【なに清】五月

※大量クロスオーバー現パロ
※人によっては吐き気を催す
※大量地雷生産機。爆散しない自信のある人だけ読んでください。

【登場人物】
片岡桜:人を殺せる自覚がある。
沖田総司:体育祭はゆるくやる派。放課後によく行くゲーセンで冴美に音ゲーを教えてもらった。
藤井冴美:体育祭は卓球に参加。最近よく総司とゲーセンで遊んでいる。総司が取ってくれるクレーンゲームの景品が地味に増えている。
柊京一朗:絶対勝ちたい。
山崎烝(薄桜鬼):勝てないと分かっていて、それでも勝ちたい。勝てないことは勝負に出ない理由にはならない。
山南敬介(薄桜鬼):清涼学園保健医。剣道部とは旧知の中。
原田左之助:桜さんの体力が切れて寝落ちるところに遭遇しがち。
五本刀時雨:剣道部はちょっと肌に合わない。

服部平次(コナン):西の高校生探偵。

文芸部部長(女性):やべーやつ。美人。




 新しい季節が始まって、一ヶ月が経った。
 桜の花はすっかり散って、新緑のみずみずしい青が初夏の気配を感じさせる季節へと移り変わっていく。油断をすればまだまだ肌寒いが、少し体を動かせばすぐに汗が流れた。
 柊京一郎は、こめかみを伝った汗を丁寧に拭った。意識して深呼吸を繰り返し、これから戦う場所をしっかりと見定める。
 人口密度とそれに伴う熱気で、体育館の室内気温は上昇していた。道着と肌の間から汗が蒸発しているのが分かる程ではないが、体操着のシャツをぱたぱたと動かして風を通している者も見受けられる。
 京一郎は拳を作っていた諸手を開き、そしてまた閉じた。
 体育館内の熱気とは打って変わって、体の芯は冷え切っていた。
 審判を担当する教員のホイッスルが鋭く響く。両者前へ、という教員の声は観客の拍手と歓声にかき消された。
 目の前に立つのは見慣れた体操着と言う見慣れない格好をしている見知った顔だった。直接言葉を交わした数こそ少ないが、彼女の強さを、京一郎は身をもってよく知っている。
「礼!」
「お願いします」
 頭を下げる。彼女も静かに頭を垂れた。
『総合部門、一次予選第四試合、柊京一郎対片岡桜』
 アナウンスが朗々と響いた。互いに距離を取り、京一郎は正眼に木刀を構えた。対する桜は、模造槍を構え、腰を低く落とす。彼女は速攻で片をつけにくるつもりだ、と京一郎は木刀を握る手に入ってる不要な力を意識して抜いた。
 ホイッスルが鳴り響く。半瞬後、目前に模造槍の先鋒が迫った。





    ◆     ◆     ◆





 五月のゴールデンウィークが過ぎた後、清涼学園高等部では体育祭が催される。学年や男女差など関係なく、部門ごとに全ての生徒がなんらかの種目に参加し、勝敗によって変わるポイント数を競う学年、クラス別対抗戦であった。
 競技種目がかなり多いため、クラスによって参加する種目に差が出るところが特徴的と言える。個々人で得意なスポーツがある生徒が多いクラスは個人競技への出場数を増やしてポイントを稼ぎ、そうでないクラスは団体戦で得失点差によるポイントで差を埋めようと奮戦する。
 それぞれのクラスに固有の戦略があり、皆が平等に優勝を狙える位置にいる。毎年この体育祭は活気づいて生徒たちにも人気の催し物だが、その裏で体育祭実行委員会と保健委員会は目の回るような忙しさをどうにか捌いてしのいでいた。何せ、統一性が皆無なので、それぞれの競技で柔軟な対応が求められる上、毎年必ず、獲得ポイント数の集計でミスが発生するのだ。人間、しかも経験の浅い高校生がやることなので是非も無い。
 加えてその忙しさたるや、それぞれの委員会に属する生徒は参加競技数を普通の生徒の半数に減らされる程である。一般生徒は基本的に二競技への出場が可能だが、特に保健委員会員は人数が少ないので、団体競技への出場も許可されない場合が多かった。
 山崎烝は保健委員会委員長だ。普段は山南が怪しい薬を生徒に勧めようとするのを止める仕事を主にこなしているが、今回ばかりは怪我を負った生徒の応急処置に奔走する。
 毎回各競技で怪我人が続出するわけではないが、なんだかんだ言って、毎年この時期の備品消費が一番激しい。山崎自身も何度か救急鞄を持って学内を走り回った。
 しかしその山崎も、今回ばかりは負傷する側に回る事になった。
 昨年の雪辱を晴らすため、山崎は今年も総合部門へと出場した。敵は誰あろう、最強の名をほしいままにしている片岡桜、そのひとである。
「先輩、後は任せました」
「あぁ、任された」
 京一郎は、木刀を弾かれ、脇腹に鋭い突きを一つ喰らい、それから戦闘不能になった。四肢に力は漲るものの、それらを繋ぐ中心の一番大切な所が機能不全を起こしたようだった。結局京一郎は空回り、立ち上がろうとして失敗し、審判に戦闘続行不可能と判断され、敗北した。
 山崎は京一郎の手当てを終えると、呼吸を整えて、しっかりと桜を見据えた。
「今年こそ、あなたを越えます」
 朗々とした声は、存外よく響いた。「よく言った!」「やってやれ!」数々の声援が山崎の背中を押す。
 桜はたった一言、山崎の言葉を意にも介さず、短く返すだけにとどまった。
「おう、諦めろ」
 試合開始のホイッスルが空を割いた。





    ◆     ◆     ◆





『総合部門、優勝、片岡桜。おめでとう』
 審判を担当していた教員が賞状を桜に手渡し、桜が恭しくそれを受け取って、すべての競技は終了した。
『十分後、閉会式ならびに結果発表を行います。生徒の皆さんは体育館に集合してください』
 淡々としたアナウンスが響く中、桜は体育館を後にした。それを見かけた総司と冴美は、顔を見合わせてからその後を追いかけた。
 桜は、総合部門で彼女にこてんぱんにされた選手達が応急手当てを受け、休んでいる保健室の扉を開けた。その表情は勝利の喜びに満ちているとは言い難く、寧ろ疲労がにじんでおり、その目は今にも閉じられそうなほど、眠たげだった。
「どうされました?」
 山南が顔を上げ、要件を問う。
 後から追いついた総司がおそらく間違ってはいないだろう用向きを伝えるより先に桜の体がゆらりと傾いだ。
 生徒がどよめくが、幸運だったのは出入口付近に原田左之助がいたことだった。彼は決勝戦で桜と真正面からぶつかった時雨の手当てをするためにしゃがみこんでいた。反射的に伸ばされた腕が桜を抱きとめる。
「あー……
 総司は伸ばした腕を引っ込めると、「山南さん」保健室の主に声をかけた。
「姉さん、今年もトライアスロンに参加してさ。たぶん、体力が限界なんだと思う」
 総司の言う通り、桜は規則的な寝息を立てていた。目立った外傷も見当たらず、左之はほっと息をついて、内心で胸を撫でおろした。
「分かりました。原田君、そちらの空いているベッドに彼女を運んでください」
 ひとつ頷いた山南が指示を出す。おうよ、と一つ返事で桜を横抱きにした左之は、いつになく人口密度が高い保健室の間を縫うように進み、そっと桜をベッドに横たえた。桜が手に握っていた賞状を抜き取り、毛布を体に被せてやる。
「結局ぶっ倒れやがって」
 小さな独白は誰に拾われることもなかった。カーテンを閉め、左之は時雨の手当てに戻った。入れ替わるようにして、山南が桜の様子を見にカーテンの向こう側に消える。
 トライアスロン、と誰かが呟いた。そういえば、そんな競技が種目一覧の隅に記載されていたような。誰も参加するまいと笑い飛ばしていたのは、はてクラスメイトの誰だったか。
 そんな種目に参加したのか。そして参加したうえで優勝を掻っ攫っていったのか。
 生徒たちが一様に遠くを見はるかす。その様子に苦笑を零しつつ、左之は総司達に向き直った。
「お前ら、後で桜の荷物と着替え、持ってきてくれ」
「いいですよ」
「分かりました」
 総司と冴美は頷いて、失礼しますと体育館に戻っていった。左之は時雨の手当てを再開した。
「お前らも休んだら戻れよ」
……トライアスロン……
「ん?」
 自分に近いところからの呟きに、手当てを終えて腰を上げようとしていた左之はその動きを止めた。
……あいつ……化け物……?」
 時雨は形容しがたい表情でどこか虚空を見つめていた。その気持ちがなんとなく分かる左之は、優しい微笑を浮かべ、時雨の頭をかき混ぜた。
「ほら、結果だけでもちゃんと聞いて来い」
 生徒たちがのろのろと動き出す。左之は生徒達を急かして体育館に向かわせると、最後に少しだけカーテンが閉じられているベッドの方を顧みて、自身も保健室を後にした。保健室には、いつもの静けさが唐突に舞い戻ってきたようだった。
 そして左之は最後まで、山南が己の方を窺っている事に気付けなかった。