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桜霞
2024-04-24 15:07:15
11327文字
Public
【大量クロスオーバー】なにもない清涼学園
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【なに清】八月
※大量クロスオーバー現パロ
※なんでも許せる人向け
【登場人物】
片岡桜:オシャレ苦手。シンプルイズベスト。
藤井冴美:一番総司を遊びに誘いやすい立場が欲しかった。
沖田総司:気付いちゃったからどうにもできなかった。
遠山和葉(名探偵コナン):この後蘭ちゃん達と遊ぶ。
服部平次:自覚済み。
斎藤一:総司が冴美と仲良くしてるらしいことを珍しいなと思っている。
山南敬助:若者の青春には巻き込まれたくないタイプ。
お師匠:いろいろと秘密がある。
原田左之助:いろいろと迷っている。
1
2
闇の中に、橙色の光が薄い輪郭を持って連なっている。
砂浜沿いに連なっている出店の明かりだ。寄せては返る波の音が人の賑わいとぶつかり合って、不協和音を奏でる。
淡い色の浴衣を着た桜は一人だった。手には綿菓子と、水風船がぶら下がっている。もう片方の手には、貴重品を入れた小さな手提げ。髪は珍しく後頭部の上の方で簪を使ってひとまとめにし、下駄の中には砂がさらさらと流れ入っては滑り落ちていた。
水際だからか、そこまで暑くはない。今日も明日も熱帯夜だと天気予報で言っていた気はするが、桜は首元を吹き抜けた風に少しだけ身震いした。
「おねーさん、ひとり?」
余りにも軽い声がかけられる。無視をしようとして、目の前に回りこまれ、桜は思わず立ち止まってしまった。
にやにや、けらけら、笑いながら、数人の男どもはじりじりと距離を詰めてくる。桜は帯をほどきたい衝動にかられた。このままでは動きにくい。手を出された時に反撃できない。
だって、せっかく気恥ずかしいのを我慢して可愛くしたのに、それが乱れてしまうような動きをしたくない。
普段の行いが災いして、桜はオンナノコとして扱われることは少ない。桜はそれでいいと思っているが、たまには可愛いともてはやされたい欲が無いでは無い。それに、似合っていると言ってくれたひとがいた。いろいろなことを教えてくれたお師匠も、何かそれらしいものを着ている時は、それらしく振る舞わなければ台無しになると何度も言っていた。
だから桜は、可愛く着飾った日は、そういう、普段はやっているような、武力行使的なそれをしないと決めているのだ。
しかし。
「なぁ、この後暇?」
「よければ俺達と遊ぼうよ」
くすくす、にやにや。桜は思わず顔をしかめて、綿菓子の箸を握る手に力を込めた。
しかし、なめられているのは、気に食わない。綿菓子はもうすぐ食べ終わる。それに、どうせこの後もずっとひとりだ。だったら別に、いいだろう。
桜は眦を吊り上げて、ばくりと大きく口を開け、綿菓子を頬張った。本当は、味わって食べたかったのに。
無性に苛立って、何故だか悲しくて、桜はやけくそになって手を掴もうとする男の腕を払った。それが伸ばされた瞬間、凄まじい嫌悪感や感じたことのない種類の恐怖がせりあがってきて、桜は内心で途方に暮れた。どうしたらいいのかさっぱり分からない。こういう男どものあしらい方は、師匠は教えてくれなかった。
「桜」
反射的に、声のした方へ顔を向ける。
「友達か?」
丈の若干合わない浴衣を着こなした原田が、ゆったりとした足取りで近づいてくる。桜は小刻みに首を横に振った。
「そうか」
原田の視線が男どもに移る。彼らは小声で「なに、連れ?」「男いんのかよ」などと囁き合い、果てには舌打ちなどもしていたが、それでも大きな声で原田に突っかかるような事はなかった。
「邪魔して悪かったな。だが、こっちも姉さんを呼んで来いって上に言われててよ」
原田の言葉に、え、と男どもは一斉に身を引いた。
ねえさん。上。まさか、そっちのひとだったのか。原田はひとのいい笑みを浮かべたまま、もういいか? などと小首を傾げている。しかし、その目は笑っていない。
「あ、はい」
「どうぞ、あの、すんませんっした」
「いやいや、それじゃあな」
「ウッス」
あっという間に、男どもが離れていく。やべーよ、マジやべーよなどという悲鳴のような浮かれた声が桜達の所まで響いてきていたが、桜の目は据わっていた。原田は緩む頬をついに堪えきれず、俯いて肩を震わせた。
「
……
おい」
「そんな、ドスの効いた声出すなよ、っくく、せっかく可愛くしてんのに、台無しだぜ、っふ、くく、」
ほら顔も、と原田が桜の頬をつまんだ。桜は容赦なくその手を叩き落とした。
「いって! せっかく助けてやったのに」
「なにが姉さんか」
「なんだよ、なにも間違ったことは言ってねえじゃねえか。お前は俺の姉弟子だろ、姉さん」
「
……
ふん」
原田は、姉さん、の部分をことさら強調して勿体つけて言った。事実、今二人が所属している道場においては桜の方が姉弟子なので、反論の余地がない桜は、何も言えなくなってそっぽを向く。大口で綿菓子を頬張ろうとして、やめた。
小さな一口で綿菓子を口に含む桜を見て、原田は苦笑し、嘆息した。
「上が呼んでるってのも本当だぜ。ほら、小遣い。師匠から」
折りたたまれた千円札数枚を差し出され、桜は瞬きしてそれを受け取った。
「そろそろ小腹も減っただろ。なんか買いながら、師匠の所に戻るか。沖田と藤井はどうした?」
「二人でどっか行った」
「そうか。ま、野暮はやめとくか」
言って、原田が歩きだす。桜は少々驚いて、彼の後ろに続いた。
「なんだ、気付いてたのか」
「まぁな」
彼はふと微笑したようだった。桜はもそもそと綿菓子を食べながら、居並ぶ露店を眺める。金魚すくい、射的、焼きそば、たこ焼き、輪投げ、長蛇の列はかき氷だろうか。
「ま、決定打はあれだ。お前、今日、師匠と一緒に残ろうとしただろ」
「、」
気付かれていると微塵も思わなかった桜は、まじまじと原田を見つめた。昔から思っていたことだが、改めて、この男、よく人を見ているなと思い知らされる。
「藤井も照れ隠しがあからさまだったしなぁ。総司はここんとこ機嫌がいいし」
桜は原田の言葉に感心しながらスーパーボール掬いを覗き込んだ。桜が好むような柄は、ぱっと見ただけではないように思われたので、すぐさま顔をひっこめる。
「そろそろ二ヶ月と見た」
「言い方が妊娠経過みたいだ」
「おっ、当たりか」
当たっているけれども。桜は呆れから嘆息した。綿菓子は最後の一口になろうとしていた。
「桜はどうなんだ。彼氏とか、好きなやつとか」
「そういうの、やだ」
「わかったわかった、けどまぁ、さっきみたいな事がまた起こらんとは限らんだろう。お前がただじゃ転ばねえってのは身に染みてよく分かっちゃいるが」
桜はそれならばいい、という風に鼻を鳴らした。簡易的なゴミ箱に、綿菓子の主柱だった割り箸を捨てる。
原田の言わんとすることは桜も承知していた。こういう誰もが浮かれる場所で、世間体的に桜の身を守ってくれるひとを作れと彼は言っているのだ。
言外に、俺はそういうことはしない、と言っている風にも聞こえて、桜は少しだけ胸が苦しくなった。うんうんと数分唸って、これが寂しいという感情なのではないかと当たりをつける。
幼い頃なら、素直にその手に縋り付いて、なんなら背によじ登ることだってできた。けれども桜は成長した。背もすらりと伸びて、大学生に、大人に間違われることも増えた。
同時に原田の立場も理解した。彼は教師で、自分は生徒だ。先程は姉弟子と弟弟子という関係性を使ったが、世間はきっとそちらより教師と生徒という関係性を重視するだろう。
桜はそれが嫌だった。彼が教師などではなかったら、きっと、この旅行も、もっと素直に楽しめたのに、と思う。
でも、彼が困ってしまうから、我慢する。桜が我儘を言えば、原田はきっと桜の事を気遣って困ったと眉を寄せるだろう。そんな顔をさせたいわけではないから、桜は息を詰めて、手を握ってほしいというおねだりを我慢した。
「桜?」
黙りこくった桜を訝しんだのか、原田が足を止めてこちらを顧みる。桜は「なに」と何でもない風を装って、原田の横をゆっくりと通り過ぎた。
「
……
いや、なんでも。
……
小遣い、使わねえのか?」
「お腹減ってない」
「そうなのか」
「帯が苦しい」
「あぁ
……
後で師匠に緩めてもらえ」
「うん」
他愛のない話が続いた。原田が声をかけて、桜が言葉少なに返す。そっけないと常ならば受け取られるそれを、原田は優しく笑って桜の言わんとすることを正しく読み取ってくれる。
真綿の鎖で首を絞められているかのようだった。近藤が引き当てた商店街の団体旅行福引券につられてこんな所に来るんじゃなかった。そう思う反面、いや来ない方が後悔していたかもしれぬという思いは、心の中で酷い軋轢を生んだ。
連なる屋台が途切れると、思い思いに腰かける人々が増えていった。これから海上で花火が打ち上げられるのだ。原田がすいすいと人の波を避けていく。すぐに浴衣姿の師匠を見つけて、桜は彼女に駆け寄ってブルーシートの上に膝を着いた。
「お師匠」
「あぁ、おかえり。なんだ、何も買ってこなかったの」
「帯が苦しい」
「あぁ、ちょうどいいのがなかったからねェ。でもそれ以上はなぁ。あとちょっとだから、我慢しなさい」
桜は唇を尖らせた。どっこいせ、と原田が腰を降ろす。近くで近藤たちがビールを片手に賑やかにしていた。
「あんた、あっちに行かないでいいのかい」
「あぁ、スペース無さそうだしな。それに、人に疲れた」
「若いのに何を言ってんだか」
原田は聞こえないふりをしてそっぽを向いた。
「まぁでも、これに気付かないようじゃねぇ」
言って、彼女は桜の簪に手を伸ばした。多少乱れたそれを、器用にまとめなおす。「変なのに絡まれただろう、安い煙草の匂いがする」師匠が顔をしかめたのが分かって、桜は視線を彷徨わせた。
「ひとりでいたね?」
「でも、左之さんが助けてくれたから」
「あら、そう」
左之さん、と呼ばれたことに、彼は少しだけ肩を揺らして反応した。けれどそれだけだった。
「そういうやつらに囲まれたら、惚れさせても面倒だから、時間と場所だけ適当にでっちあげて、後は放っとけばいい」
「じゃあ、今度からそうする」
「うん、よろしい」
ひゅるる、と独特の高い音が響く。ぱ、と夜空に大輪の花が咲いた。「おぉ、」歓声は、遅れて響いた爆発音にかき消された。
いくつもの色鮮やかな炎の花が咲く。人々の顔がそれに照らされて、明滅する。きらきらと夜闇に溶けて消えるそれは、どこかもの悲しさを覚えさせる。
「そう言えば、あんた、あの子たちはどうしたの」
花火の大音量の合間に師匠が訊ねた人物を総司と冴美だと正しく把握した桜は、「野暮はしない」とだけ返した。
彼女はあらそう、とだけ瞬いて、すぐに花火に視線を戻した。夜空を見上げるその表情はどこか遠くを見ていて苦しそうだったので、桜は彼女の薄い肩に頭をもたせかけた。
「ん?」
途端にゆるりと微笑んだ彼女が、桜を見やる。桜は甘えるように小さく首を振って、満足そうに口の端を少しだけ持ち上げた。
花火が照らす。
音が、色が、鮮やかなそれが、すべてに衝撃を与えて、かき混ぜて、攫って、そして消えて往く。
誰からともなく、息をつく。
それは感嘆であり、安堵であり、切なさであった。
炎の華が、夜空で踊っていた。
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