【なに清】十一月

※大量クロスオーバー現パロ
※なんでも許せる人向け

【登場人物】
片岡桜:可哀想だと思われることが地雷
藤井冴美:運動神経は悪くない。体力もある。
藤丸立香:善・中庸
久我深琴(ノルンノネット):由緒正しいお嬢様。桜に嫌われている。
山崎烝:制服の方が違和感あるなどと。
黄瀬涼太(黒バス):モデルもやってるバスケ部員。
乙丸平士(ノルンノネット):気配り上手なお調子者。
門脇歩(プリスト):負けず嫌い。
遠山和葉:平次のことを冴美に相談し困らせている。
服部平次:心が狭い。
沖田総司:アドリブ大好き。
斎藤一:演劇部のファンになった。
毛利蘭(名探偵コナン):めちゃくちゃつよい。
江戸川コナン(工藤新一):小さくなっても頭脳は同じ、迷宮なしの名(?)探偵。


 清涼学園は、厳しくなっていく寒さとは裏腹に、熱気に包まれていた。
 普段なら授業が行われている時間だろうに、生徒達が校舎あるいは学園の敷地から飛び出して、最寄りのスーパーやホームセンターに駆け込む。入れ違いに段ボールを大量に抱えた生徒達が昇降口で煩わしそうに靴を脱ぎ捨てる。
 彼らは決して授業を不当に欠席しているわけではない。その証拠に教師は教員室に籠って静かなものだ。粛々と授業が行われているのは初等部のみだろう。幼稚部は今日も相変わらず穏やかに幼子が走り回っている。
「急げ急げ!」
「ねぇ予算今どれくらい?」
「絵の具足りねえんだけど!」
「購買の備品、今日は売り切れだって!」
 誰も彼もが忙しそうにどたばたと走り回り、机や椅子を移動させ、教室を飾り付ける。廊下は人や道具であふれかえり、気を抜くと大惨事を引き起こしそうであった。
 人波を器用に避けながら、藤丸立香は自分のクラスへ急いだ。足で器用にドアを開け、「ただいま」と声を張り上げる。
「おかえりなさい、藤丸くん」
 長い黒髪をきっちりとポニーテールに纏めた風紀委員長、九我深琴(くがみこと)が出迎える。立香は少し教室を留守にした間に彼女が浴衣へ着替えていたことに大層驚いた。
「うわぁびっくりした! 似合ってるよ、久我さん」
「ありがとう。藤丸くんも、後で試着してくれるかしら」
「うん、わかった」
 衣装担当の山崎烝が丈を調節し、黄瀬涼太が色と柄を吟味する。黄瀬はともかくとして山崎は浴衣が様になっていることも相まってどこかの反物屋の仕立て人かと見間違うほどだ。
 立香は大道具を作成するため段ボールと四苦八苦している乙丸平士に後ろから声をかけた。
「乙丸、これ、頼まれてたやつ」
「おっ!!」
 困り顔だった彼の表情がぱっと音を立てて明るくなる。
「ありがとう、藤丸! 恩に着るぜ!」
 立香が周りの生徒からは見えないようにこそこそと持って帰ってきたのは購買で売り切れとなっていたはずのカッターやガムテープだ。立香は自分の購買にアルバイトとして雇われているという立場を活用し、売り切れそうな備品をこっそり取り置いていたのだった。ちゃんとお金は払っているから、許してほしい。
「ほんとはだめなんだから、これっきりだぞ」
「分かってるって」
 声を潜めさせて言うと、平士も悪い悪いと立香を拝んだ。
「そうだわ、藤丸くん」
「はいっ!」
 立香と平士は揃って肩を跳ねさせた。もしや聞こえたのか。ばれたのか。怒られるのでは。恐る恐る振り返った立香に、風紀委員長は山崎の指示に従って体の向きを変えながら言った。
「片岡さんと沖田くんを探して来てもらえる? 沖田くんは文化祭実行委員だからしょうがないけれど、片岡さん、どこにも所属してなかったはずよね。浴衣の試着とシフト相談に来てもらいたいの。二、三日前から言ってるのに聞いてくれなくって」
「わかった、探してくるよ」
「ありがとう、助かるわ」
 平士と顔を見合わせて、ほっと安堵から胸をなでおろし、立ち上がる。行ってきます、と教室を出て、再び喧騒の中へ。
 そう、文化祭。正確には、清涼学園祭。十一月の第三土曜日と日曜日を利用して開催されるそれは、生徒達にとっても、近隣住民にとっても、一大イベントである。清涼学園の学園祭は、中等部から大学部まで、同日に開催されるからだ。
 そして今現在。その祭は、開催まで残り三日にまで差し迫っていた。





     ◆     ◆     ◆





 文化祭実行委員は、この時期になるとトランシーバーで連絡を取り合い、特定の場所に集まるということがない。立香は腰に機械をぶら下げている生徒を捕まえては、沖田はどこにいるかを訊ねた。
「ごめん、応答してくれねーわ」
「いいよ、ありがとう」
 これで三人目である。流石の立香も眉を下げた。
 割と神出鬼没なきらいがある彼の事だ。そう簡単に捕まることはないと思っていたが、三度目の正直でも空振りとなると、探し方を変えた方がいいのだろう。
 実行委員の線で探してダメだったのだから、部活動の線はどうだろうか。足を動かして移動しながら、立香は剣道部は今年は何をするんだっけと思考回路を高速で回転させた。
「えー、と。確か試合……あれ、それ去年か? 来年はしないって聞いたような。確か来年、違う今年、は、そうだ」
 脳裏に浮かんだのは橙色をした自分の双子の片割れの言葉。曰く。
『なんで剣道部がいっちばん広いステージ使用権申請してんの!? 一体何すんのよ!!』
 ステージ使用権抽選枠にダンス部が無惨にも破れ、大荒れしていたのもついでに思い出す。なだめるのが大変だった。エンターテインメント系の部活はどこも必ず一度は一番広い大体育館のステージで発表ができることになっているが、それ以外は抽選と調整により変動する。他にも中庭に建てられるライブハウスやホール棟の舞台での発表、大学部側のステージへの参加も可能だが、自分達のホームで一番ライブ感覚を得られるのは間違いなく大体育館ステージだ。
 観客も演者も一体となって楽しむことをモットーにしているダンス部にしてみれば、数少ない見せ場を突然横入りして奪っていった剣道部が目の上のたんこぶらしく、しばらく剣道部の話はできなかった。
 もしかすると今頃リハーサルをしているのかもしれない。そうと決まれば善は急げというやつである。立香は半ば駆け足で大体育館に向かった。
 腕時計に視線を落とすと、教室を出てから大分時間が経っている。成果を出すことにこだわる節があるという久我の怒りに触れたくはない。美人が怒ると三割増しで怖いのだ。大体育館のステージとは反対方向にあるドアからそっと体を滑り込ませると、中は真っ暗で、立香は驚いた。
 カーテンというカーテンが閉ざされ、照明は落とされている。ステージ上にはスポットライトや専用照明が焚かれ、制服や袴に身を包んだ生徒が忙しそうに行ったり来たりしていた。
「じゃあ三場から!」
 サンバから? そう思った瞬間に大音量の音楽がどんと衝撃を持って爆発して、立香はうわあと飛び上がった。
 鼓膜が破れるのではという勢いなのに、固い木同士がぶつかり合う鋭い音が合間に響く。ステージの上では斎藤と沖田が仕合っており、タイミングを合わせるかのようにきん、きん、と合成された金属音が割って入った。
 激しい壮大なバックミュージックがフェードアウトしていく。ぽかんとしていた立香は、「今の移動の感じでいいよ! 五分休憩!」という指示を聞いて、慌ててステージへ駆け寄った。
「あれ? 立香くんじゃない、どうしたの」
 汗をかいているらしい沖田がステージ上で屈んでくれる。立香は「久我さんが呼んでたよ」と手短に伝えた。
「シフトと浴衣の採寸だって」
「あれ、僕自分のを持ち込むって黄瀬君に言ったんだけど」
「え、そうなの? あぁでも、黄瀬の事だから伝え忘れてんのかも……
 そうだね、と沖田は晴れやかに笑った。こいつ絶対わざと山崎君の方に伝えなかったんだな、と立香は確信した。
「あと、片岡、知らない?」
「姉さん?」
 ねえさーん、と総司がのけぞって袖の方へ声を張った。少し間を置いて、着流しに身を包んだ桜がステージに出てくる。
「なんだ」
「ご指名だよ」
「そうか、十分一万だ」
「高いな!? いやそうじゃなくて!!」
 立香は慌てて久我が待っていることを伝えた。露骨に桜の雰囲気が歪んで嫌そうな空気が漂う。立香は苦笑するしかなかった。
「採寸と、シフト調整は他の奴にも関わる話だから、せめてラインでもしてよ」
「わかった。おい」
「うん?」
 すっかり腰を降ろした沖田が桜の方を見上げた。
「お前、クラスのシフトは」
「実行委員権限で無し。でも、姉さん、たぶんクラスのシフト入れないよ。今年は剣道部の出し物に姉さんも参加するから」
「そうなの?」
 立香は瞠目したが、彼らがどんな出し物をするのかという興味が勝って、思わず身を乗り出した。
「ねえ、どんなのやるの、剣道部」
「えーっとね」
「五分経ったよ! 持ち場着いて!」
 ありゃ、時間切れ、と沖田がおどけて言った。
「ま、本番当日、観に来てよ」
「委員長にはラインすると」
「分かった! 練習頑張って!」
 ありがとう、と沖田が手を振った。立香はお邪魔しましたと体育館を後にした。





     ◆     ◆     ◆





「王手」
……はっ!?」
 がた、と椅子が音を立てた。さっきまで余裕綽々と構えていた門脇歩は、血相を変えて将棋盤の上で視線を彷徨わせ、浮いた腰を落ち着かせようとして失敗し、盛大にこけた。
「うわあ!!」
 どんがらがっしゃん。
 思わず目を瞑って顔を背けた冴美は、そんなにショックだったかと半笑いを浮かべた。
「おい、大丈夫か」
「へーきへーき、これぐらいで音を上げるようじゃあこの部活やれてないって……
 うう、と唸って眼鏡の位置を直しながら、歩の目が再度将棋盤の上を舐め回す。冴美は薄く笑ってただじっと待つだけだ。やがて。
……まいりました……
 がくっ、と項垂れて、果てには音を立てて机に額を落とし、歩が投了する。冴美は不敵に笑って見せた。
「やったぜ、二連勝! どうした、調子悪いな?」
「お前、高校上がってからは文芸部だろ!」
「たまにはやってるからな、たまには」
 二人は中学生の時からの知り合いだ。かと言って学校が同じだったわけではない。互いに当時囲碁・将棋部に所属していて、地区大会などで顔を合わせる機会があり、高校受験の志望校が被ったか何かで顔を合わせたなら話をする程度に仲が良かったのだ。
「それに、それを言うなら高校上がってストライド始めたお前がこれだけ指せるんだから大したもんじゃね?」
「負けたら意味ないだろー!! 嫌味かよー!!」
 あっそういやこいつ負けず嫌いだったなちょっとめんどくさい。冴美は思ったことは口に出さず、素直にそう思っただけだってとフォローする。
「ところでお前、他の部員さん達は? ってかクラスの方行かなくていいの? 確かお化け屋敷だろ」
「それを言うならお前のクラスも脱出ゲームだろ? 手伝わなくていいの?」
「それよりも部活のがやばくて」
「進捗は?」
「ダメです」
「後三日しかねーよ!?」
 歩は腹を抱えて爆笑した。冴美は慌てて「文化祭に出す方はもう提出したしなんなら完成本がもう刷れてるんだけど」と付け足す。
「来月の締め切りがな……文化祭翌々日でな……あと五日もねえんだわ……!!」
 手で顔を覆う冴美に、あぁ、と流されかけた歩は、いやいやと首を振った。
「文化祭ある日に原稿するつもりなの?」
「たぶんしない」
「だめじゃん」
「だめだね」
「だめだね、じゃないでしょ!!」
 あひゃひゃひゃひゃ、と歩は再び腹を抱える。校舎から少し距離を置いた場所にある部活棟の狭い一室には、文化祭準備の喧騒は程遠いものだった。
「ひとのこと笑ってる自分はどーなんだよ、スト部なにすんの?」
「ストライドのギミックとかの体験。案外簡単にできるし顧問がずっと居るから、安心して楽しめるよ。暇があったら来なよ」
「えー、うち運動苦手だから行かねえ」
「尚更来いよ笑ってやるから」
「絶対行くかよ。お?」
 ぴろん、と音を立てて将棋盤の横にタイマー代わりとして置いてあったスマホが明るくなる。ラインだ、と冴美は自分のスマホを手に取った。
「あ、もう昼飯の時間だ」
「あ、俺約束あったんだった」
「うちも。じゃぁまた今度な」
「片付けやっとくよ」
「お、悪いな。じゃ」
「おー」
 手を振って、冴美は急いで校舎へ向かった。まずは自分の弁当を回収しなければ。時間は有限なのだ。待たせるとすぐに拗ねるのだから、急がないと。溢れかえる生徒に「うちってこんなに生徒多かったっけ?」と首を傾げながら、冴美は階段を駆け上がった。
 文化祭当日まで、残り二日半。ようやく形になりだした祭に、生徒も職員も、急き立てられるばかりである。
「でもって楽しいから、欲張っちゃうんだよな」
 誰に言うでもなく独り言ちて、冴美は少し浮かれながら、高揚する祭の雰囲気に顔を綻ばせた。
「祭りだ祭りだ!」
 小さな歓声は、生徒達の様々な声に溶けて混ざっていくばかりだった。