【なに清】五月

※大量クロスオーバー現パロ
※人によっては吐き気を催す
※大量地雷生産機。爆散しない自信のある人だけ読んでください。

【登場人物】
片岡桜:人を殺せる自覚がある。
沖田総司:体育祭はゆるくやる派。放課後によく行くゲーセンで冴美に音ゲーを教えてもらった。
藤井冴美:体育祭は卓球に参加。最近よく総司とゲーセンで遊んでいる。総司が取ってくれるクレーンゲームの景品が地味に増えている。
柊京一朗:絶対勝ちたい。
山崎烝(薄桜鬼):勝てないと分かっていて、それでも勝ちたい。勝てないことは勝負に出ない理由にはならない。
山南敬介(薄桜鬼):清涼学園保健医。剣道部とは旧知の中。
原田左之助:桜さんの体力が切れて寝落ちるところに遭遇しがち。
五本刀時雨:剣道部はちょっと肌に合わない。

服部平次(コナン):西の高校生探偵。

文芸部部長(女性):やべーやつ。美人。


 日本で働く社会人にとっては滅多にない長期休暇が明けた。終わったと表現した方が良いかもしれない。
 藤井冴美は約一週間ぶりの早起きで少々寝不足気味の体を動かして、いつも通り、自分の教室へ登校した。久々に感じる授業は、ものの十分で慣れた感覚を取り戻した。日常に戻っていく感覚が強まるにつれて、気が緩む。
 眠気と戦いながら午前中の授業を終えた冴美は、昼食を入れてある小さな布製の手提げを持って席を立とうとして、立ち止まった。
「あ、そうだ、土産」
 この連休で、清涼学園高等部文芸部は合宿に繰り出した。所謂取材旅行というやつである。部長が何も知らせずに部員達に「今旅行に行くならどこへ行って何がしたいか」を決めさせて、ほぼひとりで計画し、予算をやりくりし、手続きやらなにやらを済ませて、顧問の太宰をひっつかみ、決行した。
 その手腕を目の当たりにした冴美は、この人この国の官僚のトップになってくれねぇかなと淡い期待をもって部長を見やった。彼女は率先して取材旅行を楽しんでいた。それはストレスを発散させているようにも見えた。
 鞄の中に買った時のまま突っ込んだご当地の菓子詰め合わせセットを取り出し、教室を出る。二つ隣のクラスに後方の扉からお邪魔して、目当ての席に向かう。「桜」呼びかけると、彼女は座ったまま無言でエビのように反りかえってこちらを見やった。
「おはよー」
「はよ」
 隣に移動すると、反動をつけずに起き上がる。純粋な腹筋の力だ。強い。冴美はビニール袋から菓子詰め合わせセットの箱をそのまま取り出した。
「これ、合宿の土産」
 一個もらってくれ、と蓋を開けると、桜はぽん、と拳で手を叩いてがさごそと鞄を漁りだした。
 そう言えば、といった風情だったがどうしたのだろうか。数泊置いて桜が取り出したのは、可愛らし女の子が眠たそうにうつ伏せで寝転がっているアクリルキーホルダーだった。デフォルメされているイラストは可愛らしく、頭にリンゴの飾りを被っている。衣装はフリルがふんだんにあしらわれていて、とても女子らしかった。
……なにこれ」
「土産」
「お、おう……ありがとう……
 正直こういう可愛いものは、ちょっと恥ずかしいため、あまり好まないのを桜は知っているはずだ。冴美は怪訝そうに眉をひそめながら戸惑いがちに言った。
「これ、どこに着ければいいと思う?」
「困ってればいい」
「つまりうちの困る顔が見たかったと」
 桜が菓子をひとつ取り上げたのを確認して、冴美は箱に蓋をし、ビニール袋にしまった。
「そんな風に土産を選ぶんじゃありません!!! それは嫌がらせって言うの!!!!!!」
 桜の知ってる、という声は机を力いっぱい叩く音にかき消された。
「尚更性質悪ぃわ!!!!」
 冴美が吠える。桜は涼しい顔で菓子を頬張った。冴美は嘆息して近くの席を拝借した。
「ツイッターになかなか浮上してねぇと思ったら、お前も旅行に行ってたのか」
「も?」
「うちは文芸部の合宿」
……
……なんだよ、どうしたんだよ」
 途端に桜の纏う雰囲気が険を増した。冴美はそろそろ飯にしようと、桜の机に弁当を乗せた。
「ただいま~」
 間延びした声に、二人の視線が吸い寄せられる。総司は惣菜パンを何個か桜の机に転がして、至極当然のように桜に向き合う形で腰を降ろした。
「久しぶり、冴美ちゃん」
「久しぶり。あ、沖田も、これ、土産」
「いいの? ありがとう」
 総菜パンより先に、総司は菓子を頬張った。冴美は詰め合わせセットを片付けた後、弁当を開ける。桜も弁当を取り出した。
「冴美ちゃん、お土産ってことは、ゴールデンウィーク中にどっか行ったの?」
「うん、文芸部の合宿。と言っても、取材旅行みたいなもんだけど……どうした、二人とも」
 先に視線を総司から逸らしたのは桜だった。大口を開けて、おかずを口に含み、栗鼠のように口を膨らませる。その様子はどことなく不機嫌に見えた。
……僕らも行ったんだよね、合宿」
 総菜パンを頬張りながら、総司が言った。「え、そうなの?」冴美は瞠目した。
「桜、剣道部に入部したの?」
「しない」
「ん?」
 冴美はどういうことだと総司を見やった。苦笑した彼は、「実はね」と咀嚼したものを飲み込みながら話を始めた。
「剣道部で、大阪の改方学園剣道部と合同合宿を長野でやったんだよ」
「あぁ、それで」
 冴美は手提げの横に置いてある可愛らしいアクリルキーホルダーに視線を移した。長野と言えばプルーンやブドウなどが有名だが信州リンゴも立派なブランドの一つである。おそらくキーホルダーの彼女はリンゴにまつわるキャラクターなのかも知れない。
「うん、それで、そこに姉さんを誘拐したんだよ」
「んー?」
 冴美は弁当を食べる手を止めてまじまじと総司を見やった。総司は生ぬるい笑みを浮かべてゆるりと頷いて見せた。なんともわざとらしいが様になっている。これだからイケメンは。
 それにしても桜を誘拐とは。あの桜を。命知らずなことを剣道部もするものだ。今ここで呑気に二つ目の総菜パンに手を伸ばしているのだから、その誘拐とやらは成功したのだろう。
「よく生きてるな?」
「僕もそう思う」
「どの口が」
 目に見えぬ速さで、桜の箸が総司のカツサンドのカツに伸びる。総司は凄まじい握力でもってカツが奪われることを阻止している。長くて羨ましくなるような指が小刻みに震え、手の甲には血管が浮き出ていた。
……で? 合宿で何があったんだよ、沖田」
「ちょっと僕いまめちゃくちゃ真剣に戦ってるから待って冴美ちゃん」
「なーなーおきたーつづきー」
「さ え み ち ゃ ん」
 がたがたと総司の座る椅子を揺らす。結局、総司が必死に踏ん張ったにも関わらず、二つあるカツのうち一つが桜の胃に収まることとなった。
「冴美ちゃん、食の恨みは深いんだよ」
「知ってる。だとしてもうちは桜を取る」
 いつになく真剣な表情と声音の総司に、冴美も至極真面目に返した。
「姉さん、どや顔してるけどこれ友情じゃないからね。姉さんの仕返しが怖いだけだからね!!」
 ちなみに、桜は眉一つ動かしていない。冴美は「何言ってるんだか」とわざとらしく鼻で笑って見せた。普段滅多にこんな立ち位置に収まることができないため、冴美はこの状況を心の底から楽しんでいた。
「で、なんで誘拐なんてしたんだよ」
「だってそうでもしなきゃ来てくれないじゃん」
「あぁ……
 そうかも、と頷いた冴美の弁当箱から卵焼きがひとつ瞬き一つで消え失せた。冴美の悲鳴など知ったことかと言う風に、桜は冴美に背を向けた。わかりやすく拗ねている。
 桜は剣道部と懇意だが、決して部員ではない。というかむしろ帰宅部である。ゴールデンウィークはぐだぐだするのだと意気込んでいたから、それが第三者に邪魔をされる形になって、不機嫌に拍車がかかったらしかった。
「でも、なんでそんな強引な手段に出たんだ? 土方先生、そういうのちゃんとするひとだろ?」
「まぁ土方さんはちゃんとしようとしたんだけどね。アパートの大家さんで保護者代わりの晴明さんが僕の誘拐するっていう案に悪ノリしちゃって」
「発案者お前かよ」
「でも、そもそもの原因は直前になって相懸り稽古したいって言いだした改方が悪いよ。あと根負けした土方さん」
「そうなの?」
 冴美は素直に驚いた。土方を根負けに追い込むとはさすが関西人。偏見だが、やはり口、というよりは喋りが達者なのだろう。
 しかし相懸り稽古ならば仕方がないとも言える。清涼学園ではバトルロワイヤルの体を取るそれは、桜がいなければ終わりが来ない。
 剣道の試合におけるルールやら規則やらがまるっと無視される上、彼らは防具を身に着けない。ひとつ加減を誤れば即大怪我に繋がるし、土方ら顧問は現役男子高校生のバトルロワイヤルを圧倒的力量差で沈めることはできないのが現実だった。
 だから相懸り稽古を行う際は桜が呼ばれる。女子高生にあるまじき強さを誇る桜は、引導役としてよく剣道部に顔を出していた。
「で、あんまり大きい声で言えないんだけど」
「うん」
「向こうで傷害事件が起こって」
「!?」
 冴美は思わずギョッと目を剥いて身を引いた。総司はあくまでも普段通りに言葉を続ける。
「それに僕らが巻き込まれたんだよ」
 ほら、凶器になる木刀とか、いっぱいあるし。総司はひょいと肩を竦めたが、冴美は瞠目したまましばし固まった。
「で、比較的ひとりで行動してた姉さんが疑われてさ。あと別でサボってた改方の主将」
「あぁ……
 アリバイ的な意味で、と頷いた冴美に、総司が遠くを見はるかす。
「いやあ面白かったよね、姉さんが容疑者として巻き込まれたって聞いた時の皆の反応、『とうとうやったか』だったもんねぇ」
「信用の無さ!!」
「あの時初めて心が一つになったよ」
「そんなことで一つにするなよ!! 桜が手を出すのは信頼関係が出来上がってるからだろ!! いや手を出してほしいわけじゃないけど!! 暴力反対だけども!!」
「まぁそんなだから擁護どころか墓穴しか掘れないじゃん? 土方さんも頭抱えてた」
「そりゃそうでしょうね!!」
 冴美も思わず顔を覆った。今度土方先生に胃薬を差し入れよう。放課後になって忘れてなかったら。顔を上げた冴美を見て、総司が「で、」と続きを話し始める。その口にはスターバックスコーヒーのカフェオレのストローが咥えられていた。
「現場検証とか再現に立ち会った……今回は警部さんが優秀だったのかな? 現場状況再現した時に余りにも被害者の言うことが二転三転するもんだから、すぐに解放されてね。というか手口が姉さんにしては生ぬるすぎてね」
「お前ね……
 では改方学園の主将かと注目が移ったが、彼は彼自身の力で被害者の自作自演であるという証拠をつかみ取ってきたのだという。
 曰く、過度なストレスから突発的に事を起こしてしまったらしい。酷い混乱状況で自失していたため、まずは精神病棟に送られるという。
「姉さんは余りの力量差に警部がこりゃ違うってすぐに外してくれたけど、服部君、同じように外れられたはずなのに、事件解決しようと奔走してたからなぁ」
 さすが西の高校生探偵、と総司がぼやく。
 改方学園。西の高校生探偵。服部。
 冴美の中でふわふわと意味深長な単語が飛び交った。
……誰?」
 首を傾げた冴美に、桜がようやくこちらを向く。総司もゆるりと視線を冴美に据えて、不意に吹き出して俯き、肩を震わせた。
「えっなに? 有名人なの、そいつ」
「知らんでいい」
「うん」
 喉の奥で笑っていた総司が、顔を上げて、眩しそうに目を細める。
「冴美ちゃんは、そのままの冴美ちゃんでいてね」
「ん? うん」
 わざわざ言われなくてもそのつもりだけど。戸惑いがちに告げられた言葉に、総司は良かったと可笑しそうに、けれどどこか晴れやかに笑った。
 桜の機嫌もようやく落ち着いたようである。冴美は見知らぬ有名人よりも、その有名人がゴールデンウィーク中の合宿で清涼学園剣道部と何やら関わりを持ったらしいことよりも、桜の機嫌の方が重要だったので、ほっと胸をなでおろした。
 昼休みは、まだあと少し残っていた。桜が椅子に座りなおす。冴美は取材旅行で起こった面白おかしい出来事でも気分転換に話すかと、数日前に想いを巡らせたのだった。