、そう想うことを許さない。
 きっと正しく、過酷だったのだろう。そう簡単に、想像もできないほどに。

 ───いいですよね

 ───懐かしいなぁ……

 だが、立香はその旅を、まるで愛しいものを慈しむかのように懐かしんだ。
 その声音に滲む万感の想いは、きっと簡単な言葉だけで推し量れるものではない。
……ただの、後輩だと思ってたけどな……
 立香は、どんな旅をしてきたのだろう。
 己の旅を、立香はどんな風に語るのだろう。

 そもそも。あいつは、何者なのか。
 オーバーブロットに果敢に立ち向かってきたかと思いきや、魔力のないただの一般人だし。
 魔法を使えないと自他ともに認めていたのに、自世界から使い魔を召喚してみせるし。しかもそれを仲間だと自慢げに言ってのけるし。
 あの素人目にもおそろしいバケモノのような人外達が、何故立香に付き従っているのかまるで分からないし。
 常に従順というわけでも無さそうだし。

……どうなってるんだ、あいつの世界は」

 突くのは薮蛇だと分かってはいる。

 ───けれども、ジャミルの中の天秤は、知的好奇心の方に傾いている。

…………帰る前に、聞くくらいは、別にいいよな」

 ジャミルは、誰にともなく言い聞かせるようにして、ぽつりと小さく、独りごちた。





☆それは、星の輝きを集める人類最後のマスターの、愛と浪漫の物語───